第二十八話
翌朝、討伐依頼に際して朝食を食べてからお城へ向かった。
<大掛かりな>と言うくらいだからいつ終わるか、どのくらいキツイか分からないからだ。
城へ到着し正門をくぐって中庭へ行くと、たくさんの兵士達と仰々しいローブを着た魔導士が数人が集まっていた。
冒険者はケイン達、そしてダイスがいた。
どうやらハイドが声をかけて集まったのは俺を含めて6人の様だ。
ケイン達に声をかける前に周囲をキョロキョロと見回し、怪しい人物がいないか確認してみる。
そう、ファルシア王女が紛れ込んでないか確認するためだ。
念には念を入れて、建材用のブロックらしき物が2段ほど積まれているのを見つけたのでその上に登りさらに確認。
ローブを着ている人物は全員顔を晒しているので魔導士に扮しているわけではなさそうだ。
鎧を着用している兵士達も見た感じ顔の部分は出しているのでこの線もなさそう。
良かった・・・流石にお忍びでとは言えこんな危険な任務に行こうとする程無鉄砲ではなかったか。
ホッと胸をなでおろしてハイドの所へ挨拶に行く。
「おはようございます」
と挨拶すると
「あ、アイカワさん。おはようございます。今日は宜しくお願いします」
と返してくれた。ハイドの耳に顔を近づけ
「王女様、紛れてないみたいですね」
と小声で言うと
「それなら大丈夫です。国王様とご一緒に王女様なら今現在ダンスのレッスンを受けている真っ最中ですので、抜け出せる状況ではありません」
と笑顔で返した。
次にケイン達に挨拶しに行く。
「おはようございます。皆さん」
と挨拶すると
「おはよう、アイカワさんも来ていたんだね。これは心強い」
とウィルが言うと
「アイカワさん、あんまり全力出し過ぎて私たちの出番奪わないでね~」
とルーシーが冗談交じりに言う。
「まあ、何はともあれ今日はお互い気を引き締めて頑張ろう。
これだけの兵士達を伴うとなると過酷な内容になるかもしれないからね」
とケインが俺達に注意を促す。
「はい、お互いに頑張りましょう」
と話し終えると同時に大きな声が中庭に響く。
どうやら今回の遠征のまとめ役もジョージの様だ。
「皆さん静粛に!これより班の編成を発表します。
1班に魔導士は攻撃魔法担当と回復又は補助魔法担当の2名を割り当てることにします。
尚、参加していただいた冒険者の方々はパーティーの場合はそのままで1班、単独の場合は各班にそれぞれ配置されますのでそのつもりで。では班の割り当てを開始します」
と言い、俺は第3班に配属された。
ケイン達はそのまま第4班としての扱いで、ダイスは第2班の様だ。
第3班のもう1人の魔導士が近づいて来て
「回復、補助担当のティアです。宜しく」
と自己紹介されたので
「アイカワ ユウイチです。今日はよろしくお願いします」
と返す。
班の面通しが終わったところで再度ジョージの声が響く。
「では、班の編成及びそれぞれの挨拶も終わったようなのでこれから出発となりますが、その前に国王様より激励のお言葉を頂戴します」
との事。すると国王が中庭を見下ろせる2階のテラス席の様な所から現れる。
「気をーつけー!」
とジョージが叫ぶと兵士達が一斉に直立不動になる。
後ろには王女様も見えるが何故か不機嫌そうな表情を浮かべている。
どうやら抜け出して遠征に紛れ込めない事が相当ご立腹の様だ。
「これより皆には、隣国のバルシス王国との国境付近での討伐遠征に行ってもらう。
バルシス国王にも念の為国境で協力体制を取って貰っているが、魔物の数も多い為非常に危険な任務ではある。
皆、気を引き締めて任務に臨んでもらいたい。
そして各自協力しながら1人でも多く生還できるよう心から願っている。
以上!」
と、これまで見たことが無いくらい威厳のある表情で全員に激を飛ばした。
国王が言い終わるとジョージが
「それでは出発!!」
との言葉と同時に第1班から第9班の奇数班がそれぞれ縦1列、その横を第2班から第10班の偶数班が縦1列になって行進する。
目的地の国境迄は歩いて半日程度らしく、しかも昨日ふらりと訪れたあの小川沿いの道を真っ直ぐ行った先にあるそうだ。
道中、ティアが
「アイカワさんは、どういう経緯でこの遠征に参加されたんですか?」
話しかけてきた。
「前回の王国の討伐依頼に参加してハイドさんの班に割り当てられたのがきっかけで、今回の遠征にもって打診があったので受けました」
と答えると
「あ~、あの館のですか」
との返しが。
「知ってるんですか?あの時の依頼」
と再度答えると
「あの依頼は王国が有能な魔導士をスカウトするための言わば試験みたいなものなんです。
今、王国では魔導士が不足気味なので。それにその依頼方式を発案したのは私なんです」
と言い出した。
「え?そうなんですか?」
と俺が驚くと
「はい。魔導士の素質もですが魔導士が本来要らない様な任務に敢えて就かせる事で、その場で必要とされなくても周りを気遣う協調性がある人物を見抜くための人物を選び出すための依頼だったんです。
過去に人選をミスって、街の住人とトラブルを起こす人間を何人か雇ってしまったという痛い経験があるので」
とため息交じりに話した。
それでか。どうりで内容が楽すぎると思った。
などと話している内に目的地の手前に到着した。
先に歩いていた班の魔導士がそれぞれ探知魔法を使用し、その結果を各班に伝令兵が伝えて回る。
どうやらかなりの数の魔物がいるようで中には飛行系の魔物もいるという情報まである。
ここでアイに
「魔物で飛行系?下手すりゃとかドラゴン?」
と思いつく名前を出してみたが
「ドラゴン系がいれば一目でわかるので伝令でそう伝えると思います。
飛行系と表現するところを見るとそれよりランクが低い魔物だと思いますよ。
まあ、仮にドラゴン系の魔物がいるとしたら、これっぽっちの軍勢ではあっという間に全滅しますが」
との返答だった。
やっぱドラゴンって強いんだなぁ、なんて素人みたいに考えているとティアが
「私達第3班は第1班のバックアップなので、第1班の体制が悪くなり始めたら合図と共に入れ替わりで前線に出ます。いいですね?」
と指示が来たので
「わかりました」
と答えて合図を待つ。
後方で第1班の戦術を見ていると、まず攻撃魔法担当が土魔法か氷魔法で足場を悪くさせて、地上の魔物の動きを止めてから、兵士達が次々と魔物にトドメを刺していく。
飛行系の魔物は飛んでいる所を攻撃魔法で撃ち落とし、まだ息があれば魔導士或いは兵士がトドメを刺すという流れの様だ。
第1班の流れをある程度覚えている間に、ティアが兵士達に魔法障壁を掛けて回っているので俺もまだ掛けてない兵士に次々と魔法障壁を掛けていく。
全ての兵士に魔法障壁が掛け終わったのと同時に第3班のリーダーの合図があり、兵士達に続き俺も前線に出る。
肉体強化念の為発動させて、取り敢えず第1班と同様に土魔法で足元を崩して動きを鈍らせる。
そこへ兵士達がトドメを次々と刺していく。
飛行系の魔物は雷魔法で痺れさせたり、氷や火、土など思いつく限りの攻撃魔法で迎撃していく。
地上に落ちてきた息のある鳥系の魔物のトドメは近くの兵士や俺が装備している武器で息の根を止める。
少し離れた所ではケイン達も奮闘しているのが見えた。
あちらも相変わらずのチームワークで次々と魔物達を倒していく。
俺達第3班、ケイン達第4班も劣勢になって来たので後方の部隊と交代する。
後方に下がるとティアが傷を負った兵士達に回復魔法を掛けていた。
ケインとウィルも多少ダメージを負ったようでケイトが回復に当たっている。
ティア1人ではとても回復しきれないので、俺も比較的軽い傷の兵士達の回復に努める。
かなり効率的に連携が取れていたおかげか、重傷者もあまり出ずに終わろうとしていた頃、他の班の伝令兵が
「別方向よりワイバーンが接近中!数は1体!!」
との報告が来た・・・




