第四十話
船が港に到着すると、漁師達がいつも集まる建物に俺達を案内してくれた。
船から降りると今回同行してくれた漁師達の奥さんやその子供達が、お茶やお菓子を用意してくれていた。
「今日はさぞかし疲れたろう。お茶くらいしか出せないが、少し休憩していってくれ」
良かった~、船の上にずっといたから感覚が少しふわふわしていた。
休憩中、俺は子供達と触れ合う事は無かったが、ダンカンは妙に好かれていた。
ダンカンも悪い気はしていない様で、明るく子供達の遊び相手になっていた。
冒険者ではなくて、保父の方があっているのではないかとさえ思うくらい馴染んでいる。
暫くした後、漁師達から<依頼完了>の証明書を貰った。
「いやぁ、あんた達のおかげでこの地域も安心して漁を再開する事が出来るよ~。
今日は本当にありがとう」
と感謝の言葉を貰い、港を後にする。
ギルドに帰る前に緊張が完全に解けたのか、少しお腹がすいてきた。
漁師達からご馳走にはなったが、それでもお茶やお菓子では満たされていなかったからだ。
話し合った結果
(食堂に入るより、食べ歩きの方が楽だろう)
という事になり、市場へ向かう。
市場へ到着すると、俺は先日食べたイカ焼きとたこ焼きを食べてお腹を満たす。
くぅぅ~~、やっぱり醤油味は美味いなぁ~なんて思いながらガッつく。
ダンカン達もそれぞれ気に入った料理を見つけて食べていく。
食後のデザートとしてリンゴを1つ購入し、食べ終わるとそれぞれの身の上話になった。
「アイカワさんは何処の国の出身なんですか?」
とまずダンカンが聞いて来て
「実は、物心がつく前に両親が無くなって元々どこの国の出身なのか分からないんだ。
その後、ある魔導士に拾われて面倒を見て貰うついでに、魔法も教えて貰ってたんだ」
とバルシス国王に言った内容と同じ説明をした。
「あ、すいません。言いづらい事を聞いちゃって」
と申し訳なさそうにダンカンが謝ったが
「平気平気。そもそも両親の名前も顔もほぼ覚えてない頃の事だから、気にしないで」
と俺が笑って返す。
ま、そもそもデタラメだしね。
「その育ててくれた魔導士の方の名前も覚えてないんですか?」
とマオが聞いてきたが
「ああ。自分の事を(師匠と呼べ)って言われたから、本名は聞けずじまいだった。
その師匠もある日依頼を受けに行ったっきり帰ってこなくてね。
家を出る前に纏まったお金を貰ってたから、ある程度の年齢まではそれで過ごしてたんだ」
と俺が続ける。
「じゃあ、今旅をしてるのはお師匠さんを探す旅とか?」
とリップが聞くと
「いや、そんな御大層な目標はないよ。
師匠が帰ってこなくなってもう10数年くらい経つし、例えどこかで生きていたとしても、年老いて当時の面影はないだろうから、名乗り出られたところでなぁって感じだし。
旅の目的はしいて言うなら色々な国や街を見てみたいから、かな」
と答える。
「君達はどんなつながりなの?昔からの知り合いとか?」
と今度は俺から質問すると
「全員この国の出身なんですが、俺とマオは幼馴染で、俺はリップとはマオを通じて知り合いました。
マオとリップが元々仲良しだったんで。
ソフィアとはギルドを通して仲間になったんです」
とダンカンが簡単に説明してくれた。
「へぇ、じゃあゆくゆくはみんなこの国にずっといる感じ?」
と俺が聞くと
「そうですね~、まだまだ剣の腕に自信がある方じゃないから、旅をしながらってのはあまり想像がつかないぁ。
みんなはどうよ?旅をしながら冒険者ってのは」
とダンカンが他のメンバーに意見を求める。
「私はパス。この国の専属魔導士になりたいっていう夢があるから」
とソフィアが先陣を切ると
「私もそこまでは考えられないなぁ。魔導士としての自信もまだついてないし」
とリップも続く
「私も~。せめてCランクで食べていける程の実力があれば考えるよね」
とマオも同じ意見だった。
「そう言えば、アイカワさんていつギルドに登録されたんですか?」
とソフィアが聞いてきたので、こちらの世界に来てからどのくらい経過したか悩んでいるとアイが
「ギルドに登録したのは約1か月前です」
とサポートしてくれたので
「確か、1か月くらい前にキリアナ王国のギルドで」
と正直に答えるとダンカン達の動きが止まる。
「え?1か月前?1か月でDランク!?誰かとパーティーを組んでいたとかですか?」
とソフィアが驚くと
「いや、基本は1人で依頼はこなしてたよ。
途中、人数が足りなくて応援で他のパーティーに参加したってのは3度ほどあるけど・・・」
とキョトンとすると
「因みに、そのパーティーって強かったり有名な人達だったりしますか?」
とマオに聞かれると
「1度目はEランクの時に同じランクの2人と組んで、さほど強い魔物は出て来なかったけど、2度目と3度目はキリアナ王国にいるCランクパーティーでリーダーがケインって人で・・・」
と言い終わる前にダンカンが
「えー!?あの有名なランクパーティーと~~!?」
と素っ頓狂な声を上げた。
「え?ケインさん達ってそんなに有名なの?」
とみんなに聞いてみると
「とても有名ですよ。キリアナ王国を代表する有能なパーティーだって!
そんな人達と一緒に戦ったんですか?凄い!」
とマオが言いながら羨ましそうな顔で俺を見る。
「因みにどんな依頼で一緒になったんです?聞きたい!聞きたい!」
とリップが目を輝かせながらこちらを見る。
「ケインさん達の1度目は、1人病気で欠員が出たので一緒にオークの群れを退治してくれと。
その依頼をEランクの時にクリアしてDランクに昇格したんだ。
2度目は何日か前にキリアナ王国とバルシス王国の国境付近で、瘴気の影響で集まった魔物の群れの討伐を一緒に手伝った事かな。」
と言うとリップが
「あ、あの<奇跡の激闘>に参加されてたんですか!?」
奇跡の激闘?なんだそりゃ。
「奇跡の激闘って?あの大規模な戦闘の事?ここら辺じゃそんな感じで呼ばれてるの?」
と訳も貰からず答えると
「知らないんですか?かなりの数の魔物と激闘を繰り広げた後、更にワイバーンが出現したにも関わらず死人が1人も出なかったって!」
へぇ~。あの時の戦いってそんな風に言われてるのか。
「ま、まあかなり大変だったなぁ。
王国の兵士達も専属魔導士達もかなり動員されてたから」
とその時の事を思い出していると
「じ、じゃあ数日後に行われた瘴気の浄化も参加されたんですよね?」
とソフィアが食い気味に聞いてくる。
「うん、参加したよ。
専属魔導士達やケインさん達のパーティーに所属しているケイトさんとルーシーさん、それにその2人の師匠のダンさんと奥さんのマリンさんも一緒だったよ」
と言うとソフィアが俺の両腕をガシッと掴んで
「あの伝説の魔導士2人と知り合いなんですか!?」
と興奮した状態で聞いてくる。
少し引き気味に
「あ、ああ。
氷魔法を上手く出せない時に、ケインさん達の紹介で1泊2日で泊まり込みで教えて貰った事があるよ」
と言うと
「いいな~、羨ましい~」
と子供が人の物を羨ましがるような声を出す。
「いやいや、それぞれのお師匠さんに教えて貰えばいいじゃない。
それに俺がダンさん夫婦を訪ねた時も、氷魔法を出すコツと、体内で魔力を練り上げるくらいしか教えて貰わなかったよ」
と当時の事を振り返った。
「なにそれ?聞いた事無い!どうやるのそれ。教えて!」
とマオ、リップ、ソフィアが話に食いついてくる。
ダンさんに教えて貰った通りの事、そして毎朝俺がやっている事をその場で教えると3人がその場で試し始めたので
「いや、宿に帰ってからやりなよ。流石に街中はダメ!」
と俺とダンカンが3人を止める。
話が盛り上がりすぎたので、場を鎮めるためギルドへ向かう事にした。
ギルドに到着して、中に入ると所長を呼んでもらい解体所に向かう。
所長が解体所に到着すると
「おお、ご苦労さん。で、魔物の亡骸は持ってきたのか?」
と聞かれたが
「一応持ってきましたけど、10メートル近くあるらしいですよ。
ここに出しますか?」
と俺が所長や解体所の男性に確認すると
「ああ、出してみてくれ」
と言うので早速マジックゲートから魔物を出す。
「な、なんじゃこりゃぁぁーーー!」
と所長と解体所の男性が叫ぶと、その声を聞いた受付の女性も解体所に慌てた様子でやって来る。
そのあまりの巨体を見た瞬間、受付の女性は気を失ってその場で倒れてしまった。
ソフィアとマオが受付の女性を待合所から持ってきた椅子に座らせると所長が
「まさかこれ程の大きさとは・・・さぞ現地の漁師達も驚いてただろう?」
と聞かれると
「はい。長年の漁師生活でもこんな奴は見た事ないって言ってましたよ」
と返した。
「持って来たはいいけど、どうするんですか?これ。
まさか食べる訳じゃないですよね?」
とダンカンが聞くと解体所の男性が
「いや、食べるのは無理だ。
今までの依頼で討伐したこれよりも二回り小さいサイズのやつを食べた奴が昔いて、その日の夜に脱水症状を起こす程の下痢になったって記録を見たことがあるから、こいつはこのまま焼却して破棄するしかない」
よく食べようと思ったな、そいつ・・・
「取り敢えず今日はお疲れさん。
早速依頼完了の手続きを・・・っていつまで気を失っとるんだ、この子は」
と呆れた様子で受付の女性を起こす。
手続きを終えて報酬を貰い、待合所に一旦集まる。
今回の金額は60枚になった。
本来は48枚なのだが所長の
「プラスアルファするから~」
が効いてこの金額になったらしい。
分け前について話し合おうとするとダンカン達が
「じゃあ、アイカワさんは20枚って事で」
と言ってきた。
「え?12枚じゃなくて?」
と聞くとリップが
「だってマオとアイカワさん以外は、全くと言っていい程戦闘に参加してないもの。
アイカワさんが多く貰うのは当然だと思うわ」
と返した。
「それにね、これはアイカワさんと合流する前にみんなで決めてた事なの。
だからこの金額で受け取って?ね」
とソフィアから20枚の金貨が入った小袋を渡される。
そういう事ならと有難く受け取る事にする。
「じゃあ、今日はこれでお開きだな。
アイカワさん、今日は本当にありがとう。貴方のおかげて助かりました」
とダンカン達に礼を言われ、ギルドを後にする。
シャルナンに到着して部屋に戻る。
もうとっくに日が暮れて辺りは暗くなっていた。
流石に今日は疲れたので、椅子に座らずいきなりベットに横になる。
「あ~、今日は流石に疲れたな~」
と思わず呟くとアイが
「少しよろしいですか?
本日の戦闘でレベルが上がったので後日新たなスキルを選んでください」
と言われたので
「ああ、わかったよ」
と欠伸をしながら返答するともう眠くなってきたので寝る事にした。
「おやすみ、アイ」
と呟くと
「おやすみなさい」
のアイの声と同時に眠りに落ちていた。




