第三十一話
晩餐会当日の朝、目が覚めて暫く椅子に座り惚けている。
夕方までは何も予定が無い。
午前中は魔力精錬の修行をして時間を潰す。
午後になり、予定の時間には少し早いがリフルを出る。
暫く市場を散策していると、ダイスとサラ、それにロイドに遭遇した。
「お、アイカワさん。こんにちは。何してるんです?」
とダイスが話しかけてくると
「いや、晩餐会の時間までリフルにいても何もすることが無いので、早めに出て街を散策しようと思って。
サラさんとロイドさんも一緒って事は、晩餐会はお2人も一緒ですか?」
と聞くと
「いえ、2人は買い物の付き添いです。家の食材が丁度なくなりかけてたので、それで」
とダイスが答えると
「良いよなぁ~。お前だけ晩餐会に行けるなんてぇ~」
とサラさんとロイドさんがダイスにブーイングをしているが
「だって2人はあの討伐依頼断ったろ?頑張った当然の権利だよ」
と2人に対し威張るような感じでダイスが答えた。
「ゆとりをもってもうそろそろ行きますか?お城」
と俺がダイスに聞くと
「そうだね。ゆっくりし過ぎて遅れては恥をかくしもう向かいますか。じゃあ2人共、後の買い物はよろしく」
と俺とダイスは、サラとロイドと別れて城に向かう。
ダイスと雑談をしながら城へ向かい、到着すると中庭にあの日参加した魔導士達とケイン達が雑談をしていた。
到着するとダイスが
「じゃあ、アイカワさん。俺は同じ班だった人の所へ行くのでこれで」
と言って別れた。
俺達を見つけたケイン達が見つけ
「あ、アイカワさん、こんばんは」
とケインが声をかけてくれたが二日酔いがまだ残っているせいか暗い顔をしている。
ルーシーも同じくどんよりした感じで
「う~ん、まだ完全に回復してないや」
とぼやいていた。
「大丈夫ですか?」
と苦笑いをしながら聞くと
「いや、昨日はとんだお恥ずかしい所を・・・」
とケインが返した。
「もう2人共、シャキッとして!疲労回復の魔法を朝から何回もかけて、後は自然に回復するだけなんだから!」
とケイトがケインとルーシーに喝を入れるが
「ぐあぁぁ!やめてケイト。大きな声出さないで!頭痛がまだ少し残ってるんだから」
と2人して頭を両手で押さえた。
そんなやり取りをしているうちに兵士が
「お待たせしました。準備が整いましたので中へどうぞ」
と集まった俺達を中へ誘導する。
通されたのは以前案内された長いテーブルがあるあの食堂だ。
食堂に入ると兵士が
「今日の席順は特に決まってないので、ご自由にお座りください」
と言われたので先頭の2席以外をそれぞれが好きなように座っていく。
俺はケイン達4班の隣、丁度テーブルの真ん中辺りに座る。
俺の左隣はケイト。右隣には
「アイカワさん、こんばんは」
とティアが座って来た。
「あ、こんばんは。俺の隣ですか?もっと仲のいい知り合いの隣じゃなくて?」
と聞いたら
「何言ってるの。たった1度とは言えあの激戦を戦い抜いた中じゃない」
と笑顔で返された。
周りを見てみると国王様の席の近くに楽器を調整している人達の姿も見えた。
オーケストラ付きかよ!流石、晩餐会というだけの事はある!
全員の席が決まった辺りで案内してくれた兵士が
「皆様、ご起立ください。国王様と王女様がお入りになります。」
と食堂に執事の声が響くとオーケストラが短い曲をかけ国王と王女が登場し、最前列の2席の前に立った。
列席者も全員執事の一言で立ち上がり国王と王女を迎える。
気が付けば目の前のグラスに飲み物が注がれていた。
酒じゃないだろうな?と思っていると国王が
「今日は皆さんよくおいで頂いた。
皆さんの御協力のおかげでこの国の、いや周囲の国や村の危機を乗り越える事が出来た。
また重傷者は数名出たものの、復帰できるまでそう時間が掛からない程度の怪我で済んだのはひとえに魔導士の方々の協力があってこそだ。改めて礼を言う。
今夜はこのキリアナ王国からのせめてものお礼として、この晩餐会を楽しんでいってくれ。
それでは、グラスを・・・」
と国王が言うと全員が一斉にグラスを持って
「乾杯!」
と国王が言うと全員で「乾杯」と続いた。
グラスに注がれた飲み物に口を付けるとどうやらお酒ではなさそうだ。
全員がグラスの飲み物を1口飲むとまた着席し、それと同時に食堂に料理が運ばれてきた。
料理をみんなが楽しんでいるとワインでほんのり頬が赤くなっているティアが
「そう言えばアイカワさんってどこで魔法を習ったの?」
と唐突に聞いてきた。
いつもの如く
「だいぶ子供の頃なので習った先生とかまでは覚えてないですけど、結局途中で辞めちゃったんですよね~」
と咄嗟に嘘をついた。
「でもそれにしては、あの戦場で物凄い事やってのけてたわよね~。
土、氷、火、雷の魔法に、回復魔法に魔法障壁までかけてたわよ?
あんなの、そこら辺の魔導士にできる芸当じゃないわ」
とあの時の戦闘内容を話し出すと左隣に座っていたケイトが落ち込みながら
「そうか、やっぱりアイカワさん大活躍だったんだ・・・」
と暗い声を出した。
「ええ!?いきなり落ち込みだした!?」
とびっくりすると
「ねえ?ケイトもそう思うわよね?」
とティアがケイトに同意を求めていた。
「あれ?お二人って知り合いなんですか?」
と尋ねると
「ええ。王国からの依頼で何度か一緒になった事があってその時にすぐに仲良くなったの。
アイカワさんはどういう経緯でケイト達と知り合ったの?」
と聞かれて
「初心者ランクの戦闘ミッションでお世話になったのがきっかけで、仲良くさせて貰ってるんです。
オークの群れの討伐依頼を一緒にこなしたり、師匠のダンさん夫妻を紹介してもらって氷の魔法のコツを教えて貰ったり、魔力精錬の修行を教えて貰ったりで感謝しきりです」
と返した。
「いや、あれはどう考えてもアイカワさんの才能の賜物だわ。
だって考えれば考える程ルーシーと一緒に落ち込むんだもの」
とケイトがどんよりとしたオーラを体から出し始める。
「もう、せっかくの豪華な晩餐会なんですから料理を楽しみましょうよ!」
と必死に話題を終わらせて料理に集中する。
それにしても前回の料理よりも美味しいなぁ。
特に今食べてるメインの肉料理なんか言葉に言い表せない程だ!
するとアイが
「その料理に使用されているお肉は貴方方が倒したワイバーンの肉の料理らしいですよ?」
と言い出した。
マジで!?あの時のワイバーンの肉!?てかワイバーンってこんなに美味いのか。
と夢中で食べているとあっという間に完食してしまった。
しまった、早食いの癖がまた出てしまった・・・と思ったら両サイドにいたケイトとティアも俺と同じタイミングで食べ終えていた。
デザートを食べ終えてまったりしているとティアが
「ねえ、アイカワさんは今後他の地域に行く予定とかあるの?」
と聞かれ
「はい。近々隣のバルシス王国にでも行ってみようかと考えてます」
と答えた。
「お隣に?なんで?」
と返され
「元々Dランクに昇格したら別の地域に行ってみようと思ってたし、街の人と雑談してる時バルシス王国は海が近いから魚料理が美味しいって聞いたことがあるので行ってみようかと」
と答えた。
「あ、確かに聞いたことがあるわ。バルシス王国は魚料理が有名だって。
いいな~、私も行ってみたいな~。
王国直属の魔導士はお給料は良いんだけど国外に出られないしなぁ~」
と話していると、国王が執事の人に耳打ちをした後
「ええ~、それではそろそろ夜も更けてまいりましたので、今宵の晩餐会はこれにてという事で。
お帰りの際に冒険者の方々には報酬をお渡しいたしますので、食堂出口の兵士がたっているテーブルまでお立ち寄りください。
本日は誠にありがとうございました」
との言葉が出ると、魔導士達が先に立ち上がり食堂を出ていく。
ティアも
「じゃあ、アイカワさん。今日は楽しかったわ。また機会があれば会いましょう」
と立ち上がり、食堂を出ていく。
最後に残った俺たち冒険者が席を立ちあがり食堂を出ようとすると国王と王女が俺達の所まで来て
「皆さんどうだったかな。楽しんでいただけたかな?」
と笑顔で来てくれた。
この頃になるとケインとルーシーもかなり回復したのか、顔色も良くなっていて普段と変わりない状態だった。
「これは国王様、王女様。本日はご招待頂き誠にありがとうございました。
とても堪能させていただきました」
とケインが言い、全員で一礼した。
「はっはっは、喜んでもらえれば何よりだ。
皆さんのおかげで、命を落とす兵士が一人も出なかったのはまさに奇跡と言っていい。
改めて礼を言わせてくれ。本当に今日はありがとう。それでは」
と国王が奥へ帰っていく。
王女は俺の耳元に顔を近づけ小声で
「次は必ず参加するからね!」
とトンデモない意気込みを俺に言い残し国王の後を追うように帰っていった。
苦笑いしながら俺がそれを見送る。
食堂を出ると執事の説明通りテーブルの所に兵士が立っていてそれぞれに報酬を渡す。
それをマジックゲートに収容し、城を出る。
外はすっかり日が暮れていて、空いている店も食堂というより飲み屋しか空いてない状態なので解散してそれぞれの帰路へ。
リフルに到着し、部屋に戻ると一旦椅子に座りまったりする。
美味しかったなぁ~、今日の料理。
と幸せな気分になっているとアイが
「幸せな気分の所申し訳ありません。この国を出立する日取りは決めてあるのですか?」
と唐突に聞いてきた。
「ん?そうだなぁ。発とうとおもえば何時でも・・・あっもしかして瘴気の浄化?」
と返すと
「はい。瘴気の浄化はかなりの量の魔力を必要とするのできっと貴方にも声が掛かると思いますよ?」
と言ってきた。
そうだ、すっかり忘れてた。
きっとダンさん達も召集されるし、当然俺にも声が掛かるだろう。
「ん~、まあ瘴気の浄化が終わってからこの街を出ようか。その方が気持ちよく発てるし」
と返した。
ひとしきりアイと雑談した後、ベットに入る。
「おやすみ、アイ」
と言うとアイも
「おやすみなさい」
と返してくれてこの日は眠りについた。




