第六十一話
翌日、朝起きて少ししてから早速サリムの街に行こうとすると
「少し落ち着いたらどうですか?
そんなに急いでもサリム子爵とすぐ会えるとは限りませんよ?」
と窘められた。
「いや、サリムの街に行く前にギルドに寄ってみようと思って。
昨日いつもと同じくらいの時間に行ったら(もう依頼書がない)って受付の女性が言ってたでしょ?
だからどのくらいで依頼書が無くなるのか、確認してみたくて」
と言いながらアートを出てギルドに向かう。
ギルドに到着し、早速依頼書が貼られている掲示板に行ってみるとかなりの数の冒険者でごった返していた。
「何だこの人数!バルシス王国のドラゴン騒ぎの翌日の時より多いぞ!」
あまりの人数にあっけにとられていると所長が降りてきて
「ああ、アイカワさんか。おはよう。早速依頼を受けに来たのかね?」
と聞かれ
「いえ今日はそういうつもりではないのですが、昨日受付で早い時間に依頼書が無くなるって聞いたのでどれくらい早いか確かめに来たんですが、いつもこんな感じなんですか?」
と返すと
「ああ、毎日こんな感じだよ。
純粋に冒険者として依頼を受けたい者と、ギャンブルで一発当てる為の資金を稼ぎたい者が集まっているよ。
まあ、大半は後者だろうがな」
と所長も呆れ顔だ。
確かによく見てみると、半分以上の冒険者の目が血走っているようにも見える。
大丈夫か?なんかギルド内の空気が殺伐としている感じがするぞ・・・
なんて思っていると
「まあ、アイカワさんもああなりたくなかったら、ギャンブルなんかに手を出さない事だな。
お金の呪縛に縛られる人生は大変だぞ~」
と所長が俺の方にポンと手を乗せて笑いながら言う。
「ははは、肝に銘じておきます」
と俺は苦笑いを浮かべる。
「あ、そうだ。サリムの街へどう行けばいいか教えてもらいたいんですが・・・」
と聞くと
「サリムの街だったら、この大通りの突き当りを右に曲がってまっすぐ行けば着くよ」
と教えて貰った。
「ありがとうございます。それではこれで」
と言い、ギルドを後にする。
教えて貰った通りの道を歩いている途中
「でも本当に凄かったなぁ、あの人数。
あんな人数が毎日押し寄せるんじゃ、受付の女性が言ってた通り午前中に依頼書が無くなる訳だ」
と言うと
「確かに凄い人数でしたね。
この分だとこの街で依頼を受けるのは止めておいた方が、いや、受けること自体が困難かもしれませんね」
とアイが返す。
「そうだなぁ。
毎朝あの人達と依頼書の争奪戦に参加するより、さっさと他の街の情報を仕入れてそっちに移った方が懸命かもしれないな。
あの争奪戦をするだけで、1日分の体力を使い果たしてしまいそうだよ」
しかも大半は目が血走っていたから、下手な事すると何をされるか分かったもんじゃない。
あの目は今まで相当な額をギャンブルにツッコんできたんだろうな、きっと。
アイと雑談をしながら順調に歩いて行くと次第と住宅街に入っていく。
取り敢えず何かお店無いかな?と思い探してみたが流石一大農産地と言うべきか、田舎だからと言うべきか、ほとんど見当たらなかった。
やっと見つけたと思っても、地元の人達が井戸端会議を長時間しているような感じで、とても外部から来た自分が入る隙が無い。
「あ~、こんな感じか~。
なんか前の世界で住んでいた場所に似てるなぁ~」
田舎で、ある程度地域のコミュニティの繋がりが強いは世界が違ってもどこも同じなんだなぁ。
まあ、俺はそういう強すぎるヨコやタテの繋がりが凄い苦手なんだけど・・・
それにしても参ったなぁ、ここまでお店が無いとなると自分で素材となる革を探す事も出来ないなぁ。
ひとまずサリム子爵のお屋敷を探してみるか。
街を更に散策していると街の警備を担当している駐屯所を見つけた。
ここで子爵のお屋敷について聞いてみるか。
駐屯所の中にいる数人いる兵士の1人に
「あの~、ちょっとお聞きしたい事があるんですけど・・・」
と話しかけると
「はい、なんで・・・あ、貴方は!」
と話しかけた兵士が驚いた表情でこちらを見る。
「え?え?」
と俺も驚くと
「確かサリム子爵を助けて頂いた魔導士の方ですよね?
あの時治療魔法で助けた貰った者です!」
あの時の兵士か!てかよく見るとあの時いたメンバーが全員いるじゃねぇか!
「あ~、あの時の方!その後どうです?痛みとか残ってませんか?」
と聞くと
「傷跡は残りましたが、痛み等は全然ありません。それより、こんな場所で何を?」
なんて言おうかな。
(サリム子爵に最高級の革を貰いに来ました!」
なんて言えないしな。
まあ、取り敢えず
「いや、せっかくこれだけ大きな国に来たから依頼を受ける前に、色々見て回ろうかなと思って」
と言うと
「こんな農業しかない場所に来たって何もありませんよ。
ラリムの街みたいな歓楽街じゃないんだから~」
と笑って返された。
「あ、折角だからサリム子爵のお屋敷に案内しますよ。お会いになっていって下さい」
やった。話が早い。
「では、お言葉に甘えて」
と言うと早速お屋敷まで案内してくれた。
「ここがサリム子爵のお屋敷です。少々お待ちください」
兵士がそう言うと正面玄関の扉に付いているノックする為の輪っか(と言えば分かるだろうか)
をトントンと強めに叩くと、執事らしき人が出てきて兵士と軽くやり取りをすると
「少々お待ちください」
と言って奥へ戻る。
少し待つと再び扉が開いて
「こちらへどうぞ」
と中に案内されると兵士と一緒に応接間に案内される。
流石にキリアナ王国やバルシス王国のお城ほどの豪華さは無いが、それでもやはり貴族。
調度品などはそれなりに飾ってある。
偶に(ここまで見栄を張らないといけないものか)と思ってしまう時がある。
昔テレビ番組で(日本国内や海外の億万長者の家に訪問する番組)などがあったがああいう番組を見ていると、やれ超高級ブランドのバッグだとか、やれ超プレミア価格が付いている超高級腕時計だとかを大っぴらにしている金持ちを見ていて子供ながら辟易した記憶がある。
自分の環境を比べて妬み、僻があったからかもしれないが、そんな見栄にお金を使うくらいなら、財団でも作って慈善事業でもすればいいのにと何度思ったか分からない。
そんな昔の記憶を思い出していると扉をノックする音が聞こえて
「失礼するよ。おお、久しぶりですね。あの時はどうも」
と威張る気配もなく自然な感じで子爵が入ってきた。
「こんにちは。アイカワ ユウイチと言います。
あの時は名前も名乗らず申し訳ありませんでした。
本日はいきなり押しかけて申し訳ありません」
と言うと
「気になさらないで下さい。
あの時に来てくださいと言ったのはこちらですから。
さて、あの時のお礼をさせていただきたいのですが、何がよろしいですかな?」
と聞かれ
「では一つお聞きしたいのですが、この地域では鎧に使用される最高級品の革を購入したいと思っているので、販売されている商人の方などを紹介していただけると有難いのですが・・・」
正直無料で譲ってくれと思いながら聞いてみると
「それだけでよろしいのですか?なら私の方からご紹介しましょう。
でも、本当にそれだけでよろしいんですか?」
正直もっと高望みしても良いかな?なんて思ってしまったが
「この街に来た目的の1つに<自分が気に入った革の鎧を手に入れる>でしたので」
隣に座っている兵士が(本気で言ってんのか?、コイツ)みたいな顔をして唖然としていると
「ハッハッハ!そうでしたかそれならば私の方が手配しておきましょう。
その代わり、1つお願いしたい事がありまして・・・」
ん?お願いしたい事?
「娘に魔法を教えて頂きたい!」
・・・・・・はぁぁぁ~~~!?娘に魔法!?子爵の一人娘に!?
兵士と一緒に驚いている俺が
「魔法ですか?ご息女に?いったい何故です?」
当然の質問をすると
「いや、この間助けて貰った姿を見た娘が
(私も魔法を覚えてみたい!)と聞かなくてな。
何も本当に使えるようにしてくれとは言わないよ?
覚える為の真似事をして、自分にはそんな素養が無いと分かればあの子も諦めるだろう」
と苦笑いをしていると
「因みに一つ聞いておきたいのだが、魔法の素養とはどのようなものなのかな?」
いや、創生神様から与えられた物だから、俺だってどうすれば魔法を使えるか分からんわい!
なんて思っていると
「通常は幼い頃に両親が魔導士を招いて試しに修行をして、素養があるかを判断するものですのでやってみないと何とも言えませんね」
とアイが教えてくれた。
「では、お引き受けしましょう。
しかしこう言っては何ですが、仮にお嬢様に素養があった場合どうなさるおつもりなんです?」
まさか住み込みで修行してくれなんて言わないだろうな?
「回復魔法や補助魔法ならいいだろうが、もし攻撃魔法の方を覚えてしまうとなぁ。
まあ、その時はその時で私が何か手を打とう。
素養があったとしても大事な1人娘だ。
冒険者にはさせないし、あの気弱な子がなりたいとも思わないだろう」
大丈夫かなぁ。
案外そんな性格の子が自信をつけると、どんな障害があっても目標に向かって突っ走る傾向があるからなぁ。
まあいいや。
「では、明日からこちらにお伺いすればよろしいですか?」
と日程などを確認しようとすると
「いやいや、カリムの街からここまで通うのは大変だろうから泊まり込みで頼むよ。部屋は用意するから」
泊まり込みですかぁ~~~
「因みにどのくらいの期間の予定ですか?」
まさか1週間とか言わないだろうな・・・
「そうだな・・・素養を見るだけだから明日から2日間お願いするよ。
折角だから今日も泊って行ってくれ」
マジかよ・・・まあいいか。
一緒に来た兵士は帰り、俺は子爵に用意してもらった部屋に案内され泊る事になった。
装備を外して部屋で椅子に座ると
「面白い展開になりましたね」
とアイが話しかけてきた。
「面白いかなぁ?ややこしい事にならないといいけど・・・」
本当に魔法の素養があって、自信をつけて魔導士になりたいなんて言い出したら・・・
それならそれでいいか。
まさか弟子になりたいなんて事にはならないだろう。
その日の夕食は滞在する部屋で頂くことになった。
夕食を堪能して執事の方が食器を片づけた後、少しだけ魔力精錬の修行をした。
ここ最近していなかった、いや魔力が完全に回復していない期間もあったからだ。
修行を終えるとアイに
「ねえアイ、魔力の素養があるかどうかを確かめる方法とかあるの?
例えば俺が初めて炎魔法を使った時みたいに、手をかざして撃ってみるとか?」
そんな事でいきなり出来るものかな?なんて思っていると
「いえ、最初は魔力精錬と同じ様な感じで、目を閉じて意識を集中させて体の中で魔力が作り出せるかどうかをテストするのが一般的です。
少しでも素養があれば、体の中に魔力を集める事が出来るでしょうし、素養が無ければいつまでたっても魔力は作り出す事は出来ません」
との事。
「しかし、見た所ヒルダさんの年齢は10代半ばだと思われますので、魔法の素養を磨くのは難しいと思います」
え?どうゆう事?
「通常、魔法の素養を見極める為には子供の頃に少しづつ修行をするものです。
あの年齢にまでなってしまうと、魔法の素養があったとしてももうなくなってしまっている事が殆どです」
と答えてくれた。
「へぇ、そうなんだ。まあ、何はともあれ明日からやるだけやってみよう」
もう吹っ切れるしかない、引き受けてしまったし。
そう思いながらベットに横になってアイと暫く雑談をしていると眠くなってきた。
「もうそろそろ寝るよ。おやすみ、アイ」
と言うと
「おやすみなさい」
の言葉を聞くと共に眠りについた。




