第四十六話
翌朝。
起きて暫くした後、朝食を食べていると珍しくダンカン達がシャルナンにやって来た。
「あ、いたいた。おはよう、アイカワさん」
まだ少し眠気が残っている状態で食べている時に、急に声をかけられてにびっくりしてむせる。
「どうしたの?こんな朝早く。待ち合わせは午後のはずだよね?」
と疑問をぶつけると
「午前中、色々な用事に付き合ってもらいたくて。
修行だったり、ダンカンの鎧選びだったり、その他いろいろ」
なんで俺が必要なんだよ。そっちの個人的な用事に・・・
「いや、修行ならいくらでも付き合うけど、ダンカンの鎧選びとかなら君達だけで良くない?俺まで必要?」
そういや、まだ鎧を新しいのに変えてなかったのか。
「いや、俺だけだと見た目にこだわりすぎて値段を見ずに購入してしまう恐れがあるから、どうせならアイカワさんに鎧選びに付き合ってもらうと思って・・・」
まあ、いいか。魔力精錬の修行も鎧選びもさほど時間はかからないだろう。
「じゃあ、魔力精錬から始めようか」
そう言うと、俺を含む魔導士4人が床に座り修行を開始する。
俺はそんな女性陣に気にも留めず、ずっと集中している。
後からアイに聞いた話だが、女性陣はまだ慣れてないせいか数回繰り返しただけで顔から汗が出ていた様で、俺の様子を見て負けじと頑張っていたようで何度もトライしていたようだが、結局は途中で切り上げてしまったそうだ。
ダンカンはと言うと椅子に座って、半分寝ていたそうだ。
俺が魔力精錬を終えた時にはダンカン達がコソコソと雑談をしていた。
ふぅっと息を吐くと
「凄い!始めてから1度も途切れずに終わったわ」
とソフィアが言うと
「本当、早くこのレベルになりたいわ~」
とマオが俺を見ながら羨ましがる。
「じゃあ、次はダンカンの鎧選びだっけ?早速行こうか」
と立ち上がると全員で部屋を出て、武器屋街に向かう。
武器屋街に到着すると
「どんなタイプの鎧を選ぶの?全身を覆うタイプ?それとも上半身のみとか?
まさかまだリザードマン仕様にこだわってるの?」
と希望を聞いてみると
「あ、やっぱ見られてました?
いや~あの時はつい気が動転してしまって・・・」
とダンカンが恥ずかしそうに頭を掻く。
「もうリザードマン仕様にはこだわりません。
着けてみてしっくりくるのにします」
初めからそうすりゃいいのに、と思いながらある武器屋に入ると
「いらっし・・・お、あの時騒いでた兄ちゃん。
どうしたい?今日もリザードマンの鎧を探しに来たのかい?」
と接客をされたが
「いえ、もうリザードマン仕様にはこだわりません。自分に合う物を選びます」
としょぼくれながら鎧を探し始めた。
ダンカンが鎧選びをしている間に、俺も暇つぶしに自分の鎧も選んでみた。
あまりにもゴツいと動きづらくなって意味ないなぁ、とか思っていると
「お?あんたも鎧選びか?あんたは魔導士か?」
と俺に店主が食いつてきて
「いや、買う気はそんな無いんですけど、もし今買うならどれかなぁって」
こう言っておけば塩対応されるだろうと思ったら
「魔導士なら剣士用とはちと違うからなぁ。こんなのはどうだ?
リザードマン仕様ではないが脱着も簡単で、尚且つ左胸から両脇にかけてカバーしてくれるぞ?」
と鋼仕様の物を勧められたが
「そうですねぇ。
形は申し分ないんですけど、出来ればもっと扱いやすくてもっと丈夫な革仕様の物だとありがたいんですけど・・・」
と言うと
「う~ん、この形で革仕様かぁ。そうなるとこの国や隣のキリアナ王国でもないんじゃないかなぁ~」
確かにキリアナ王国でもこの形での革仕様の鎧は見た事が無かった。
なので今使っているこの簡素な鎧を選んだ。
「ここから遠く離れたサリムの街まで行けばなんとか見つかるかもしれんが・・・」
ん?そうなのか?
「でも、サリムの街に行く峠道ってかなり険しいって聞きましたよ?
それ故にトリナーレ村とサリムの街って交易が無いって言うし」
そう、前回の依頼でトリナーレ商会の人からそう聞いた。
「ああ、らしいな。
誰も開拓してないから向こうの情報は入ってこないし、人が入ったことが無いからどんな魔物が出てくるか分からないしな」
そりゃ、いくら何でも無理だなぁ。
そんなやり取りを店主としているとダンカンが購入する鎧を決めた様で
「すいません。これお願いします」
と店主を呼ぶ声が聞こえた。
1人で待っている間にどうすればサリムの街に行けるかをアイと話していたが
「私もトリナーレ村経由でサリムの街に行くのは反対です。
あの峠はどんな魔物がいるか全く記録にありませんのでとても危険です」
とアイにも止められてしまった。
会計を終えたダンカンと合流すると
「どうしたんです?難しい顔して」
と聞かれて
「いや、次の目的地をサリムの街にと思ったんだけど、どういう経路で行けばいいかなぁって考えてたんだ」
あの依頼の時はソフィアと話しただけだから、この事をダンカンと話すのは初めてだ。
「ああ、トリナーレ村の先にあるっていう街ですか。
村からの峠道はないっていうし、行くとしたらサリムの街ではなく別の国に行った方がいいかと・・・」
それを言われたら元も子もない。
「そうだよなぁ」
と肩を落としながら女性陣が待つ場所へ向かう。
「あ、来た来た。どうやらリザードマン仕様は諦めたみたいね」
ソフィアが皮肉めいた感じで言うと
「もういいだろその事は。悪かったって、あの時はみんなに迷惑かけて」
と平謝りのダンカンを他所に
「あれ?どうしたの?アイカワさん、ダンカンと同じくらいへこんじゃって。
なんか嫌な事でもあった?」
とリップが聞いてきた。
「あ、いやサリムの街へ行く方法が無くてね。
結局別の国に行った方が早いって結論になったよ」
と言うと
「え?もう別の国に行っちゃうの?アイカワさん。
まだこの国に来て数日じゃない!」
とマオが驚いたが
「トリナーレ村の依頼の時にソフィアには言ったけど、俺ももうそれなりの年齢だからさ。
あんまりのんびりし過ぎてると、あっちゅう間に老人になっちまうから。
それまでに出来るだけ色々な所を旅しておきたいんだよ。
まあ、最終的にはキリアナ王国に帰って来て、永住するつもりだけどね」
そう、旅は楽しみたいがキリアナ王国に帰る時間も考えれば、1つの国や街に長く留まるつもりはない。
「さ、とっととギルドに行って解体をお願いしちゃおう。
遅いと(また明日来い!)とか言われかねないよ」
と話を切り上げて全員でギルドに向かう。
ギルドに到着して解体所に直行する。
扉を開けると解体所の男性が
「おお、お前らか。良い所に来たな。
昼休憩が終わってこれから午後イチの解体を受け付けるところだ。
で、昨日頼もうとした魔物は何だ?」
と言い終わるのと同時に
女性陣がワイバーンの亡骸を全て出す。
「おいおい、ワイバーンか!しかも5匹も!こりゃまた大物だな
じゃあ、待合所で待っててくれ」
待合所の椅子に座っている間に、サリム以外の街について聞いてみる事にした。
「この周辺って、キリアナ王国とトリナーレ村以外に国や街ってあとは何処があるの?ここから歩いて行ける距離?」
と聞くと
「隣の国は<コンラド共和国>だけど、歩いて行くなんて考えない方がいいわよ?
船だと丸1日、馬車だと丸2日間かかる程遠いから」
とソフィアが言ってきた。
「え?そんなに遠いの?馬車で丸2日?」
と返すと
「そうよ。馬車だと丸2日。私なら船をオススメするけどね」
じゃあ、船かぁ。
あまり船って乗りなれてないから、船酔いとか大丈夫かなぁとか考えていると
「私、アイカワさんと一緒に行こうかな・・・」
とソフィアがボソッと爆弾発言をする。
ソフィア以外が一斉に視線を俺に向けると
「冗談よ、冗談。この国の専属魔導士になるのが夢って言ったでしょ?」
とおどけて見せたが、俺とソフィア以外は暫く時が止まっているようだった。
「お~い!解体が終わったぞ!」
との声と共に解体所に集まる。
「ワイバーンが1体12枚が5体だから合計金貨60枚だな」
と金額を聞くとダンカン達は喜んだが、俺はこの金額帯を聞きなれてしまったせいか
(ああ、このくらいなんだ)くらいにしか思えなかった。
「こりゃまた、金持ち連中の取り合いになるな」
なんて解体所の男性が愚痴っているのを聞きながら、皆それぞれお金を受け取る。
「そういや、城にはワイバーンの件は伝えたのか?」
と聞かれ
「いえ、これからお城に向かい兵隊長のガルフさんに報告に行くところです」
そうだ、忘れてた。城に報告しに行かなきゃ。
「では、是非そうしてくれ。
本当はギルドが伝えなきゃいけないんだが、昨日からてんやわんやで誰も手が離せないんだ」
と言われた。
「では、これから城に報告しに行きます」
と言って城へ向かう。
お城に到着する直前、マルズさんと鉢合わせした。
「ああ、皆さん。こんにちは。これからお城に?」
と聞かれ
「はい。そうです。同じタイミングでしたね」
とダンカン達と苦笑いしながら言う。
お城のすぐ近くで会ったので、一緒に向かう事にした。
門番をしている兵士に(ガルフに伝えなきゃいけない事がある)と伝え、呼び出してもらう。
城の中庭に通されて待っていると、すぐにガルフが出てきた。
「これはこれは、マルズさんもご一緒で。今日はいったいどんな用件で?」
と聞かれたのでトリナーレ村から帰還途中の話をすると
「そうでしたか。原因はワイバーンでしたか。
何処かに巣があるとすれば確かに面倒ですね。
ご報告ありがとうございました。この件は国王様に報告し、しかるべき対応をします」
と礼を言われて、全員で城を後にした。
マルズさんやダンカン達と途中で別れてシャルナンに戻る。
夕食を済ませて部屋に戻り、椅子に座ってコンラド共和国にいつ向かうか少し考える。
「どんな感じなのかなぁ、コンラド共和国って」
と呟くと
「コンラド共和国は3つの街と2つの村からなるこの世界では珍しい民主制の国です。
貴方が行こうとしていたサリムの街もその共和国の管轄になります。」
とアイが説明してくれた。
「なんか名産品とかあるの?」
と聞くと
「名産品という訳ではないですが、3つの大きな街にはそれぞれ特徴が違うようです。
サリムの街と周辺の2つの村は共和国の食糧を担う程の農業に特化した街ですし、
ラリムという街は共和国の一大歓楽街です。
カリムという街は、主に宿や昼間開いている店が集まっている街でラリムで働いている人達の住宅もこの街にあります」
なんだか面白そうだな。あ、いや歓楽街は興味ないよ?
「なら次はこのコンラド共和国に決まりだね。
手段は船にするとして、あとは行くタイミングだけどそれは明日以降考えるか」
あ、スキルも選ぶんだった。
まあいいや。明日選ぼう。
徐々に眠気が襲ってきたので、ベットに横になる。
「おやすみ、アイ」
と言うと
「おやすみなさい」
とアイの言葉と共に眠りについた。




