第四十一話
翌朝、起きてから朝食を軽めに取った後部屋に戻り、魔力精錬の修行をする。
いつもはギルドに兼ね合いもあって軽めにするが、今日は予定が無いので少し長めにする事にした。
修行を終えて一息ついた後、アイに新たなスキルの解放をお願いした。
「では、次のスキルを選んでください」
アイがスキルの一覧をスクリーンに表示する。
さて次はどれを選んだものか・・・
出された一覧を見ていると変わったスキルに目が止まった。
<自分の本心しか言えなくなる>
・・・なんだこれ。
「ねえ、アイ。この(自分の本心しか言えなくなる)ってどんな時に使うスキルなの?」
当然の疑問だ。するとアイは
「相手にこのスキルを使用すると文字通り、相手は周囲に対して嘘が付けなくなります」
とあっさり答えたが
「いや、使う場面かなり限定的じゃない?政治家や権力者くらいにしか使えないでしょ?」
この世界で必要というより前の世界の方が必要だろうと正直思ったが
「使いどころによっては結構有能なスキルだと思いますよ。
何しろ権力者の陰謀や嘘がその場で暴けるのですから。
上手く使えばその国を苦しめている王や領主を倒し、住民達を救う事も可能です」
と・・・いやいやいや、それでも限定的すぎるっしょ。これはパス。
改めて一覧に目を向ける。
「お?<攻撃魔法のアップグレード>?」
と思わず呟くと
「はい。攻撃魔法を全体的にアップグレードするスキルです。
例えば、以前(魔法の力を武器に移して使用する事は出来ないか)
と聞かれましたが、それを魔法単体で出来たりします」
マジで!?
「じゃあ、例えば炎魔法や雷魔法を剣や弓矢で作り出して、素手で持って使用できるって事?」
と聞くと
「はい、貴方自身が使用するなら問題ありません。
但し、作り出した魔法を他の人が使う事は出来ません。
あと重力魔法に関して言えば
(魔物がいる場所に一時的に重力を加えて態勢を崩したり、特定の部位を押し潰したり)
のみでしたが、追加で
(相手や物を自分の近くまで引き寄せたり、引き離したり、浮かせたり)
も出来るようになります」
よし!これだ!
「これにするよ」
と即決すると
「宜しいのですか?攻撃魔法に関しては威力が上がるわけではありませんよ?」
と念押しされたが
「ああ、大丈夫。単に威力だけを上げても使い勝手が良くなかったら意味が無いと思うし」
以前解放した<高密度魔力>に関してもそうだが、威力は高いが使う場所や状況が限定されていては解放した意味が無くなってしまう。
その点を考えても今回のこの<アップグレード>のスキルは願ったり叶ったりだ。
「では、解放します」
とアイが言うといつも通り、体がふわっとした感覚になりスキルが解放される。
「よし、これで戦闘の幅も広がるはず・・・だよな?」
と少し自信なさげに片手で握り拳を作ると
「解放した後に言われも困ります」
とキレイなツッコミが返って来た。
「すんません。ごもっともです」
と返すのが精いっぱいだった。
そうこうしている内にお昼になり、シャルナンで昼食を食べてから新スキルの確認も兼ねて外出してみる事にした。
まずは街を抜けて海岸に出て、新スキルを試してみる。
両手を剣を持つように重ねて目を閉じて両手で<炎の剣>を持つイメージを・・・
と魔力を集めると、出来た!!
目を開けると炎の剣を素手で両手で持っていた。
全く熱さを感じない。
サイズもケインが装備していたのと同等サイズの大剣だが、何度も素振りをしてみても重さもまるで持っていないかと思うほど軽い。
「おお!」
と思わず声を出してしまう。
片手のみだと消えなかったが、両手を離すと炎の剣は消えてしまう。
「片手のみでもいいのか。よし、次は」
と周囲を見回すと結構な大きさの流木があったので、重力魔法で引き寄せてみる。
右手を前に出して、重力魔法を発動させて引き寄せるイメージをすると、見事に大きな流木を手元まで引き寄せる事が出来た。
その逆も可能で、引き寄せた流木を元の位置まで吹っ飛ばす。
これだよ、これ!やりたかったのはこのイメージ!
と声を出さず思いっきり両手でガッツポーズし終えると後ろから
「なーにしてるの?さっきから一人で」
と聞き覚えのある声が聞こえた。
後ろを振り向くとソフィアが苦笑いをしながら俺を見ていた。
「や、やあ、ソフィア。いつからそこにいたの」
と恐る恐る聞くと
「貴方が向こうの流木に向かって手をかざしてガッツポーズしてた時から」
と答えた。
良かった~。重力魔法は見られていない。
「あ、いや、新しい魔法が出来た時のイメージをしていてさ、成功した時のガッツポーズまでそのまま出ちゃったんだ」
と返した。
「ソフィアこそ、ここで何してるの?修行?」
とドギマギしながら聞くと
「私、この海岸の近く村の出身なの。それで魔法の練習も兼ねてたまに帰って来てるの」
へぇ~なんて思いながら聞いていると
「この地域もきっと王国の支援で、きっと当時住んでいた人達も戻ってくると思うわ。
まあ、私は戻らないけど」
と続けた。
「え?戻らないの?」
と聞くと
「だって、それって私が生まれる前の話で両親が若かった頃の話だもの。
それに、今更この地域に戻って来ても両親はそこそこの年齢だし、生業になりそうな事は何もできないわ」
まあ、そりゃそうか。
「まあ、もっと実力をつけて私がリザードマンの巣を壊滅しようとしてたんだけどね。
ギルドで聞いたんだけど、たった1人でリザードマンを合計15体も倒しちゃう人なんていったいどんな人なのかしら、会ってみたいわ~」
と両腕を組みながらまるでおっさんみたいな仕草をした。
俺が若干縮こまりながら手を上げると
「ん?どうしたの?恐る恐る右手を上げて。え?まさか・・・」
と言った後に小さく俺が頷くと
「え~、貴方なの?この近くのリザードマンの巣を壊滅させたのって!」
と驚きの声を上げた。
「あまり自慢するようで嫌だから言わなかったけど実はそうなんだ」
あ~あ、言っちゃった・・・面倒な事にならなきゃ良いけど。
「ねえねえ、どうやって?どうやって15体も倒したの?教えてよ~」
とまるで童話を聞きたがる子供の様にはしゃぎだした。
「そりゃ、全部魔法に決まってるでしょ。
使用したのは雷魔法で、群れのボスのリザードマン・サージェントは元々ついてた傷口に、他のリザードマンが落とした剣で傷をつけた後、そこに雷魔法を撃ち込んで何とか倒せたの」
とあの時内容を簡単に説明した。
「ソフィアが知らないって事は、街の人もまだ知らないって事だよね?
自信過剰って訳じゃないけど、誰かに言いふらしたりしないでね?
変な噂が立って街を歩きづらくなるの嫌だから」
とクギを指すと
「わかってるわ。それに
(リザードマンの巣を壊滅させたのが、この国に来てまだ数日の冒険者!)
なんて言っても誰も信じないわよ」
と笑いながら答えたが続けて
「そう言えば、キリアナ王国のダンさんから教わった修行を詳しく教えて?」
と聞いてきた。
「特別な事ではないと思うよ。体の中で魔力を一定量集めて、それを練り上げるってやつ。
意外と難しいみたいよ?弟子のルーシーさんやケイトさんも毎日してるみたいだし」
と教えて貰った事をそのまま教えた。
「練り上げるって、どんな感じで?イマイチ想像できないよ」
と聞かれ
「そうだなぁ。上手く伝わるかわからないけど
(体の中に集めた魔力の玉を透明になるまで磨いていく)
ってイメージなんだけど伝わる?」
と言うとその場で試し始めて
「・・・、・・・、あっ、何となく、ん~、・・・」
ともどかしそうな声を上げると
「ぷはぁ~、やっぱりだめだ。
半透明な状態までは持っていけるけど、途中で集めた魔力が消えて無くなってしまうわ」
どうやら途中までは上手くいったらしい。
「アイカワさんは最初から成功したの?今でも毎日この修行してるの?」
と矢継ぎ早に聞かれたので
「うん、最初から成功したよ。少ない魔力量で始めたから出来たと思うんだけど。
それに修行は依頼を受けに行かない日以外は、午前中の短い時間だけどしてるよ。
何かを続けるのは苦手だけど、そのくらいの短い時間なら集中できるし」
と正直に答えると
「ふむふむ、なるほど・・・」
と俺が言っている言葉をかみしめるように聞いた後
「よし。明日から、いや今日の夜から私も頑張ってみる!」
と右手で握り拳を作りながら鼻息を荒くしている。
「頑張るなら、リップやマオにも教えて一緒に頑張った方がいいと思うよ?
一緒に頑張ると張り合いもあっていいと思うし」
と付け加えると
「確かにそうね・・・そうするわ。ありがとう。
感覚を忘れないうちに早速帰ってもう一度試さなくちゃ!じゃあね!」
と凄くキビキビした動きで颯爽と帰っていった。
では、俺も帰るか。
シャルナンに到着して、食堂で夕食を食べて部屋に戻る。
今日1日会った事を思い出してみる。
ソフィアに重力魔法を見られたのかとドキドキしていたが、見られてなくて安心した。
もし(さっきの不思議な魔法を教えて!)なんて言われたらどうしようと焦ったからだ。
この街にはいつまでいようかなぁ、なんてふと考えてしまうが
「まだ来て数日だしなぁ」
もう少しいてもいいよなぁなんて考えているとアイが
「急がなくてはいけない用件が無いのであれば、まだ留まっても良いのでは?」
と一言が出たので
「まあ、そうだよね」
そこまで急がなくても良いだろう。
のんびりと気ままに旅をしよう。
そう思いながらベットの中に入り
「おやすみ、アイ」
と言うと
「おやすみなさい」
のアイの声が聞こえ、眠りについた。




