第三十四話
翌日、朝起きてアイに国の入国について聞いてみる。
「入国する時って、検問所でギルドが発行した登録証を見せればいいんだよね?」
と聞くと
「はい。どの国でも基本的にはそのような流れになっています」
と聞いて少しホッとした後、部屋を後にして改めてバルシス王国へ発つための挨拶回りをする。
まず最初にリフルの夫婦にバルシス王国に行くことを言い、今までのお礼を言うと主人が
「おお、そう言えば昨日そんなこと言っていたねぇ。君がいなくなると寂しくなるなぁ」
と言ってくれた。奥さんも
「この店をずっと利用してくれてありがとう。また、この国に帰って来るの?」
と聞かれ
「ええ、もちろん。いつか必ず帰ってきますよ」
と即答すると
「それじゃあ、私達もそれまで頑張らなくちゃね」
と笑顔で返してくれた。
「じゃあ、行ってきます!」
と店の前で見送ってくれる夫婦に手を振りながら武器屋に向かい歩き出す。
武器屋に着いて街を出る説明をし、主人に挨拶をして店を後にする。
次にギルドに向かい、受付の女性と換金所の男性に挨拶をする。
「ほお、バルシス王国か。魚料理が美味いって聞くよなぁ、行ってみてぇなぁ」
と換金所の男性が羨ましそうに俺を見るが
「駄目だよ、お父さん。ここのギルドの責任者なんだから離れることできないでしょ?」
と受付の女性が返す。
は?お父さん?
「え?お二人親子だったんですか?それにギルドの責任者って・・・」
と驚いていると中に入るとケイン達とエヴァン達が中に入ってきた。
「あ、アイカワさん。ここにいたんだ~。
リフルにいなかったから、もうこの国出ちゃったと思ったよ~」
とルーシーがいつもの明るい声で話しかける。
「どうしたんですか?驚いた顔して。私達の顔に何か?」
とメイが聞いてきたが
「いや、ギルドのお2人に挨拶してたら親子って・・・」
と俺が言うと
「なんだ、知らなかったのか。この街全員が知ってるよ?そんな事」
とウィルがしれっと返した。親子は苦笑いをしている。
「し、知らなかった~。まあいいや、ここでみんなと会えて良かった。
入れ違いになるところみたいだったし」
とひとまずほっとすると軽い咳払いをしたのち
「皆さん、この街にいる間本当にお世話になりました。
ケインさん達とエヴァン達は昨日言ったけど、色々な国や街を回ったら必ずこの国に戻ってきます。
本当にありがとうございました」
と皆に一礼すると
「何を堅苦しいこと言ってるの、アイカワさん。一緒に死線を潜り抜けた仲じゃない。
それに<必ず>戻ってくるんでしょ?その時はまたみんなで美味しいご飯をたべましょう?ね?」
とケイトが優しく微笑む。
「帰ってきたら、また成長した姿を俺達に見せてくれ。」
とケインが俺の肩にポンと手を置く。
「はい。ダンさんやマリンさんにも宜しくと伝えてください」
とケインに返す。
今にも泣きそうな顔をしているエヴァン達にも
「おいおいそんな顔するなよ、今生の別れじゃないんだから。
それに、次に会うまでにケインさん達に負けないくらい強くなって、俺を驚かせてくれよ。な?」
とエヴァン達の頭に手を乗せて励ます。
「はい。きっと強くなってみせます」
との返事を聞いた後
「では、これで」
とギルドの入り口から出るとみんなが
「またね~」や「必ず帰って来るんだぞ~」
などと遠ざかっていく俺に激励の言葉を叫び続けていた。
最後は国王と王女なんだけど、そう簡単に会えるもんなのかな~
そう思いながらお城の正門の近くまで来ると、正門から少し離れた柱の陰から見覚えのある姿が・・・
ってあれ王女じゃねぇか!
魔力強化で一気に近づいて後ろからいきなり王女を抱きかかえる。
「え?え?」
と驚きと困惑の顔をしている王女など気にせず、正門の前まで行く。
「あ、アイカワさん。こんにち・・・あっ、王女様!」
と正門前で見張りをしている兵士2人が俺と王女に気づく。
「はいはい、計画はまた失敗に終わりましたね~。王女様」
と少し小ばかにする感じで王女に話しかけながら降ろすと
「なんでいつもこんなタイミングで現れるのよ~」
と王女がガックリしていると
「ありがとうございます。また城の全員が大変な騒ぎになるところでした」
と兵士達に感謝された。
「あ、そうだ。ひとつお聞きしたいんですけど、今から国王様に謁見て可能ですか?」
と兵士達に聞くとまだその場にいた王女が
「父上に?何か用なの?」
と聞かれ
「あ、いや、今日この国を離れて暫く旅に出るので、最後に国王様に挨拶にと思ったんですけど、やはり無理ですかね?」
と聞くと
「確か今の時間は予定が入ってない筈だし、アイカワさんだから特別に会わせてあげる。ついて来て」
と諦めがついて王女が城の中へ戻って行く。
王女についていくと国王が謁見の間で玉座に座っていた。
「失礼します」
と一礼して謁見の間に入ると国王が玉座に座っていた。
「おお、アイカワ殿。ん?ファルシア、どうした?その恰好は」
と聞かれた王女は
「街に出ようとしたら、アイカワさんに捕まって戻って来たの」
と落ち込んだ様子で隣の玉座に座った。
「で、今日はどうしたのかね?」
と国王に聞かれたので
「実は、隣のバルシス王国を皮切りに旅をして回ろうと思いまして、ご挨拶に参りました」
と答えた。
「ほぉ、バルシス王国。何か目的でもあるのかね?」
と聞かれ
「いえ、これといって目的は無いのですが、色々な国や街へ旅をしてみたいと思いまして」
と答えた。すると王女が
「バルシス王国かぁ。良いわね、私も連れてって♡」
と目をキラキラさせながら、少し古臭さの残るぶりっ子の様なおねだりをしたが
「無茶言わないで下さい。それに国王様が許して下さる訳ないでしょう」
と俺が呆れながら言うと
「ファルシアよ、これ以上あまりワシに心配を掛けさせないでくれ」
と国王が頭を抱えながら言った。
「もう!冗談よ!冗談。私だってそこまで馬鹿じゃないわよ」
と王女は笑いながら言ったが、本当に実行しそうで少しひやひやした。
「では、あまり長居しても申し訳ないのでこれで」
と一礼すると
「元気でな」
と国王様に激励されると
「当然、戻って来るわよね?」
と王女が聞いて来て
「ええ、いつか必ず戻ってきますよ」
と答え、城を後にする。
目印になる小川沿いに到着しアイに
「この川の道を真っ直ぐ行けばバルシス王国かぁ。
ここに来る前は寂しさの方が強かったけど、今はワクワクの方が強いな」
と言うと
「きっと次の街でもやっていけますよ。この街でも出来たんですから」
と言ってくれた。
そう、そうだよな。と思いながらバルシス王国へ向かい歩き出す。




