第五十話
駐屯地任務3日目。
何故いきなり3日目かと言うと・・・2日目はさしたる出来事は何も起きなかった!!
俺個人としては緊張感を持って警戒に当たっていたが、ボブとデイブは
「アイカワさん、探知魔法に何も引っかからなかったら緊張しなくてもいいって」
と笑われてしまった。
いや、それはそうだけど柵に寄りかかって欠伸をしている所をイーサンに見られたら、普通怒られないか?とか思ってしまう所だがイーサンも色々と忙しそうで、見回りしている班へ注意を向ける暇はなさそうだった。
そして今現在、3日目の午後。
昼食を食べ終わり、別の班に引継ぎを終えて警戒に戻る。
探知魔法をかけても相変わらず何も引っかからない。
そうなれば結局雑談をして時間を潰すしかない。
(仕事中に時間を潰すって表現もアレだが)
俺の話題になったが中身はキリアナ王国でケイン達と、バルシス王国でダンカン達に言った事と同じ内容になるのでここは割愛する。
続いてボブやデイブにどうして兵士になったか聞いてみると
「いや、単純ですよ。王国の仕事に就いた方が一番確実だし。
それに俺達、昔から何をしてもダメでずっと怒られてましたから。
色々な仕事をして最後に残ったのが城の兵士だったんです。
あ、こんな理由でも兵士としてのプライドはあるので、勿論いざとなればちゃんと職務を果たすつもりですよ?」
話を聞いていると少しだけ親近感が湧く。
この世界に転生する前の自分自身を重ねたからだ。
まあ、この2人の様に安定した職場には就けなかったが。
雑談の中でずっと気になった事を1つ聞いてみた。
「2人がこの駐屯地に来てから女性の冒険者が配置された事ってあるんですか?」
バルシス王国でマオ達が嫌がるのもこんな環境なら何となく分かるが、受け入れ態勢さえ整えばと思うところもある。
ところが2人は
「いやいやとんでもない!この地域の開墾が始まってから今まで聞いた事無いよ。
こんな野郎ばかりの、しかもほぼ野宿に近い依頼を受けるモノ好きな女性冒険者なんているわけないでしょ!」
とボブが一言。
「まあ、来たら来たで野郎しかいないんじゃ任務に支障が出て、イーサン隊長も余計苦労するんじゃないかな。
本当は来てほしいけど・・・」
とデイブが続く。
最後の一言にすごい万感の思いが詰まっている感じがする。
「共和国からの兵士と交代って無いんですか?
ずっとこんな生活じゃあまりにもキツいと思うんですけど・・・」
と聞いてみると
「いや、流石にありますよ。でも冒険者の方達と違って兵士の任期は長いんスよ。
1か月よ?1か月。」
1か月も!?こんな状態で!?
「長っ!1か月も!?」
と驚くと
「でしょ?まあ、その方がキリがいいし、魔物との戦闘がほぼ無いのでそれが唯一の救いなんですけどねぇ。
それに聞くところによると、この任務の期限を終えて共和国に帰った兵士の中には、歓楽街にハマりすぎて借金を背負った奴もいるとかいないとか」
大丈夫か?この任期の設定は。
「流石にみんながみんなそうはならないとは思いますけど、なにか対策とか考えてないんですか?」
と聞くがボブは
「そこはどうにもならないんじゃないかな。あくまでも個人の問題だから。
難しい所だけど、国としても雇う時の面接で判断するしかないしね」
そんな話題が話題なだけに結局俺に振られた内容は
「アイカワさんもこれから共和国に行くなら、歓楽街にハマらない様にね~。
変な問題起こして俺達が捕まえに行くなんて嫌ですよ~?」
と言われたが
「しませんよ!第一、俺は酒飲めないし。
ある程度コンラド共和国を堪能したらとっとと別の街に行きますよ」
とおもいっきり否定しておいた。
そんな話をしていると詰め所から来た別の兵士が
「あの~、アイカワさんというのは貴方ですか?」
と突然聞かれて
「はい。アイカワは私ですが」
と返すと
「すみません。別の現場でお願いしたい事がありまして」
なんだ?と思い話を聞いてみると
「実は木こりの1人が腰を痛めてしまって動けない状態なので、貴方の風魔法で作業の手助けをしてほしいんです」
なんで1日目の作業内容がもう他に伝わってるんだよと思ったがまあしょうがない。
「分かりました。でも、ここを担当する魔導士はどうするんです?」
探知魔法がないといざって時に困るだろ
「あ、大丈夫です。他の班の魔導士にここのエリアも兼任してもらうので」
そういう事ならしょうがない、行くか。
「じゃあ、そういう事なんで俺はこれで」
とその場を離れる。
作業場に案内されると、護衛している班と木こりが1人だけポツンと立っていた。
よく見たら1日目に応援に行った木こりだった。
「いや~、すんませんねぇ。相方が腰をやっちまって1人じゃどうしようもなかったんです。
風魔法で切り倒した木を整理したり、最後に荷車に乗せるのをお願いしたいんです」
俺は便利屋かよ・・・
そう思いつつも顔には出さず
「分かりました。どれからやりましょうか?」
と淡々と風魔法で木こりの作業をサポートしていく。
弱い風魔法を連発していく作業が今までになかったので若干緊張したが、これはこれで貴重な経験かなと何とか気持ちを切り替えて取り組んだ。
荷車に切った木を乗せて帰ろうとしたその時、護衛している班の魔導士が
「上空に反応あり!」
と大きめの声で言うと
「隠れろ!」
との声と共に全員1か所に集まり木々の中に隠れる。
木こりは蹲って震えた状態で、声が漏れない様に口を押えている。
隠れている木々の間からから上空を見上げると、俺達の上空を通過する魔物の姿が確認できた。
だがワイバーンとは明らかに形が違う事に違和感を覚えていると兵士の1人が
「面倒だな。ありゃ<イエローウイング>だ」
と呟く。初めて聞く名前だなと思っていると
「単体としてはワイバーンよりは弱いが、面倒なのは体内に雷を帯電している事だ。
その雷で獲物を痺れさせて巣へ連れ去って捕食するのが特徴なんだ」
それは確かに厄介だな。すると別の兵士が
「それに体内に雷を帯電させる為、雷魔法にも反応するらしいから迂闊に戦闘も仕掛けられないぞ。
木こりの人もいるし、どうする?一旦やり過ごして駐屯地に戻って報告するか?」
と兵士達と息を潜めて話し合っている内にイエローウイングの姿が見えなくなっていた。
上空へ探知魔法を俺ともう1人の魔導士でかけてみたら、山間部の方へ飛んで行ったらしい。
「よし、今の内に駐屯地へ戻って詰め所に報告しよう」
全員で荷車を押しながら駐屯地へ戻る。
作業場は駐屯地からそれほど離れては無かったが、念の為他の魔物に不意打ちを喰らわない様に時々探知魔法をかけながら戻る事にした。
駐屯地へ戻ると木こりと別れて兵士達と共に詰め所に報告しに行く。
イーサンが休憩中だったようで椅子に座ってくつろいでいた。
「本当に1体だけだったか?」
と念を押すように聞いてきたイーサン。
というのもイエローウイングは通常、巣を作る前のつがいなら2体、巣が出来ている場合は単体で行動するらしい。
だが探知魔法で引っかかったのも、俺達が見たのも1体だけ。
勿論、繁殖相手を見つけていない状態で遭遇したかもしれないが、もしどこかに巣を作っている可能性があれば、バルシス王国とコンラド共和国に報告をして、最悪の場合巣を駆除するため遠征隊を派遣しなければいけないらしい。
それに一緒に見た兵士は
「それにあの個体はまだ巣立ちして間もない若い個体だと思います」
と答えた。
「理由は全体の一部に茶色の毛が着いていたことです。
成熟した個体だと名前の通り、黄色い体毛なのですが3分の1は黄色かったので間違いなく若い個体です。
あの若さだとまだ巣を作る相手も見つかっていない筈です」
やけに詳しいな。
その説明を聞いたイーサンは
「分かった。こちらが勝手に駐屯地を離れるわけにはいかないので、これからバルシス、コンラド双方に出して早馬を出す。
早ければ明日の朝には返事が来るだろうから、どちらかの国から討伐了承が出れば早速討伐隊を編成して飛び去った方向へ駆除に向かう事にしよう」
との決定を元に、双方の国へ早馬を出す。
今はもう陽が暮れそうな時間。
早くても返事が来るのは明日の午前中だろう。
結局この日はいつも通り、夜間の警備を敷いて日中組はテントに戻り寝る事になった。
食堂で夕食を食べた後、テントに戻った。
寝袋の上に横になると
「イエローウイングかぁ。確か飛んで行った先は山間部の方へ行ったよなぁ」
と呟くと
「はい。今の時期の山間部は冷えるので防寒具も支給されるかもしれませんね」
とアイが言うと
「まあ、寒いのは比較的平気だから防寒具さえ出れば何とかなるな」
暑いよりは寒い方がまだマシだ。とは言え山間部。
もしかしたら高山病という可能性も一応考えておいた方が良いかもしれない。
そんなことも考えつつ
「もう寝るよ。おやすみ、アイ」
と言うと
「おやすみなさい」
というアイの声を聞いて眠りに落ちた。




