第四十八話
馬車に揺られながら長時間移動していると、遠くの方に柵や住宅を建築している集団が見えてきた。
建築現場の入り口に馬車が止まると
「着きました。ここが駐屯地です。
これから最低でも7日間駐屯していただきます」
と言われた。
周りには木を切り倒している人達、柵の周りを警戒している兵士達、住宅を建築している人達とそれぞれ分かれていた。
建築現場の中央部には、駐屯している兵士達の詰め所とさながら野戦病院の様な診療所が設けられていた。
まず詰め所に案内され、中に入ると鎧を着た剣士が数人椅子に座っていた。
俺を案内した兵士が
「失礼します!駐屯の依頼を受けた魔導士の方をお連れしました!」
と言うと剣士の1人が立ち上がり
「ようこそ。この駐屯地の責任者のイーサンです。宜しく」
と右手を差し出してきた。
俺も左手を出して握手をしながら
「アイカワ ユウイチと言います。よろしくお願いします」
と返した。
「早速説明に入りたいと思います。
貴方にはこの駐屯地の警備、或いは診療所の担当をしていただきます。
警備と言っても日中、又は深夜の時間帯に柵の周辺を兵士と共に警戒していただき、魔物の襲撃を防いでいただきます。
診療所では、主に怪我をした人達を回復魔法で治療していただいたり、疲労軽減の魔法で心身のケアに勤めて頂きます。
住宅などの建築は専門の人達が従事しているので、冒険者の方が担う事はありませんが、木を切り倒す時等大人数が必要になる場合がありますので、その時はご協力をお願いします。
因みに攻撃魔法と回復魔法どちらが専門ですか?」
と聞かれて
「主に攻撃魔法が得意ですが、一応魔法障壁と簡単な回復魔法も使えます」
と言うと
「それはありがたい。回復魔法を使える人材はあまり志願者がいないので、助かります。
まあ、大怪我が発生するなんて事は滅多にないので、疲労軽減の魔法が多くなるとは思いますが」
なるほど、それでお城での説明の時に喜ばれたのか・・・
「依頼を受けた先で説明をされているかとは思いますが、最低でも7日間駐屯していただく条件となっているのですが、どのくらいの期間駐屯される予定ですか?」
まあ、10日くらいで良いよなぁ。そんなに居てもだし。
「一応10日間を予定しています。その後はコンラド共和国行きの馬車に乗ってそのまま入国するつもりです」
前々からキャンプはしてみたいと思っていたが、いくら兵士達がいるとはいえ命懸けのキャンプを10日以上するつもりはない。
「分かりました。日数変更の申請はいつでも出来ますのでその時はこの詰め所で申請してください。
ではアイカワさんには、明日から仕事についていただきます。
まず日中の警備の仕事を3日間、休みを挟んで夜間の警備を3日間、休みを挟んで診療所の仕事を1日というシフトでお願いします。
診療所は怪我人が出なければ、ほぼ休憩みたいなものなのですのである程度楽かと思います。
食事については食堂が建設してありますので、夜中以外であれば用意できます。
なお、メニューについては倒した魔物の肉があればそれを中心とした物が、無ければバルシス王国やコンラド共和国から持ち込まれた食材を使った内容になります。
料金は有料になりますが、バルシス王国やコンラド共和国の食堂の平均的な料金の半額で利用できます。
あ、お酒は置いてありませんのであしからず」
お、ラッキー!食堂があるのか。
て事は調理道具は買わなくてよかったのか・・・
それに酒なんて飲まねぇよ!
「以上で説明は終わりですが、何か質問はありますか?」
と聞かれて
「いえ、ありません」
と返すと
「では、これからテントの設営地点へ案内します」
と言うと別の兵士が来て
「ではこちらへ」
と言われて兵士の後について行く。
設営地点に行くまでの間に周りを見回してみるが、かなりの人数が従事している様だ。
(まあ、街を1つ建設しようと思えば当然とも言えるが)
「では、設営地点はこちらになります。
一応、区画ごとにレンガの壁で仕切ってますので気休め程度ではありますが、プライベートは守られるかと思います。
開いている場所ならどこでも設営して構いません。
食堂は目の前のこの2棟の建物で、診療所は先程の詰め所の隣にあります。
ではテントを設営してひとまず食事をとった後、今日は自由行動になるので駐屯地さえ出なければどんな行動をしていただいても構いません。
稀に食材になる魔物を狩りに行く為にお呼びする場合もあるかもしれませんが、つい先日新たな肉も入手出来たので、当分の間はそれもないでしょう。
明日の朝詰め所に来ていただければ持ち場に案内します。
あと、出来れば自分のテントになにか分かりやすい目印を付けておいて頂けると有難いです。
たまにいるんですよ。自分のテントが分からなくなったっていう困った冒険者が」
と苦笑いをしながら言った。
では、さっさと設営してご飯を食べよう。
馬車移動とはいえかなり移動時間があったせいでお腹はペコペコだ。
今現在、時間にして大体午後4時過ぎにあたるくらいだろうか。
購入したテントやランタンをマジックゲートから取り出し、設営する。
目印としてテントを購入する時に何かの役に立つかもしれないと、黄色い布をテントの一部に目立つように縫い付ける。
これで誰も間違わないだろうし、分かりやすい。
早速、目の前の食堂に入り食事を注文する。
メニュー表を見ると確かにイーサンが言ったように値段がかなり安い。
まあいいや。取り敢えず一番上のメニューを頼む。
料理が運ばれてくると早速料理にがっつく。
今までお世話になった店の味程ではないが、腹が減っているせいか余計に美味しく感じる。
食べ終えた後、念の為もう1度自分のテントの場所を確認してから周囲を散策することにした。
もう辺りは陽が暮れ始めていたので、そこらじゅうで篝火が焚かれ始めていた。
柵に等間隔に、そして駐屯地の中に複数、出来上がっている建物の外壁、至る所に設置してある。
昼間説明された通り、兵士2人と冒険者1人がチームを組んで柵の周囲を警戒している。
どうやら3組で交代しながらの様だ。
その場を後にして、自分のテントに戻る。
中に入る前に、自分のテントに魔法障壁をかけておく。
篝火の火の粉でテントに穴が開くのを防ぐためだ。
(まあ、その可能性はほぼ無いだろうが念の為)
中に入り、マジックゲートから寝袋を敷いた後ランタンを取り出し火をつけて中を明るくする。
「あ、そうだ。一応これも買っておいたんだっけ」
とマジックゲートから細長いクッションの様な物を取り出し、寝袋の下に敷く。
幾らテントとは言え、そのまま寝袋を敷いたのでは背中や腰が痛くなるだろうと思い購入しておいたものだ。
寝袋の中に入りテントの天井を見上げながら
「明日から10日間ここで過ごすのかぁ。何も起きないといいなぁ」
と呟くと
「そうですね、何も起きなければ・・・」
と意味深な感じでアイが一言。
「ちょっと、アイさん?変なこと言わないでよ?」
と俺が言うと
「冗談です。でも本当に何も起きなければ良いですね」
とアイがいつも通りの口調に戻る。
「じゃあもう寝るよ。おやすみ、アイ」
と呟くと
「おやすみなさい」
のアイの声と共に眠りについた。




