第四十七話
翌朝。
起きてから朝食を食べて、暫くまったりする。
この間にスキルを選ぶためアイを呼び出す。
「ねえ、アイ。新しいスキルを解放したいんだけど・・・」
昨日はダンカン達の突然の訪問ですっかり忘れていた。
「はい。では一覧を表示します」
さて、次は何を選んだものか・・・
「お、なんか面白そうな物が!」
それは<土魔法で簡易的な小屋が作り出せる>。
これなら例え野宿になってもある程度安心して眠る事が出来るかも!
「そのスキルは読んで字の如くですが、精錬した魔力で小屋を作ると小屋自体に魔法障壁がかかり、外壁と内壁に炎魔法で篝火を灯す事も出来ます。
小屋の維持が可能な時間は翌朝貴方が起きたら少しづつ消えていきますので、覚えておいてください」
よし、これに決めた!!
「これにするよ」
と即答すると
「はい、わかりました。では解放します」
いつもの通り、体がふわっと浮く感覚を覚える。
よし。新たなスキルも開放したし、ギルドへ行くか!
スキルを解放し終わるとギルドへと向かう。
コンラド共和国へ行くための情報を得るためだ。
掲示板でそれらしき依頼を探してみるが、見当たらないので受付の女性に聞いてみる。
「あの、ちょっと聞きたいんですけど。
コンラド共和国に関する依頼とかってありますか?
例えばこの前のトリナーレ村の時みたいな輸送の護衛依頼とか」
と聞いてみると
「分かりました。ちょっとお待ちください」
とファイルの様な物を取り出して
「う~ん、流石にコンラド共和国に関する物はありませんねぇ。
この国とコンラド共和国はさほど交易があるわけではないので・・・」
との事。
「じゃあ、コンラド共和国に行くにはどうすればいいですか?
船はどこの港から乗るとか、馬車はどこからでてるとか?」
出来れば船がいいなぁ、なんて思っていると
「日数で言えばやっぱり船で行った方が早いですね。
なんと言っても1日で着きますから。馬車は確かだいぶ前に廃止になりましたよ。
日数がかかりすぎるのと、魔物や盗賊のリスクが大きいので」
なんだ、馬車はないのか。
「船だと、この先民間の船は1か月近く出ないんですよ。
最初に言った通り、この国とコンラド共和国とはあまり交易がありません。
交易船が出たり来たりするのは1か月ごとで、その交易船も一昨日出てしまいました」
あちゃ~、こりゃ参った・・・1か月も船が出ないのか~。
かと言って馬車を調達しようにも、引き受けてくれる所もなさそうだしなぁ
「あ、アイカワさんだ。おはよう、今日は早いのね~」
と元気のいい声が後ろから聞こえた。
声の主はマオだった。ダンカン達も一緒だ。
「どうしたんです?こんな早くからギルドに」
と聞かれて
「次の目的地をコンラド共和国に決めて、行く方法を聞いてたんだけど交易船が1か月先まで無くてね。
どうしようかと考えてたんだ」
と話すと
「そんな~、ほんとにこの街を去るの~?もうちょっといようよ~」
とマオが子供様な駄々をこねる。
「でも、交易船は1か月先まで無いんでしょう?それなら待つしかないんじゃない?
まさか本当に歩いて行くなんて考えてないでしょうね?」
とソフィアに聞かれたが
「勘弁してくれよ。馬車で2日もかかる距離を歩いて行くなんてなんの苦行だよ・・・」
と返した。
受付の前でそんなやり取りをしていると、所長のギブソンが偶々通りかかって
「お、アイカワさんか。どうした?こんなところで頭抱えて?」
と聞いてきた。
「ああ、所長。実は次に行く街をコンラド共和国に決めたんですが、船が一昨日出ちゃったみたいで。
コンラド共和国に行く依頼も探してもらったんですが、無いみたいでどうしようかと思ってたんです」
と相談してみた。すると
「コンラド共和国か・・・ちょっと所長室まで来てくれ」
と言われついて皆で行く事にした。
所長室に入ると分厚い本の様な物を開いて
「実は、王国から直々に依頼が来ていてな。その内容が
<バルシス王国とコンラド共和国の陸路の開拓>
と言う内容なんだが、受付で聞いたと思うが馬車での交易はリスクが大きいので今は中止になってる。
それを再開するために王国と共和国の中間に、共同で新たな街を作る計画が現在進行中なんだ。
そこに兵士達と一緒に一定期間駐留する依頼があるんだが受けてみるか?
駐留する期間が長ければ長い程報償紙が出る可能性が高いし、依頼料と依頼完了の手続きはコンラド共和国のギルドでも出来るから駐留期間が終われば、あっちの兵士と一緒に共和国に行けばいい。
魔導士もいればいる程あちらも助かるだろう。どうだ?受けてみるか?」
と提案された。
「へぇ~、そんな依頼が来てたんですかぁ。
でも掲示板にはその依頼書が貼ってないんです?」
とダンカンが聞くと
「考えてみろ?何日にも亘って街の建設に従事している人達や兵士達と共に、野宿するんだぞ?
掲示板に張り出したところで、そんな過酷な依頼を受けたがる冒険者はさほどおらんだろう」
と返した。
「駐留期間はこちらで決める事が出来るんですか?
それとも依頼を受ける時点で決まっているんですか?」
出来れば駐留期間はこちらで決めたいなぁなんて思いながら聞いてみると
「駐留期間はそちらで決められるぞ。最低でも7日間滞在しなきゃならんがな。
だが、日数が増えれば増える程報酬金額も上がるし、共和国側のギルド職員も滞在しているから周辺で狩った魔物の解体くらいならその場でしてもらえる。
唯一難点なのは、食べられる魔物の肉はそこに駐留している人達の食糧になるから買取にはならない事と、ギルドの職員がいてもその場でランクを上げる手続きが出来ない事だ。
正式なギルドとはまだ認定されてないからな」
と説明は続く。
「泊まれる場所はあるんですか?テントや自炊道具は自前で用意とか?」
仮の街を建設中なら止まる場所も整備されていない可能性もある。
「そうだなぁ。一応向こうでテントの貸出はあるが、道具は持って行った方がいいだろう。
行ってはみたものの、テントの空きが無くて見知らぬ誰かと相部屋ならぬ、相テントなんて事にもなりかねんしな」
それは嫌だなぁ。じゃあその類の道具は自前で用意するか。
「では、その依頼お受けます。コンラド共和国への足掛かりとして」
よし。これでコンラド共和国へ行ける!
「よし、分かった」
と言い、ギブソンは机の引き出しから1枚の紙を取り出した。
「この紹介状を城に持っていけば、兵士が駐屯地へ案内してくれる。
向こうでの詳しい仕事の内容も城で説明されるだろう」
その紙を受け取るとダンカン達が
「なあ、俺らも受けようか?頑張ったら報償紙ももらえてCランクに上がれるかもしれないぜ?」
と聞くと女性陣が即答で
「絶対嫌!!最低でも7日間も野宿なんて耐えられない!!」
と言ってダンカンの提案を一蹴した。
「じゃあ、アイカワさんともこれでお別れね」
とマオが言うと
「もっと修行に付き合ってほしかったなぁ」
まだ言うのか。修行ならどこでも出来るのに・・・
「じゃあみんな、元気でね!」
と俺が言うと
「キリアナ王国に帰る前に必ずバルシス王国に寄ってね」
と元気良く手を振って見送ってくれた。
テント等の道具を揃えるため道具屋に寄る事にした。
「あの~、テントや野営で使う道具が欲しいんですけど」
と店主に聞くとあれやこれやと色々アドバイスしてくれた。
流石に前の世界の様にワンタッチで完成する様な物は当然無いが、それなりに丈夫な素材で出来たテントを勧められ、補修用の布や糸、そしてそれらを縫う為の針も購入した。
調理器具に関しては一応、ナイフとフォーク、簡易的な寝袋に、肉を焼く用の小さい鉄板等々、よくあるキャンプ道具を一式揃えた。
よし、準備は取り敢えず出来た。城へ向かおう。
お城に到着し、門番に立っている衛兵にギルドで貰った紹介状を見せると
「暫くお待ちください」
と言われた。
言われた通り待っていると1人の兵士がやって来て
「では、任務についての説明をしますのでこちらへどうぞ」
と城の中へ案内された。
簡素なテーブルと椅子がある部屋に通されて椅子に座る。
「では、これより駐屯地での任務をご説明します。
魔導士の方は攻撃魔法なら兵士と組んで周囲の警戒を、回復魔法が専門の方は主に診療所で兵士や街の建設をされている方の治療をお願いしています。
因みに、魔法はどの類が専門ですか?」
正直に言った方が良いのかな?
「攻撃魔法が得意ですが、一応魔法障壁と簡単な回復魔法位なら出来ます」
と答えた。
「本当ですか!?それはありがたい!
野営という事もあって、補助魔法や回復魔法を使える方がなかなか集まらくて困っていたんです。
あと、テント等の道具はお持ちですか?あちらでも御貸し出来ますが、出来れば持参していただいた方がこちらとしてもありがたいのですが・・・」
と言われた。
「あ、さっき道具屋で一式揃えてきました。大丈夫です」
と言うと
「そうでしたか。いや、用意したテントが足りなくて2人1組でテントを使用するとなると、いざこざが起きないとも限らないので!
他に何か質問はありますか?」
うーん、そうだなぁ。
「参加した人達は平均何日間位駐留するんですか?
あとその駐屯地からコンラド共和国までどのくらいかかりますか?」
と聞くと
「そうですねぇ、人によってなので何とも言えませんが、大体平均で10日前後程留まりますかねぇ。
それにコンラド共和国へは物資の搬入の関係で馬車が往来しているので、それに乗っていけば1日かからずに着きますよ」
やった。馬車が出ているのか。そりゃありがてぇ。
「因みに食事ですが、自分で狩った魔物を共和国側の解体所に依頼をして、その肉を皆で食べる様な感じになっています。
換金できる部位はそのままバルシス王国か、コンラド共和国のギルドに持ち込んで頂ければ換金できます。
仮に肉が尽きても、バルシス王国とコンラド共和国がそれぞれ食料は持ち込んでいるので、それを配給しますのでご心配なさらず」
良かった。(自分の肉は自分で取ってこい!)なんて事は無いみたいだ。
「他に質問はありますか?ないなら暫くすると駐屯地に向けて馬車が出発ますが宜しいですか?」
そう言われると、駐屯地向けの馬車に案内されて乗り込み、出発する。




