第四十四話
シャルナンでまったりしていると、ソフィアが訪ねて来た。
「どうしたの?他の皆は?」
と聞くと
「他の皆は今日は自宅待機。ドラゴンが飛来したせいでね。
それよりもお願いがあって来たの。修行に付き合ってもらいたいのよ」
修行って・・・一人でも出来るでしょ?
「修行って言っても、俺が一緒の必要ある?
魔力精錬だけだし、一人でも充分なんじゃ?」
至極当然の意見を言うと
「それはそうなんだけど、やっぱり誰かとした方がいいと思ったの。
リップは前々から欲しがってた武器を受け取りに武器屋へ、マオは家の手伝いで無理だって言うし、ダンカンは剣士だから誘っても意味ないから。
だからアイカワさんに声を掛けたって訳」
まあ、理に適ってるっちゃ、適ってるか。
「まあ、そういう事ならいいけど。それならお昼を食べてからにしない?」
もうそろそろお昼前で、何ならドラゴンとの一件もありお腹が空き始めていた。
「もちろん。それも兼ねてここに来たの♪」
と寧ろお昼御飯が本命なのではと思うくらい、ウキウキしている。
食堂に移動して席に着き、メニュー表を見る。
「私この店初めてなんだけど、オススメとかあるの?」
と聞かれたが
「殆ど一番上の(焼き魚セット)しか注文しないから、オススメするとすればそれかなぁ」
この店とベルダンではほぼこれしか注文したことがない。
「じゃあ、私はそれにするわ。アイカワさんも同じ物?」
流石に毎回同じではなぁ、と思って
「今日は流石に違う物を頼もうと思ってるんだけど・・・」
と言いながらメニューを見ていると<海鮮煮込み>なる料理を見つけた。
アクアパッツァみたいの物かな?と思い興味が湧いたのでこれにする。
「よし、決めた。この(海鮮スープセット)にするよ」
店主に注文を伝えて、暫く待つと同時に料理が運ばれてきた。
早速お互い食べてみると
「この魚、脂がのっていて美味し~」
と喜びの声を上げる。
俺もスープを1口飲んでみると、口の中で旨味が広がる。
具材もスープの旨味が染みわたっていてとても美味しい。
具材を食べ終わると残ったスープを、セットでついてきたパンに浸して食べると更に格別だ。
「ね、ねえアイカワさん。そのスープ1口頂戴?」
目を輝かせながら俺に聞いてくる。
どうやらパンにつけて食べてるのが余程美味しく見えた様だ。
「ああ、いいよ」
とソフィアが自分のスプーンで海鮮スープを一口すすると
この上ないリアクションをしながら
「んん~、このスープ美味しすぎる~」
と言いながら表情がほころんでいく。
料理を食べ終えて料金を払い、シャルナンを後にする。
ソフィアとの修行と言えばいつもの海岸だが、ドラゴンの騒ぎの最中で大丈夫なのか?
なんと思い聞いてみると
「寧ろ、誰もいない方が集中できるでしょ?」
とサラっと返されてしまった。
海岸に到着して周りを見回しても、やはり誰もいなかった。
(まあ、そりゃそうか)と早速2人で魔力精錬の修行をする。
ソフィアはまだ慣れていない様で、途中休憩を挟みながら魔力精錬を繰り返す。
暫く時間が経ち、修行を終えて街に戻る前に少し海岸を歩く事にした。
「そう言えば、アイカワさんってなんで冒険者になろうと思ったの?
魔法の素質があれだけあって、しかもキリアナ王国で凄い人達に囲まれてたなら、王国直属の魔導士にもなる事も出来たんじゃない?」
と話題を振られたが
「なんか、組織に属するとか団体行動とかってのが苦手なんだよね。
師匠に引き取られてからも、ある程度自由にさせて貰ってたってのもあってね。
だからパーティーも組んでいないんだ」
と存在しない師匠を想像しながら言ってはみたが、あながち嘘ではない。
昔から団体行動が苦手だったのは間違いない。
特に社会人になってある程度の期間頑張ってはみたものの、人間関係が元で再度立ち上がる気力が湧かなくなったのは事実だ。
他の人からすれば
(なにを甘えた事を)
とか
(世の中そんなのが当たり前なのに何を言っているか)
と言われるのは分かってはいるが、そんな人も少なからずいる。
問題はどうやって再度立ち上がるかだが、前の世界にいる時はその方法が分からなかった。
それに今いるこの世界は、ある意味で言えば(剣の腕がある)とか(魔法の素養がある)などの実力さえあれば自由に生きていける世界。
創生神様に大魔導士の能力を与えて貰ったとはいえ、こちらの世界に転生してまで命令1つで命を張るなんて事はしたくない。
「ふぅん、そんなものかなぁ。
まあ、1人が気楽だってのはわからなくはないけど」
と一定の同意は得られたようだが
「でも、それでも私の場合は(組織にいるからこその安定)が1番魅力的かな。
何と言っても安定という保障こそ何にも代えがたいし」
なんか(終身雇用に憧れてる昔の学生)みたいな意見だなぁ・・・
「うん、その意見もすごく分かるんだけど、それでも俺は自由を取るかなぁ」
と返しているとある程度離れた所に変な集団がいる。
「なんだ?あの集団」
格好は俺が身に着けているような簡素な防具と剣。
どう見ても漁師には見えない。
「もしかして、海賊だったりして」
なんてソフィアが言ったが
「でも、海賊って昔リザードマンの群れに滅ぼされて、無くなったんじゃなかったっけ?」
確かバルシス国王からそう聞いたが
「この地域のリザードマンの群れが倒されたから、頭の悪い連中がまた海賊を結成したのかも」
そんなアホな事するかなぁ、と考えていると
「とにかく近づいてみましょ」
と俺が止める前にソフィアが遠回りして連中に近づいていく。
怪しい連中から見つからない様に、海岸から少し離れた林に隠れながら徐々に近づいていくが、最終的な連中までの距離はかなりあった。
探知魔法で正確な人数を確認すると6人はいる。
「この距離からじゃ、連中の会話は聞こえないわね」
とソフィアが言ったが、俺は肉体強化を発動して連中の声に集中してみると
「リザードマンがいな・・・ャンスだ・・・俺達が海賊に・・・一山当てて・・・」
所々波と風の音が邪魔をして上手くは聞き取れないが、どうやら海賊でほぼ間違いない様だ。
こりゃ、遠くから見ていても始まらないかな。
「ねえ、ソフィア。もしもの時はバックアップ宜しく」
と言うと徐に立ち上がり普通に歩いて行く。
「ちょっ、アイカワさん。アイカワさん!」
とソフィアが止める声を無視して連中にどんどん近づく。
近づいていくにつれて、自称<海賊>達の声もはっきりと聞こえ始めて来た。
リーダーらしき人物が
「手始めに港にある元軍艦を頂いてしまえば、後はこっちのものだな」
と笑顔で話している。
すると近づいてくる俺を仲間が認識したのか
「おい、なんだありゃ。こっちに近づいてくるぞ」
と言うと
「海賊の初仕事だ。まずはアイツの有り金と装備を頂いちまおうぜ」
との声が聞こえてくるが、お構いなしにわざとらしく歩いて行くと
「おっとぉ、待ちなよオッサン!ここを通りたければ装備と有り金すべて置いていきな!」
とリーダー格の男が立ちふさがった。
なんか、聞き覚えのある訛りだな・・・
それによく見ると海賊言う割には体格が些かしょぼい。
今まで見た冒険者や城の兵士よりもヒョロく感じる。
それぞれ2人ずつの3組に分かれている。
何も言わず連中の顔をそれぞれ見ていると
「おい聞こえてんだろうが!とっとと有り金よこしやがれ!ブチ殺すぞ!!」
と別のメンバーが怒声を上げるが
「はぁ、拍子抜けだわ」
と呟くと
「あぁ!?んだと、ゴルァ!!」
とリーダー格の男が言った瞬間に右側にいる奴の後ろに回り、膝の裏を蹴り跪かせた後手刀で気絶させ、その隣にいる男がこちらを振り向いた瞬間、顎に軽くジャブを入れる。
今度は左側に移動し、立っている2人の頭をそれぞれ手で持ち、軽くぶつけて気を失わせる。
次に5人目の前に移動して、膝で股間に一撃を入れて悶絶させる。
あっという間の出来事に、パニックになったリーダー格の男が震える手で剣を抜くと
「そ、それ以上近づくんじゃねぇ!近づくとぶっ殺すぞ!」
と怯えている表情で俺を見ているが、お構いなしに真正面から歩いて近づいていく。
「おい、どうした?近づくと殺すんじゃなかったのか?両手どころか体が震えてるぞ?」
と相手を煽ってはみるものの
「ううう、うるせえ!く、来るなぁ~」
と今にも泣きそうな表情を浮かべながら剣を振り上げた瞬間に、グリップを左手で押さえ、右手で腹部に軽くパンチを入れる。
軽くとはいえ肉体強化が掛かっているので、威力はある方だろう。
リーダー格の男が両膝を砂について悶絶しているとソフィアがやってきた。
「凄~い!1人で6人やっつけちゃった!」
と驚いていた。
「それより、どうするの?この人達?海賊なんでしょ?」
と俺に聞いてくるが
「いや、正確には(今から海賊になろうとしている)やつらみたいだよ?
普通なら城の兵士に引き渡すんだろうけど、正式な海賊ではないし、兵士は相手にしてくれるのかなぁ、こういう場合」
と困っていると
「ああ!こんなところ居やがった!!このバカタレ共が!!」
とやたらデカい声が聞こえた。
声の方向を向いてみると、体格のいい8人の男達がこちらに近づいてくる。
漁師の格好をしている男達の1人が
「あ、あんたら。確かギルドの依頼で魚の魔物を倒してくれた人らでねぇか!」
と話しかけてきた。
「ああ、あの時の漁師さん達!
え?て事はこの(自称海賊)達は皆さんの知り合い・・・?」
と唖然としていると
「知り合いも何もコイツらは俺達の家族や親族なんだよ~。
なんでも
(漁師だと稼ぎがあまり無いから海賊になって一発当ててやる~)
とか他の若い連中にほざいて回って、とうとう武器まで買って隣のこの地区の海岸に来ちまったんだ。
それを聞いた俺らが急いで止めに来たら、こうなってたんだよ~」
と言うと、目が点になっている俺とソフィアをよそに
「とっとと起きろ!このバカタレが!」
とリーダー格の男の頭を思いっきり引っ叩くと
「ひ、ひいぃぃぃ~~~。ごめんよ~~、兄ちゃ~~ん」
と俺に切りかかった時よりも情けない声を出して、涙まで流していた。
漁師達の方があの(自称海賊)達より余程迫力がある。
それにしても訛りがキツイと怒るのも迫力があるなぁ。
俺も地方出身者なので、訛りの強い声で怒鳴られる程怖いものはない。
他の男性達もそれぞれの男達の頬を叩いて起こしたり、担ぎ上げたりして
「すまねぇことしたねぇ。怪我はないかい?」
と聞かれたが
「い、いや。どこもないです」
苦笑いしながら答えると弟に向かって
「このバカタレ!ちゃんと謝れ!!」
ともう1発頭を叩くと
「すんませんでしたぁ~~。2度とこんな事しませぇ~ん」
とまだ泣いていた。
「じゃあ、俺らはこれで」
と漁師たちが(自称海賊)達を連れて帰っていく。
「俺達も帰ろうか」
とソフィアに言うと
「そ、そうね」
と言い、何とも言えない気分で街に戻る。
雑談しながらシャルナンの近くまで来ると日が暮れ始めていた。
「いや~、それにしてもあの人数を相手によくやったわね~」
とソフィアが言い出したが
「だって、どう見たって<海賊>っていう割にはヒョロヒョロだったし、怒声を発した時の、なんて言うか<凄味>みたいなものが感じられなかったから、こりゃ大丈夫かなって・・・」
改めてあの時の奴らの顔を思い浮かべるが、やはり気迫って言うか凄味が無い。
もし、俺でなくてもケインやウィル、いや何だったらエヴァン1人でも勝てただろう。
「まあ、修行のついでに面白い物も見れたし、今日はこれで帰るとするわ。
じゃあね~」
と言いソフィアが去っていく。
俺としては少しも面白くなかったが・・・
シャルナンに入ると、早めの夕食を食べて部屋に戻る。
椅子に座り一息ついていると
「いかがでしたか?海賊と初遭遇した感想は」
と聞かれたが
「いや、海賊って。ありゃ(自称)でしょ。ヒョロヒョロな上に、凄味すら感じなかったし。
結果的に(俺が止めた)事になったけど、後から来た漁師達でも余裕で止める事が出来たと思うよ?」
凄味で言えば漁師達の怒り方が圧倒的に上だったしなぁ。
「何はともあれ、あれだけの目に遭えば2度と海賊をやろうなんて思わないでしょ」
そう言いながらベットに横になる。
暫くアイと雑談していると、次第に眠気に襲われてきたので寝る事にした。
「おやすみ、アイ」
と言うと
「おやすみなさい」
との声と共にこの日は眠りについた。




