第六十話
翌朝、起きて暫くしてからギルドに赴く。
中に入って受付の女性に出張所で受け取った書状を見せると、受付の女性が
「少々お待ちください」
と慌てた様子で1人は2階へ、もう1人がギルドの建物を出ていく。
奥からギルドの所長と一緒に降りてきて
「私がこのギルドの所長です。
今お城へ兵士長を呼びに行ってますので、先に換金所へどうぞ」
と言われて換金所へ案内される。
解体所へ入り少し待っていると鎧を着た兵士が部下を2人連れて入って来た。
1人は白衣を着ている。
「お待たせしました。
コンラド共和国の兵士長を務めております<アーロン>です。
早速異常種の亡骸を見せて頂けますか?」
と言われマジックゲートから異常種の亡骸を出して見せると、白衣を着た部下が手際よく各部署を解剖していく中
「ふむ、姿形は他のナイトスパイダーとあまり違いは見受けられませんね。
しいて言うならば、やはり全体的に大きいくらいですか・・・」
等と所長とアーロンとが色々と話し合っている。
「この、尻の部分は例の卵が詰まっていたという場所ですか?」
と聞かれ
「はい。
既に報告されているかとは思いますが、卵が孵化してもマズイと思い炎魔法で焼いておきました。
出張所での検査では、もう卵は残ってないとの事です」
と改めてあの時の状況を説明すると
「ふむ、そうですか・・・」
と現状では何も答えを出せないのか
「分かりました、ありがとうございます。
亡骸はこちらで預かり、更に解剖して詳しく調査します。
では、受付で手続きをお願いします。」
と言うと白衣を着た部下の人がマジックゲートに異常種の亡骸を納めた。
あの人魔導士だったのか・・・
なんて思いながら受付に向かい、書状と報償紙と魔導士へ変更の推薦状を出した。
「結構ありますねぇ。
順に処理しますのであちらに座ってしばらくお待ちください」
と言われ、待合所の椅子に座って暫く待つ。
待っている間、受付を見ていると女性しかいない。
「そう言えば今までのどのギルドも受付を担当しているのは女性しかいないな・・・」
と小声で呟くと
「そうですね。男性でギルドの受付は今まで見ませんでしたね」
とアイも同調する。
やっぱり給料とか待遇の問題なのかな?
結構長い間待っていると
「アイカワさ~ん、お待たせしました」
と声が聞こえたので受付に行ってみると
「まず、金額の説明からしますね。
駐屯地の依頼が10日間で金貨20枚、報償紙で支払われる金額が金貨20枚です。
そして職業を今現在の職業から魔導士へ変更する為の推薦状ですが、本物だと確認できたので魔導士への変更が許可されました。
登録証を出してください」
と言われ登録証を出すと
「では、職業を特殊なものに変更する場合は新しい登録証を再発行するので、古い方はこちらで処分しておきますね。
えっと・・・では、こちらが新しい登録証になりますのでここに名前を記入してください」
これはキリアナ王国のギルドと同じだな。
言われた箇所に自分の名前を書くと
「それでは、登録証の上に手を置いてください」
と言われ、俺の魔力をほんの少し新しい登録証に移す。
「はい、登録が完了しました。
では、明日から依頼を受ける場合はこちらの登録証の提出をお願いします。
これで全ての手続きが終了しましたが、他に何かありますか?
このまま、何か依頼を引き受けますか?・・・と言ってもこの時間、もう何もありませんけどね」
と笑いながら話す。
「え?何もないんですか?この時間で?」
と聞くと
「この国はあらゆる面で栄えている分依頼も多いんですけど、それに比例してやってくる冒険者の数も多いんです。
特にラリムの街でのギャンブルしたいが為に・・・」
ああ、なるほどギャンブルの資金作りか・・・
とお互い苦笑いしていると
「ああ、そうだ。
禁止事項としてラリムの街のカジノやギャンブル場から、ギルドを通さず直接依頼を受けるのは禁止されているので注意してくださいね?
もし直接の依頼を受けていた事が発覚すると、最悪の場合登録証のはく奪なんて事にもなりかねませんので覚えておいてください」
と念押しされた。
「へぇ~、それは随分重い処分ですねぇ。
因みに過去にいたんですか?登録証をはく奪された人って」
と興味本位で聞いてみると
「今年はまだいませんが、年に1人くらいは出てくるんですよ。
なので気を付けてくださいね?」
いるんだ、そんなアホな事する奴・・・
まあ、ラリムの街に行かなければいい話だ。人混みも苦手だし・・・
新しい登録証と報酬のお金を受け取り、マジックゲートに収容する。
次にこの街に来た目的である<新しい革の鎧>を見つけに行きたいが、もうお昼近くなってお腹が空いたのでどこかで昼食を食べてから店を探す事にする。
食堂で適当に昼食を食べ終えて店が集まっている場所へ到着すると、早速武器屋を探す。
一通り見回すと武器屋は3店舗あるみたいだ。
まず1店舗目に入り、希望に近い物を探すが見当たらない。
店主に聞いてみても
「流石に革製の鎧でそのような形の物は見た事がありませんねぇ」
と言われてしまった。
礼を言い店を後にして次の店舗へ。
中に入り探してみてもやはり目当ての物は見つからない。
奥から現れた店主に欲しい物を伝えても
「うーん、既製品でそんな形の物は取り扱った事はないなぁ。
もし本当にそれが欲しいんだったら、もうオーダーメイドで作るしかないんじゃない?」
とまで言われてしまった。
「実はあの店舗に先程行ったら(無い)って言われてしまって。
後はあの店舗だけなんですよねぇ」
と話すと
「ああ、あそこは止めておいた方が良いよ?」
と言われたので
「え?何故です?」
と聞くと
「あの店はさっき言ったオーダーメイドもやっているんだが、店主が変わり者でねぇ。
気に入らない客だったり、持ち込んだ素材が最高な素材じゃないと怒鳴り散らして客を追い返すんだ。
だからあの店は止めておいた方が良い」
と忠告を受けた。
所謂<頑固な職人こだわりの店>かぁ。苦手なんだよなぁ、そういうの。
まあ、行くだけ行ってみるか。
店のドアを開けて
「こんにちは~」
と言いながら中に入ると、奥の方に気難しそうな顔をした初老の男性が座っていた。
「あの~、革の鎧を探しているんですが・・・」
と恐る恐る話しかけてみるとめんどくさそうな顔で
「あ?どんなのを?」
うわぁ、聞いた通り面倒くさそ~
希望の形の物を伝えると
「あ~、そりゃ一から作らないと無理だな。
しかも形が独特で伸縮性も必要だから、ここらだとサリム産の最高級品が必要だな」
最高級品の革って・・・どのくらいの金額を積めば手に入るんだよ・・・
今の全財産どのくらいだっけ?無駄遣いはしていないから結構あるはずだけど・・・
なんて色々な事を考えていると続けて店主が
「まあ、そんな代物はサリムの領主である子爵様と知り合いでないと譲ってもらえないだろうがな。
もし持ってこれたら、作ってやるよ。
店はこんな状態だが俺は腕に自信があるんだ」
ん?今サリムの領主様って言った?もしかしたら・・・
「もし最高級品の革を持ってきたら、作ってもらえるんですね?」
と念を押すと
「あ、ああ。作ってやるよ。職人として嘘はつかん。だが、今日はもう無理だな。
サリムに到着はするがあの街は農地が殆どで宿なんか無いからな」
そうか、宿は無いのか。
じゃあ出発するのは明日の朝にしよう。
「では、失礼します」
と希望に満ちている顔をして店を出る俺を、唖然とした表情で店主が見送る。
アートに戻る前にカリムの街を散策することにした。
色々と見て回るがバルシス王国の様な海産物や観光に特化しているというよりは、どちらかと言えば都市の中にある大きめの商店街と言った感じだ。
バルシス王国の時の様に食べ歩きでお腹を満たそうと思ったが、食べ歩きメインというより所謂総菜屋さんが多め。
やっぱり住宅街が近いと、こういった店の方が需要があるのだろう。
お惣菜も美味しそうだったが買う事は無く、結局見るだけ見て帰る事にした。
途中ハリーに寄って晩御飯を食べた後アートに戻る。
アートに戻り部屋に入る前に
「ちょっと聞きたいんですけど、サリムの街ってここからどのくらいで行けますか?」
と女将さんに聞いてみると
「サリムだったらそこまで遠くないですよ?
朝ゆっくり行っても夕方には帰って来れるくらいですね」
と教えてくれた。
「そうですか、ありがとうございます」
と礼を言い部屋に戻る。
装備を外してベッドに横になる。
「しかし、本当に気難しそうな店主だったなぁ」
と呟くと
「良かったですね。ここに来る前に領主を助けておいて」
とアイが返す。
「本当だよ。
恩を売る為に助けた訳ではないけど、これでこの街に来た目的がひとまず達成できるよ」
と改めてホッと胸をなでおろす。
「購入した後はどうしようかなぁ。
ある程度依頼を受けたら、とっとと別の街の情報を仕入れてそっちに行こうかな」
なんて話していると
「カリムの街には寄らないのですか?歓楽街もありますよ?」
とアイが提案してくるが
「冗談よしてよ。
そんな場所に行ったらどんなトラブルに巻き込まれるか分かったもんじゃない。
それにこの街で依頼は受けるけど、カリムの街に関連した依頼は受けないつもりだよ。
そういう場所には近づかないのが無難さ」
と否定する。
流石に寝るには少し早かったので、アイと雑談をして過ごしてこの日は寝る事にした。




