第五十二話
遠征から帰還した次の日の朝、本来なら夜間警備1日目だが勝手が分からず日勤と同じ時間に詰め所に行く。
昨日一緒だった魔導士2人は他のベッドでまだ寝ていたので音を立てずにテントを出て、詰め所に向かうとイーサンが
「あ、アイカワさん。おはようございます、昨日はお疲れさまでした」
と出迎えたが
「あの~、確か今日から夜間警備だと思うんですが、一応確認の為聞きに来ました。
夕方の引継ぎにここに来ればいいんでしたよね?」
と言うと
「あ、そうか!アイカワさんは今日から夜間警備でしたね。
はい、夕方の引継ぎの時間にここに来ていただければ大丈夫です。
今日は解体所に換金に行かれれるんですよね?場所はわかりますか?」
いや、それも諸々含めて分からんから聞きに来たのだが・・・
「ギルドの出張所って近くにあります?多分そこに行けば大丈夫かと思うんですけど」
と聞くと
「ギルドの出張所は食堂のすぐ裏手にあります。
そこに持っていけば解体とギルドの手続きが出来ます。
但し、換金に関してはこちらで証明書を発行しますので、バルシス王国かコンラド共和国でお願いします」
との説明。
時間があるならという事なので、朝食を食べに食堂に行くと昨日一緒だった魔導士2人と出くわした。
「おはようございます。昨日はお疲れさまでした」
と挨拶すると魔導士の1人が
「おはようございます。早いですねぇ、詰め所に何か用事でも?」
と聞かれると
「今日夜間警備の初日なので集まる時間の確認をと思って」
と返答すると
「そういう事でしたか。
まあ、夜間警備は探知魔法の回数が増えるだけで、日中とあまり変わりませんから。
それより、朝食を食べたら解体所に行って換金してきませんか?
レイジングサーペントだったらもしかしたら報償紙が出るかも」
ともう1人の魔導士が朝からにやけ顔で言う。
「確かに、報償紙が出れば次のランクにも上がれるしレイジングサーペントだったらいい金額になるぞ~、きっと!」
ともう1人の魔導士もつられてにやけ顔になる。
「はは、取り敢えず朝食食べません?
昨日の夜から何も食べてないからお腹ペコペコで」
と若干引き気味になりながら3人で食堂に向かう。
朝食を食べた後、ギルドの出張所に向かい解体を依頼する。
「こりゃまたとんだ大物を退治して来たな!レイジングサーペントか!
よし、少し待ってろ。綺麗に解体してやる」
と解体所の男性が鼻息を荒くしながら俺達に待つように促す。
暫く待っていると
「終わったぞ。来てくれ」
と言われ入ると
「まず、レイジングサーペントの買取金額が金貨30枚、3人で割ると10枚ずつだな」
さささ、30枚!?たった1体で!?と驚く俺を横目に2人の魔導士はハイタッチをしている。
そんな顔をしている俺を解体所の男性が
「なんだ、レイジングサーペントの価値を知らんのか?
滅多に現れない上に強敵なので肉も革も手に入りづらい。
それにその革が高級バックの素材になるからってんでかなりの値が付くんだぞ?」
そりゃ蛇革は俺の世界でも良い物は高いけど、そこまでするのかよ・・・
「今日の食堂はいつもより賑わうぞ!
レイジングサーペントの肉なんて一般庶民じゃ一生に一度、食えるか食えないかレベルの代物だしな。
取り敢えず、肉を3人分切り分けておいたから、食堂に持って行って調理してもらえ」
討伐内容が掛かれた証明書を発行してもらい、肉を受け取ると食堂へとんぼ返りする。
食堂の店主に肉を渡すととても驚かれた。
「こりゃ、腕が鳴るぜ!」
いや、今日の昼と夜ずっとこの肉と向き合うから、今の時間から気合出したら最後まで体力が持つのか?なんて思いながら待っていると
「さあ、出来たぞ!近年まれにみる自信作だ。食ってくれ!」
と出された料理はなんと唐揚げに似た料理だった。
早速1口目を食べてみると
「うめぇ~~~!」
と3人同時に口を揃える。
あっという間に食べ終えるとそれぞれ分かれてテントの設営地に戻り、自分のテントを設営し直して夕方まで仮眠をとる事にした。
夕方近くにアイに起こされて詰め所に向かう。
詰め所前に到着するとボブとデイブと合流して、引継ぎが終わった後持ち場に向かう。
持ち場に向かう途中、食堂に寄って夜食を人数分受け取ってマジックゲートに収めた。
その食堂はと言えばいつもよりずっと賑わっていた。
どうやら午前中に解体されたレイジングサーペントの肉が補充された事が駐屯地中に広まり、客が一気に押し寄せた様だ。
探知魔法で周囲を警戒した後、異常がないのが分かると早速ボブとデイブから遠征の話題が飛んだ。
「聞きましたよ~、アイカワさん。
あの少人数でレイジングサーペントを倒したんですって?凄いじゃないですか!」
もう、話が回ってるのか。
「ラッキーが重なっただけですよ~。戦ってた時は生きた心地がしませんでしたよ」
と一応謙遜はしておいたが嘘ではない。
あんな大きい蛇は魔物と言えどこちらの世界に来てからも遭遇したことは無いし、あの威圧感は今までの魔物とは別格だった。
「買取金額はどうだったんです?結構いったんでしょ?」
とボブが聞いてくる。
「30枚でした。それを遠征に参加した魔導士3人で割って1人頭10枚でした」
と正直に話すとデイブが
「うお~、すげぇ~。1人10枚!夢あるわ~」
いや、夢より命が心配だったよ。あの時は。
「そう言えば、こういう場合って遠征に参加した兵士の人には特別ボーナスみたいなものはないんですか?」
と2人に聞いてみたが
「いや、俺達兵士はそこまで好待遇ではありませんよ。
でも、流石に今回の場合に限っては出るんじゃないか?特別ボーナス」
と言われた。
「だよなぁ。出なきゃ結構やる気が削がれるよなぁ」
とデイブ。
「報償紙は出たんですか?レイジングサーペントだから出てもおかしくないでしょ?」
あ、そういえば出てないや。
「あ~、それは何も言われませんでしたね。証明書を受け取って帰って来ちゃいました」
金額の高さとレイジングサーペントの肉の美味しさで報償紙の存在をすっかり忘れてた。
まあいいか。ランクを上げるために依頼を受けているわけではない。
今の自分にそんな実力があると思いあがるつもりもない。
「マジで?報償紙無し?ありえね~」
と2人共も驚いていたが
「いや、相手の状況が状況だったから今回は見送られたんじゃないんですかね。
万全な状態のレイジングサーペントを倒して報償紙が出ないんだったら、流石に抗議しますけどね」
そんな話をしながら定期的に探知魔法をして、異常が無ければ雑談の繰り返し。
話す内容も無くなってきた所で休憩時間に入り、夜食を食べながら休憩をして配置に戻る。
配置に戻ってから探知魔法をかけると、魔物が引っかかって
「魔物の反応あり!俺達の正面!」
と言うと遠くの方で赤い目のようなものが見えた。
「ああ、あれは<ナイトスパイダー>です。
夜行性の蜘蛛タイプの魔物で光源が嫌いなんですよ。
だからこういう篝火などの置いておけばそこには近づかないし、人間は襲われない。
奴らが襲うのは専ら深夜の時間帯をうろついている魔物とか野犬とかですよ」
へぇ、そんな魔物もいるのか。これはうかうか野宿もしてられないな。
よく覚えておこう。
そして朝まで何事も無く、引継ぎの時間が来た。
「それじゃ、また今日の夜間警備で」
と詰め所で2人と別れて、食堂で朝食を食べてテントに戻る。
テントに戻り寝袋とクッションをマジックゲートから取り出し、その上に寝転ぶ。
「ああ、そう言えば新しいスキルを解放するんだったね。ごめん、忘れてた」
とアイに謝ると
「大丈夫ですよ。夜間警備のシフトが終わってからでも大丈夫です」
と言われた。
外は昼間。それなりにガヤガヤしている。
念の為購入しておいた耳栓とアイマスクをマジックゲートから取り出し、装着する。
これでなんとか眠る事が出来そうだ。
「買っておいて良かった~。これで安眠できる。じゃあ、おやすみ。アイ」
と言うと
「おやすみなさい」
のアイの言葉と共に午後まで眠りについた。




