第五十七話
駐屯地任務最終日。
最終日と言っても、今日中にこの駐屯地を後にするわけではないし、未だに魔力は回復しては無いので何もせずにひたすらダラダラする。
問診を受けた結果ケントから
「もう自分のテントに戻っても大丈夫ですよ」
と許可が出たので診療所を後にする。
正直、問診中に魔力が尽きた場合についてあーだこーだ聞かれても、心の中で
(お医者さんに分かるのかなぁ?)
等と思いながら答えていた。
「以前にも魔力が尽きたと聞きましたが、その時はどうされたんですか?」
と聞かれ
「その時にお世話になってた上位ランクパーティーの皆さんから、2~3日休めば回復するとアドバイスを受けて、その通りにしていたら本当に元に戻りました。
なので今回もそうするつもりです」
と言うと
「確かアイカワさんはキリアナ王国から来られたんでしたよね?
あの国で有名な魔導士と言えば<伝説の魔導士ダンとマリン夫妻ですよね~。
会った事はあるんですか?」
なんか目がキラキラしている。
まるで英雄の冒険譚を聞いている子供の様だ。
「はい。魔法がうまく出来ない時にその上位ランクパーティーの伝手で会いました。
瘴気の浄化作戦でもおせわになりましたし」
と話すと
「いいですねぇ~、羨ましいですねぇ~、会ってみたいですねぇ~。
私ももう一度生まれ変われるなら、今度は魔導士の素質を持って生まれたい~」
と問診そっちのけで自分の願望を話し始めた。
隣にいた助手の魔導士も苦笑いを浮かべていたが、正気に戻ったようで
「ハッ!すいません。私とした事が。つい我を忘れてしまいました」
と言いながら問診を終えた。
テントに戻る前にお腹が空いたので食堂に向かう途中、すれ違った兵士や魔導士に
「お?もう大丈夫なのかい?」
とか
「あの時は助かったよ!ありがとう!」
等と声をかけられた。
「はい、体調は大丈夫です」
とか答えながら食堂に到着すると
「今日は早いな。朝食用の内容だがそれでいいか?」
と聞かれて
「はい。大丈夫です」
そう言って料理の到着を待つ。
すぐに料理が運ばれてきて
「はいよ、おまたせ。ここにはいつまでいるつもりなんだい?」
と店主が同じテーブルに着席して雑談をし始める。
「明日コンラド共和国の便に乗ってここを発つつもりです。
どのみち、今日いっぱいは魔法は使えないし、そんな状態で移動なんか出来ませんし」
運ばれてきた料理を頬張りながら、何の気ない雑談を店主としていると
「店長~、サボってないで昼の仕込み手伝ってくださいよ~」
と中から若い男性が出てきて、多少怒り気味でこちらに話しかけてくる。
「分かった分かった!ちょっとくらいいいじゃねぇか、じゃあな」
と言いながら立ち上がると
「ったく後は肉の味付けだけだから、お前1人でも大丈夫だろうが!」
等とキレ気味に店の奥へ戻る。
食べ終えると
「ごちそうさまでした~。お代ここに置いておきます~」
と言うと、中の店員と目が合い外に出てくると
「ありがとうございました~」
と元気に挨拶してくれた。
やっと自分とテントに戻ってくると、中に入りクッションをマジックゲートからその上に取り出し寝ころぶ。
「ああ~、やっと戻って来た」
と呟くと
「それにしても、あの時は少し無理をしましたね。
スキルを解放して間もない時に、あんな人数に対していきなり実践するなんて」
と言われたが
「でもあの時はそれしか思い浮かばなかったんだ。アイのバックアップもある事だったし。
それにあの方法でなきゃ後遺症どころか、下手をすれば命を落とす人が出ていたかもしれないだろ?俺としてはかなり必死だったさ」
と返した。
「今日はどうするおつもりですか?」
正直、気が抜けまくっているのでひと眠りしたいところだ。
「暫くまったりしたら、出張所に行くよ。
書状も貰わなきゃいけないし、コンラド共和国に行ってからの流れも聞きたいし」
そう言うと欠伸が出たので
「ごめん、ちょっとひと眠りするよ」
と言い、眠りに落ちた。
目が覚めて少しぼーっとした後外に出てみても、相変わらずのどかな感じだった。
ひと眠りする前とあまり変わらない状態なので、午後のまったりした時間だと気づくまで若干の間があった。
背伸びをした後、出張所へ向かう。
出張所に入るとイーサンと出張所の男性が丁度雑談をしている時で
「おお、アイカワさんか。丁度良かった、今からそちらに行こうと思っていたところだ。
諸々説明もしなきゃいかんしな。
まずこれがコンラド共和国のギルドに提出する書状と駐屯地の依頼を完了の証明書だ。
書状には異常種についてこちらで調べた大まかな事が書いてある。
既に昨日の内に早馬で簡単な内容は知らせてあるから、これをあっちの受付に出してくれればすぐにわかるだろう。
念の為、異常種の亡骸をもう一度確認させてくれないか?
無いとは思うが腐敗が進行しているとまずいからな」
と言われ、マジックゲートから異常種の亡骸を取り出すと出張所の男性が腐敗してないか簡単に確認する。
「よし、腐敗は全くない。これならあっちでも詳しい調査が出来るだろう。
それとこれも渡しておく」
と異常種の亡骸をマジックゲートに収容するともう1枚の紙を渡される。
「これ、報償紙じゃないですか!いいんですか?」
と俺が驚くと
「何を言っているんです?あれだけの活躍をしてもらったのに
(はい、お疲れさまでした~)
の一言で終わりなんてありえないでしょう?これくらい当然ですよ!」
とイーサンが笑いながら話す。
「明日の共和国行きの便はいつ頃出るんですか?」
と聞くと
「到着するのは午前中で今回は食料がメインになるので食堂の前に止まります。
この駐屯地を出発するのは午後になってからですね。
夜までにはコンラド共和国に着きますよ。
他に何か聞いておきたい事はありますか?」
あ、そうだ。
「1つ聞きたいんですけど、ギルドで登録した職業の変更手続きってここでは無理ですよね?」
今登録している職業は<商人>だがもうそろそろ<魔導士>に変更してもいいと思ったからだ。
「それはちょっとここでは無理ですねぇ、共和国のギルドに行かないと。
それにしても、何故今になって職業変更なんかを?魔導士で登録してないんですか?」
と聞かれると
「はい。最初に登録した職業は<商人>で今もそのままなんです。
なのでもうそろそろ<魔導士>に変更しても良いかなぁって・・・」
と言うとイーサンと出張所の男性が驚きの表情になる。
そりゃ、そんなリアクションになるよなぁ。
「ええ~~!?あの実力で商人~~!?あり得んだろう!?」
とイーサンが素っ頓狂な声を上げるが
「子供の頃に魔法は教わってましたが、あくまでも(生きていく為)で自分でもここまで出来るなんて思ってもいなかったもので。
キリアナ王国やバルシス王国、そしてここで経験した事を踏まえてもうそろそろ職業を変えても良いかなって・・・」
職業を魔導士に変更して、今後何か面倒な事に巻き込まれないか不安もあるが、その時はその時だ。
寧ろ今の状況みたいにいちいち驚かれて、そのリアクションに説明で返さなきゃいけないのもそろそろ面倒になって来たというのもある。
事情を簡単に説明すると2人共納得してくれたみたいで、落ち着きを取り戻したイーサンは
「では、もうそろそろ引継ぎの時間なので私はこれで」
と言い、イーサンが詰め所に帰っていくと同時に俺も自分のテントに戻る。
テントに戻る途中、遠くでボブとデイブを見かけた。
今日は作業員の護衛の任務の様だ。
相変わらず同じ班の魔導士や作業員と雑談しながらまったりとしている。
「もうそろそろ引継ぎだからって、気を抜き過ぎじゃないか?さすがに・・・」
と呟くと
「いいではありませんか。常に気を張り続けるのもかなり辛いものですよ?」
と答えた。
「まあ、そりゃどうだけど・・・まあいいか」
苦笑いを浮かべながら歩くと、テントに到着する。
中に入っていつもの如くマジックゲートからクッションと寝袋を取り出す。
寝ころんで大きくため息をつく。
やっと次の街に行く事が出来る事への安堵やら、ちょっとした不安やらが入り混じったため息だ。
「ここでも中々の体験をしたけど、それはそれで面白かったなぁ。
まあ、山間部へ歩いて行くなんて事はもうしたくはないけどね」
と笑いながら答える。
外では引継ぎが終わり、食堂にいた人達もテントや宿舎に戻ったせいか凄く静かだ。
「静かだなぁ。する事も無いしもう寝るか」
と言うとアイマスクと耳栓を装着して
「おやすみ、アイ」
と言うと
「おやすみなさい」
のアイの声と共に眠りについた。




