第三十六話
翌日、起きて暫くしてから部屋の中で魔力精錬の修行をした後、昨日教えて貰ったギルドの場所へ向かう。
早速中へ入って掲示板を探すため見回していると
「あの~、初心者の方ですかぁ~?」
ギルドの受付らしき女性が話しかけてきた。
「え?いえ。俺はDランクです。昨日の夕方この街に着いたばかりなので」
と登録証を見せると
「あ、そうでしたか。申し訳ありませんでした。
ギルドに来てすぐ中を見回すのは初心者でよくある行動なので。
Dランク以上の依頼掲示板はあちらにありますよ」
と案内してくれた。
「さて、どんな依頼があるかな~」
と小声で呟きながら掲示板を見ていると海に関する依頼がやはり多い。
その中で1枚の依頼書に目が止まる。
「海岸近くの洞窟に巣食っているリザードマンの討伐?Dランクで?」
気になって手に取ってみて確認してみたが、これと言って注意事項が書いていない。
Dランク辺りになるともっと難しい内容とばかり思っていたけど、意外とシンプルな内容みたいだ。
よし、これにしよう。
依頼書を受付カウンターへ持っていくと先程の女性がいて
「ああ、この依頼ですね。他のパーティーの方はいらしてますか?」
と聞かれたが
「いえ、1人で行くんですけど」
と言うと
「え?相手はリザードマンでかなりの数ですよ?それを1人でですか?」
と驚かれたがそれでも受ける事にした。
「場所はこの道を左へ向かうと海岸に出るので、その後はこの紙の通りに行けばすぐわかりますので」
と受付カウンター横の棚からメモ用紙ほどの紙を出してきた。
出された紙には簡単な地図が書いてあり、入り口には目印があるとも言われた。
依頼書と一緒にその紙を受け取り、ギルドを出る。
指示通りギルドを出て海岸に向かう。
歩き出すとアイに一応
「リザードマンてどうなの?オークを基準にした場合」
と聞くと
「パワーはオーク程ではありませんが、素早さは当然リザードマンの方が上です。
それにギルドの女性の話だと数はいるようですね。気を付けてください」
とアイが忠告してくれた。
それにしても紙を受け取りギルドを出る前のあの女性の顔、凄い顔してたなぁ。
しかも(冷やかしか?コイツ)的な顔。
と思いながら歩いていると海岸に出た。
海の色は綺麗だが何故か周りを見回すと人の気配が無い。
それどころか小屋らしき建物がいくつかあるが、全て荒れ果てていて使用されている形跡がもうない。
地図に書かれている通りに進んでみると同じ目印を発見、そして目印の横にダンジョンがある。
探知魔法で周辺及び中を探ってみると魔物が15体程探知出来た。
取り敢えずマジックゲートから松明を取り出して火をつけ、中へ進む。
魔物達が集まっている所まで静かに進み、中心部に到達すると「半魚人」という見た目の魔物達が集まっていた。
二足歩行で簡素な鎧も着て、おまけに剣も装備している。
中心部の入り口で身を屈めて身を隠し
(あまり時間をかけると面倒だなぁ。初手である程度数を減らせれば・・・
あ、重力魔法!いや無理だ。
確か重力魔法は<一時的に相手の体制を崩したり、特定の部位を押しつぶしたり>だった。
後は<高密度魔法>だけどこんな洞窟の中じゃ、下手をすれば使用した自分が生き埋めの可能性がある。
仕方ない、少しずつ地道に倒していくか)
と思いながら両手をリザードマンの数体に向けて氷の魔法を放つ。
4体ほどのリザードマンの両足を凍らせて動きを止める。
混乱に乗じて肉体強化で一気に距離を詰めて雷魔法を複数放ち、最初に動きを封じた4体を倒す。
2体が水溜まりに入り水浴びをしていた状態だったので、そこにも雷魔法を1発放ちトドメを刺す。
残りのうち3体程が剣を抜いて高くジャンプして飛び掛かって来るが、無数の氷の塊を作り相手の全身に撃ち込み地上に落下させた後、それぞれの首の辺りに骨が折れる音が鳴るまで重力魔法を掛けて息の根を止めた。
8体ほどのリザードマンが1か所に集まっているのを見てチャンスだと思い、ドでかい氷の柱を作り動きを封じ込めた。
そこへ雷魔法を何発も同時に叩き込み、一気に掃討した。
そして残り1体が奥の方から出てきた。
これまでの個体より一回り大きい。
それに体中に激闘を彷彿とさせる無数の傷跡、どうやらこの群れのボスの様だ。
まずは氷魔法で相手の両足を固めてみるが、難なく破壊してされてしまう。
「面倒だな」
と呟くとリザードマンのボスがこちらに向かって走って来る。
するとすぐ目の前に倒されたリザードマンが使用していた剣が目に入った。
それを手に取り、炎魔法を当ててリザードマンのボスが怯んでいる隙に一気に距離を詰めて剣で切りかかる。
だが、剣は固い鱗に阻まれて簡単に折れてしまった。
マジかよと思っているとリザードマンのボスが笑みを浮かべたような表情をして俺に剣を振りかざす。
避ける事は出来たが振りかざすスピードは速い。
もう一度炎魔法を作り、相手の顔に当てて隙が出来た所で距離を取る。
ここである策を考え付く。
「ねえ、アイ。高密度魔法を作るのにどのくらい時間かかる?」
と聞くと
「今の貴方の実力なら小石程のサイズなら一瞬で作り出せます。
但し、小さすぎるとあの固い鱗に阻まれて内臓にまでダメージが行かず倒しきれない可能性があります」
と言われたが俺としてはそれで充分だった。
そして、近くに落ちているリザードマンの剣をもう1本手に取り、目の前まで距離を詰めて今度は傷跡がある場所に切りかかる。
すると予想通り、硬い鱗とは違い難なく新たな切り傷を付ける事に成功する。
一瞬怯んだ隙にその場で作り出した小石程の大きさの高密度魔法を俺が切った傷に直接撃ちこむ。
撃ちこんだ後相手の体の周りに一瞬激しい振動が起こった後動きが止まり、俺が1、2歩後ろに下がると相手の口や鼻から青緑色の血液を吐き出して白目をむいて倒れた。
どうやら完全に倒せたようだ。
念の為、探知魔法で周囲に魔物がいないか探ってはみたが魔物は探知できなかった。
その場で座り込んで一休みした後、倒したリザードマン達をマジックゲートに収容して、ふと周りを見回すと入って来た場所とはまた違う入り口があった。
戦っていて気付かなかったが途中で置いてきた松明を持って中を覗いてみると、中は部屋になっているようでそこには蓋が開いた宝箱に金貨や王冠などが結構な量が置いてあった。
「なんだこれ?金貨や王冠って、もしかして財宝ってやつか?」
と驚いているとアイが
「どうやらその様ですね。なぜリザードマンの巣にこんなものがあるかは疑問ですが。
どうされますか?このまま自分の物にしますか?」
とトンデモナイ事を言い出す。
「そうしたい所だけど、一応ギルドに報告した方がいいでしょ。これ」
という事でマジックゲートに収容して、ギルドにどうすれば良いか相談することにした。
ギルドに到着して受付の女性に解体所が何処か聞くと少し混乱した表情で案内される。
どうやら本当に1人で討伐してきたのが余程信じられないようだった。
解体所の男性に倒してきたリザードマンを全て出すと、男性が
「お、おい。まさか本当に1人でこれだけの数のリザードマンを倒したってのか!」
と今にも腰を抜かしそうな驚き様だった。
「しかも1番デカいのは群れのボスの<リザードマン・サージェント>だろ!
Dランクの冒険者がたった1人で倒せる数と相手じゃねぇぞ」
と俺の方を向いて説明してくれた。
「いや、確かにかなり手こずりましたけど、そんなに?」
と俺が受付の女性に聞き返すと
「2日前にDランクに昇格したばかりのパーティーが討伐に向かったんですけど、相手の構成を見て引き返したばかりで。
Cランクの掲示板に移そうってここのギルドの所長と昨日の夜相談したばかりなの。
それを(1人で全部倒して来ました!)なんて言われたら、誰だってびっくりしますよ」
と説明された。
ああ、なんかやっちまった感があるなぁ。と思いながら、見つけた財宝の話をすると
「ああ、そういや昔あの周辺には海賊がいてリザードマン達に殺される前に隠した財宝があるって聞いた事があるが、まさか見つけたのか?」
と男性に聞かれてマジックゲートから出して見せると
「す、すぐにお城に行って報告してくれ!」
と受付の女性をお城に行かせる。
「取り敢えずリザードマンの解体は今日中には終わらん。
戦って分かっていると思うがコイツらの皮膚は硬くて解体するのに時間が掛かる。
どんなに早くても明日昼以降までかかるから夕方以降に来てくれ。
今、城に使いを行かせたから返事が来るまで少し待っていてくれ」
と言われ、出した財宝をまた収容し待合室の椅子に座って待つ。
暫くすると
「只今戻りました。こちらへどうぞ」
とお城に行った女性が鎧を着た剣士と兵隊をぞろぞろと連れて戻ってきた。
中にはリザードマンの巣から持ってきた箱と同じものを持っている兵士もいる。
解体室へ再び案内されると、女性と兵士達と解体所の男性、それに新たに年配の男性がいた。
「ここのギルドの所長でギブソンだ、よろしく。名前と登録証を拝見しても良いかな?」
と聞いてきたので登録証を出しながら
「アイカワ ユウイチです」
と言いながら登録証を差し出すと魔力で本物か確認してから俺に返す。
すると鎧を着た剣士も話しかけてきて
「バルシス王国の兵隊長をしてますガルフです。
早速なんですが回収してきた財宝は出してみていただけますか?」
と言われ財宝をマジックゲートから出して見せると宝箱や王冠の一部を確認して
「間違いない、確かにバルシス王国の紋章だ。この財宝をどこで?」
と聞かれたので正直に
「今日リザードマンの群れの討伐を完了して、他の魔物がいないかダンジョンの中を確認している最中にこの財宝を見つけたので、一応ギルドに報告をと思い持って来ました」
と言ったら
「実はこの財宝の一部はバルシス王国の物なんです。王冠や宝箱に紋章があるでしょう?
これがこの国の紋章なんです」
とガルフが説明すると続けて
「アイカワさん、でしたね。
この財宝について色々とこの場で説明したいのは山々なのですが、これだけのリザードマンをお1人で倒されてお疲れかと思いますので、明日にまたお城へ来ていただく事は可能ですか?」
と言ってきたので
「はい、わかりました。大丈夫です」
と了承した。
「では、この書状をお渡ししておきます。
これを明日、城の正門に立っている兵士に見せて頂ければ中に案内いたしますので」
と1枚の紙を渡してもらう頃には兵士達が財宝をまとめ終わっていた。
「では、我々はこれで失礼します。明日城でお会いしましょう」
と言い残してガルフ達は解体所を去っていった。
それを見送ると今度はギブソンが
「まあ、今日は依頼完了の手続きをして明日の夕方以降来てくれ。
こちらの話もそれからにしよう」
と言い、受付で手続きを済ませてギルドを後にする。
シャルナンに到着してすぐに食堂に向かう。
着席してメニュー表を見るとベルダンと殆ど同じだったので
今日も昨日と同じ焼き魚セットを注文し、堪能する。
部屋に戻ってきた後、椅子に座り一息ついた後ベットに潜り込む。
「明日、城で何を言われるんだろう?」
と疑問を口にすると
「この国の魔導士にスカウトされるかも」
とアイが唐突な一言を言ってきた。
「ちょっ、アイさん!?」
と驚くと
「冗談です。しかし可能性としてはあり得るかもしれません。
現にキリアナ王国では魔導士が少しずつ減少傾向だったようですし。
もしかしたらこの国でも目を付けられるかもしれませんよ?」
と言われた。
「勘弁してもらいたいなぁ。せっかく次の国に来れたのに。
もう寝るよ、おやすみ」
と欠伸をしながら言う俺に
「おやすみなさい」
とアイが返してその日を終えた。




