第四十二話
翌日、朝起きてからいつものルーティンの魔力精錬の修行をしてから朝食を食べる。
この日も特に何をするかは決めてはいなかった。
「流石にギルドに行ってみるか」
あまり依頼を受けてないとなまけ癖が出てきて、何もしなくなってしまうのを恐れたためだ。
ギルドに到着して中に入ると、職員全員がなんだか慌ただしく動き回っていた。
他の冒険者達と訳も解らず立ち尽くしているとダンカン達が俺を見つけて
「ああ、アイカワさん。こんにちは」
と話しかけてくれた。
「いったい何の騒ぎ?これ」
とダンカンに聞くと
「なんでも沖合でドラゴンが目撃されたらしいよ?
それで国中が大騒ぎになっていて・・・」
は?ドラゴン?
「しかも1人じゃなくて複数の漁師が目撃したって話だから、間違いないみたいよ」
とリップが追加で説明してくれた。
「でも、沖合って事は下手に手を出さなければ、こちらには飛んでこないんじゃないの?
実際、目撃した漁師達も何の被害も出てないんでしょ?」
とマオに聞くと
「まあ、それはそうなんだけどね。何しろ相手はドラゴンだから。
やっぱり国としては警戒しておくに越したことはないのよ。
警戒してない状態で気まぐれで街に飛来されたんじゃ、たまったもんじゃないからね」
と返って来た。
まあそりゃそうだが、仮に準備していたからと言っても追い返せたり、ましてや退治なんて出来ないだろう。
キリアナ王国の瘴気の浄化の時にアイに言われた言葉を思い出す。
(ドラゴンが相手ならこれっぽっちの軍勢ではあっという間に全滅する)
あの時の人数はかなりいたが、それでも(あっという間に全滅)というくらいなのだから想像もつかない程強力なのだろう。
「過去にも(近くにドラゴンが飛んでた)なんて報告あったの?」
とダンカンに聞くと
「いやぁ、この国にずっと住んでるけどこんな事初めてですよ。
普通ドラゴンは人里から離れた山に巣を作るのが定説とされていますしね」
へぇ、そうなのか。
「ドラゴンと言えば、俺の婆ちゃんの昔話で(ドラゴンは人間の言葉が話せる)らしいぜ?」
とダンカンが子供っぽい口調で話すと
「あ~、私も幼い頃聞いたことある。
それに不用意に近づいたら一瞬で消されちゃうって。
でも昔話でしょ?本当かどうかなんてわからないわよ。
それに昔話って大概
(子供に危ない場所に近づかない様に言い聞かせるための作り話)
ってパターンがお決まりだしね」
とソフィアがダンカンの話を否定した。
「なんだよ、つれないな~。もう少しノッてくれてもいいじゃ~ん」
と拗ねた。
そんなやり取りをしているとガルフがギルドにやって来て所長を見つけると、少し話をしてギルド内にいた全員に
「冒険者のみなさん、今しがた王国からの報告でドラゴンはこの国から離れていきました。
しかし、一応念の為今日と明日は依頼は中止とします」
との発表が出て、掲示板に貼ってあった依頼書が一斉に剝がされていく。
「あちゃ~、今日と明日は何も出来ずかぁ~。どうしようかな」
と思わず声が出ると女性陣3人が一斉に俺を見て
「アイカワさん、修行に付き合って!!」
と声を揃える。
「え?修行?魔法精錬の?」
と目が点になっていると
「ここ最近、朝起きるとずっとこの修行とやらをやっているんだよね。
前までは起きるのすら億劫そうだったのに」
とダンカンが苦笑いをしながら俺に話す。
相当、キリアナ王国での話が刺激になってるな。
「でも、俺がいなくても魔力精錬の修行だったら出来るでしょ?」
と返すと
「見本が見たいのよ。精錬された魔力で放つ魔法が。
それが見る事が出来れば、私達の今後の励みになるしね。
ね?いいでいしょ?ね?ね?」
まあ、いいか。何も予定は無いし。
「わかったわかった。じゃあ、何処で修行する?」
と皆に聞くと
「やった~!じゃあ、昨日私と会ったあの海岸に行きましょう?」
と言われたが
「海岸はダメだ!行くんじゃない!」
と後ろから所長のギブソンの声が響いた。
「ドラゴンが飛び去ったのは山の方ではなく、沖合の方だから海岸には行かないでくれ。
万が一ドラゴンが旋回してこちらに戻ってこないとも限らんからな。
修行とやらは別の場所でしてくれ」
とクギを刺された。
「じゃあ、私の家に行かない?町はずれにあるし、キリアナ王国側だし」
とマオが言うと
「ああ、そう言えばそうだな。みんなもそこで良いだろ?」
とダンカンが皆に同意を求めると全員が頷く。
「よし、そうと決まれば早速行きましょう!」
と女性陣に逃げ場を半ば連行される感じでギルドを後にする。
マオの家に到着すると
「ただいま~」
と言うと
「なんだ、今日は随分早かったな~。
おや、ダンカンじゃないか!久しぶりだな~」
と庭で野良作業をしていたマオの親父さんがダンカンに話しかける。
「お久しぶりです。おじさん」
と笑顔で答える。
「あら、そちらの方は?」
とお袋さんが俺を見ると
「初めまして、アイカワ ユウイチと言います」
と自己紹介すると
「今日、沖合に現れたドラゴンの騒ぎで、明日いっぱいまで依頼が受けられなくなったの。
それでこの前の海での依頼で知り合ったアイカワさんに、修行をしてもらおうと思って来てもらったの」
いや、俺が教える訳じゃないでしょうと苦笑いをしていると
「もう、何言ってるの?マオ。
教えてもらうんじゃなくて、修行に付き合ってもらうんでしょ?」
と笑いながらソフィアが俺の代わりにツッコんでくれた。
「何はともあれ、早速始めましょ?少し離れた所に良い場所があるから」
とマオについて行く事にした。
マオの家から離れた何もない場所に到着すると
「じゃあ、早速精錬した魔力の攻撃魔法を見せて!」
と頼まれた。
何か的があった方が当てやすいからという事で、落ちていた太めの木の棒を地面に刺した。
かなり距離を取った後
「じゃあ、これを的にしよう」
と言うと魔力を精錬した後、右手を木の棒にかざして炎魔法を撃つ。
ソフトボール程の大きさだったが、木の棒に命中する。
威力が高かった為か木の棒が刺さっていた地面はかなり抉れていた。
「こんな感じなんだけど・・・」
と言いみんなの方を見ると全員目が点になっていた。
「凄~い。私、こんな炎魔法見たこと無い!」
とマオが驚嘆の声を上げた。
「な、なに。この威力・・・」
と依然として目が点になったままのリップ。
「なるほど、いい目標が出来たわ!」
と俄然鼻息を荒くするソフィア。
「アイカワさん、実戦で精錬した魔力を使用した事はあるんですか?」
とダンカンが聞くと
「何度かあるよ。
最近だと、一緒に行った海上の依頼で魔物を船に誘導する時に、氷魔法で魔物の両側に氷の壁を作った時や魔物を氷漬けにした時あったでしょ?
あの2つの氷魔法は精錬した魔力で放った氷魔法だったよ」
と説明すると
「ああ、あの時がそうだったんだ!戦闘中だったから全然気にして無かった」
マオが当時を思い出したようだ。
「じゃあ、時間がもったいないから始めたいところだけどここで魔力精錬するの?
一応魔物が近づいてくる可能性も考えたら、マオの家に戻ってした方が良くないか?」
と俺が言うと
「そうねぇ。じゃあ、一旦家の近くまで戻りましょう」
・・・とその前に俺が魔法であけた穴を戻る前に埋めてから戻る事にした。
マオの家の近くまで戻って来たところで、女性陣3人が早速修行に入る。
残った俺とダンカンはと言えば、一応周囲を警戒しつつダンカンの剣の修行に付き合う事になった。
ダンカンは最初乗り気ではなかったが、俺も魔法だけで乗り切れない場合の為にとダンカンを説得した。
結果から言えば、自分で言うのも何だが結構いい勝負だと思った。
肉体強化を使えばそりゃ難なく勝てるだろうけど、それでは意味が無いと思ったので使用せずに挑んだ。
そしていつの間にか集中し過ぎて俺とダンカンが息が上がり、互いにへばって座り込む頃には女性陣は魔力精錬の修行を辞めて俺達の修行を見ていた。
「あれ?もう終わったの?」
と息を切らしながら俺とダンカンが女性陣に聞くと
「何が(もう終わったの?)よ。とっくに辞めてたわよ。
貴方達2人が集中し過ぎなの!」
と呆れられてしまった。
雑談しながら休憩していると
「みんな~、御飯が出来たわよ~!」
とマオの母親の声が遠くから聞こえたので向かう事にする。
マオの家に到着すると、庭にバーベキューセットが用意されていた。
「まずは座ってお茶でも飲んで一息ついてくれ」
とマオの父親に促す横でマオの母親は大きめの鉄板で肉や野菜を焼いている。
「今日のお肉は凄いわよ~?なんと高級肉で知られるリザードマンのお肉~!」
と自慢げに語るマオの母親。
「うそ~、そんなお肉どうやって手に入れたの?」
とマオが驚く。
リアクション見るに本当に知らなかったようだ。
「え、でも確かリザードマンの肉って金持ち達に買い占められたんじゃ・・・」
と俺が言うと
「おお、良く知ってるね。
いや実はね、ギルドの解体所の担当者と俺は幼馴染でね。
リザードマンを解体していると知らずに遊びに言ったら、コッソリ分けてくれたんだよ」
とマオの父親が話してくれた。
そうこうしている内に焼きあがった肉をその場にいる全員で一斉に食べる。
「ん~、美味しい~!」とか「たまらない~!」などの歓声が上がる。
こんなに美味いのか~、リザードマンって。と味を噛みしめていると
「どう?アイカワさん。自分が仕留めたリザードマンの味は」
とソフィアが唐突な一言を放つ。
その一言に俺はむせるのを抑えながら
「ちょっ、ソフィア。それは言わないって約束・・・あ」
全員の顔が俺に集中するとダンカンの
「本当なんスか!?」
やマオやリップの
「嘘!?本当?ねえ、どうやって!?聞かせて聞かせて!」
とねだられたりでちょっとした騒ぎになった。
もう、こんな事になるから知られたくなかったのに・・・
観念したように、先日ソフィアに説明した内容と同じ事を説明した。
説明を終えるとダンカン達は子供が童話を聞くかの様な笑顔をしていたが
「あの~、ソフィアには言ったけどあまり言わないでね?」
と俺が言うと
「わ~かってますって。まあ、ソフィアは俺達に言っちゃいましたけど」
と苦笑いした。
ひとしきり料理をご馳走になり、落ち着いていると
「ねえ、アイカワさん。
少しの間で良いから、私達のパーティーに参加してくれない?
貴方と一緒に戦えば何か掴める気がするの!」
とソフィアが言い出したが俺はソッコーで
「ダメ」
とバッサリ切り捨てた。
「え~!なんで~?」
と詰められたが
「結論から言うと、俺は一人で気ままに生きたいから。
それに日々の修行が大事なわけで、俺がパーティーに参加してもする事が変わらないんだったら別にいなくてもいいでしょ?」
と理由を説明すると何とか理解してくれた。
ダンカン達はまだ少し残るそうなのであまり長居してもと思い、俺は帰る事にした。
街に戻ってもなにもすることが無いので、シャルナンに直行する。
部屋に入ると椅子に座り、一息つく。
「明日はどうしようかな」
と呟くと
「ダンカンさん達の修行に付き合ってみるのは?」
と提案されたが
「いや、主に修行するのは女性陣だし、俺が行ってもなぁ」
と提案には消極的だった。
「それに変に持ち上げられると、自惚れて勘違いしてしまいそうで嫌なんだよ」
そう、自分の実力に自惚れてしまうと、ダンさんに言われた
(その力を間違った方へ使わないで)
という言いつけを破ってしまいかねない。
なので他の誰かに、力をひけらかしたりする事は極力しないと決めている。
ひとまず、今日はもうこのまま夜までまったりしてもう休むことにしよう。
アイとの雑談をひとしきりした後、ベットに入りこの日は寝る事にした。




