第五十八話
駐屯地を出立する日がやって来た。
朝起きて、従事する仕事もないので魔力精錬が出来るかどうか確認してみる。
「お、出来てる」
魔力を使い切っている状態では当たり前だが魔力精錬の修行も出来ないが、それが出来ているという事は
魔力が戻っている証拠となる。
詰め所で行われている朝のミーティングが終わったのを見計らって、食堂に行き朝食を食べる。
そしてテントに戻ってくると、テントの片づけに入る。
マジックゲートに分解したテントを納めると、ボブ達がいる作業場に行ってみる。
作業場に到着すると
「お、アイカワさんじゃないですか。どうしたんです?」
と何とも間の抜けた声でデイブが話しかけてきた。
「実は今日この駐屯地を出てコンラド共和国に向かうんで一応挨拶にと来たんですけど、相変わらず暇そうですね」
と最後の(暇そう)の部分だけ小声で言うと
「そうなんですよ。いいなぁ、はやく共和国に戻りたいなぁ~」
とボブが羨ましそうな声を上げる。
「チクショ~、はやく共和国に戻ってここでの報酬をギャンブルで全ツッパしてぇ~!!」
とボブが空に向かって叫ぶ。
また言ってるよ、この人・・・
そんなボブを冷めた目で見つつ、俺は2人に軽めの挨拶をしてその場を離れる。
続いて少しお腹が空いたので食堂へ到着すると、店主や従業員の人達が食材の受け入れ準備を終えて一休みしていた。
「おお、あんたかい。
悪いが、残ってる食材は昼の分の仕込みに全て回しちまって、今は何も出せねぇんだ」
ちょっとお腹が空いていたので残念だが、それならしょうがない。
「いえ、今日は食べに来たんじゃないんです。
これから到着するコンラド共和国行きの便に乗って、この駐屯地を離れるんです。
なのでお世話になった人達に挨拶回りに」
と言うと
「おお、そうか。そりゃご苦労さんだったな~。
あっちに行っても元気でやれよ。ギャンブルにのめり込まないようにな」
大丈夫だって。ボブじゃないんだから・・・
「ええ。肝に銘じておきます」
と苦笑いを浮かべながら話しているとコンラド共和国からの便が到着する。
どうやら馬車は3台の様だ。
「ちわーーッス。今回は予定より多く持ってきたんでちょっと大変ですよ~」
と馬車を操っている青年が明るく言うと食堂の人達全員で荷物を確認すると
「こりゃ多いな!いつもより時間かかるぞ」
と店主が俺をチラッと見ると
「すまねぇが手伝ってくれねぇか?この人数だと店の開店までに間に合いそうにねぇ」
しょうがない、最後に一仕事だ。
「分かりました。まずどうすればいいんです?」
と言いながら上着の袖をまくって店主の指示を仰ぎながら荷物を運ぶ。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
全員で必死になって荷物を運び終えた。
何とか食堂の昼営業前には間に合ったようだ。
「いや~悪かったな~、手伝わせちまって。
礼と言っちゃなんだが、昼飯をご馳走するよ。待っててくれ」
と言うと従業員の人達と一緒に店に戻り、中から調理をしている音が聞こえる。
暫く待っていると、料理が運ばれてきた。
「はいよ、おまたせ」
見た目は完全に肉野菜炒め。
有難く料理をいただき、店の人達に改めてあいさつした後、馬車の人に確認として
「あの、共和国行きはこの馬車で良いんですよね?」
と聞くと
「ええ、そうですよ?出るのは午後になってからなんで、もう少し待っていてくださいね。
出る時には、また改めて大声でお知らせしますから」
と言われた。
ならある程度近くにいれば分かるなと思い、次は詰め所に向かう事にした。
詰め所に到着して中に入ると、イーサンが部下の人達と談笑していた。
「アイカワさん。もう出発の準備は大丈夫ですか?」
と聞かれ
「ええ。デイブさん達や食堂の人達にも挨拶を済ませましたし。
後は皆さんが最後です」
と話すと
「そうでしたか。あ!そうだ。私からお渡ししておきたいものがあります」
と言って机から1枚の紙を出してきた。
「何です?これ」
えっと?<魔導士変更推薦状>?
「昨日ギルドで職業の変更を希望されているのを聞いて、私から推薦状を出しておきました。
通常、商人の様な直接戦闘に関係ない職業から魔導士や戦士の様な直接戦闘する職業へ変更する場合は、ギルドに所属する上位ランクパーティーが出す試験に合格するか、自分の師匠などから推薦状を書いていただいて、それをギルドに提出して認められれば変更することが可能です。
今回は私が推薦状を書いておきました」
とサラっと凄い事を言う。
「良いんですか?そこまでしてもらって?」
そこまでしてもらえるなら有難いが、本当にいいのかな?
「いいんですよ。それくらいしないと助けて頂いた部下達から恨まれますよ。
受け取ってください」
そういう事なら、と有難く推薦状を貰う事にする。
「ああ、それとコンラド共和国に入国する場合は出張所で書いてもらった書状を見せると、煩わしい入国検査はパスされますので是非出してくださいね」
お!それはありがたい。バルシス王国に入国する時は色々と面倒だったからなぁ・・・
そんなやり取りを暫くイーサンたちとしていると
「コンラド共和国行きの便の出発準備に入りま~す!
お乗りの方がいらっしゃったらお乗り下さ~い!」
と大きな声が響く。
「お、もうそろそろか。では俺はこれで」
と言うと
「では、お元気で」
とイーサンと握手をして詰め所を出る。
馬車に到着すると既に数人の魔導士が乗っていた。
俺もすかさず乗り込む。
暫く待っていると
「では、コンラド共和国行きの便、出発しま~す」
との声と共に馬車が動き出す。
1台目、2台目は共和国に向かう人が乗る馬車。
3台目は護衛の依頼を受けた冒険者が乗る馬車らしい。
馬車がゆっくりと移動し始める。
コンラド共和国へは夕方には到着するらしい。
駐屯地が徐々に遠ざかっていく。
大変な事もあったけど、とても面白い依頼だった。
コンラド共和国ではどんな事が起こるか想像もつかないけど、きっと面白い事が待っているに違いない!
うん、そう思う事にする。
そう心に誓いながら馬車に揺られコンラド共和国へ馬車は進んでいく。




