第二十六話
翌朝、ギルドへ向かう前にダンさんから教わった(魔力を練り上げる)修行をもう一度やってみる事にした。
目を瞑って、魔力を体内に少し貯めて、透明になるように・・・出来た!
が、この修行を毎日繰り返す事で普段使用する魔法にこの<練り上げた魔力>を適用する事が出来るのだろうか?とふと疑問に思ってしまう。
するとアイが
「それは可能ですよ」
とダンさんの修行を肯定した。
「普段からこの修行を積み重ねることで、先程の様な純度の高い魔力を自然と精製する事が出来ます。
その魔法の効果は使用した貴方も体験した通りです」
そうか~、やっぱ積み重ねかぁ。
・・・俺が一番苦手な分野・・・
よし、気を取り直してギルドへ行くか。
ギルドに到着し、依頼書を探す。
Dランクの掲示板を見てみるとその中の1枚に
(<クラッシャーバッファローの撃退>?バッファローって牛だよな?)
内容を詳しく見てみると、数頭のクラッシャーバッファローが農園を荒らしているので撃退してほしいとの事。
「ねえアイ、クラッシャーバッファローってどんな感じの強さなの?オーク並み?」
とアイに聞いてみると
「1体の強さはオーク以下ですが突進力があり、数頭とはいえ群れなので面倒は面倒ですね。
しかし、今の貴方ならさほど難しい依頼ではないと思いますよ?」
との事。
「それにクラッシャーバッファローは高級肉として知られている魔物です。
国王や貴族などが好んで食べる程ですので、換金すれば数頭でもそれ相応の値段になります」
牛とはいえ魔物の肉が高級品とは・・・
「よし。これにするか」
と依頼書を受付に提出し、依頼主の農園へ向かう。
依頼主がいる農園は街から少し離れた場所にあり、到着してみると結構な広さがある。
住居らしき建物があったので
「こんにちは~。ギルドから依頼を受けた者です~」
と言うと男性1人と女性1人が出てきた。
「ああ、これはどうも。お待ちしておりました」
と出てきた男性が言うと
「あれ?お1人ですか?」
と女性に聞かれたので
「はい。私1人です」
と答えると
「どうした~?」
ともう1人の男性が奥から出てきた。すると女性が
「ギルドから派遣されたのは1人みたい。どうする?私も出る?」
と話し始めたが最初に出てきた男性が
「失礼しました。私はダイス。魔導士をしながらこの農園の管理・維持をしています。
こっちは姉のサラ。元剣士で私と一緒に農園の切り盛りをしてもらってます。
姉の隣がロイド。私の幼馴染で魔導士です。今回の依頼の手伝いをしてもらうために来てもらいました」
と紹介された。
「アイカワ ユウイチと言います。今日は宜しくお願いします」
と挨拶するとサラが
「あの~、アイカワさん。失礼かとは思いますがランクは?」
といぶかしそうに聞かれたが
「数日前にDランクになりました」
と堂々と答えた。
「姉さん、失礼だよ!会って早々にそんなこと聞くなんて」
とダイスに諫められた
するとロイドが
「それに魔導士3人ならきっとクラッシャーバッファローの数頭くらいきっと討伐出来ますよ」
と言ったがサラが
「やっぱり私も出た方が・・・」
と言いかけるとダイスが
「あんな突進系の魔物に元剣士がどう対抗するの?魔導士の方が有利だよ」
とまた諫められた。
その様子を呆然と見ているとダイスが
「すいません。姉は2年前まで元剣士でDランクだったんですが、今はもう引退してまして。
まだ自分は戦う事が出来ると思っているんです」
と説明してくれた。続けてロイドが
「この農園はこの姉弟の両親が営んでいるんですが、依頼書に書いてある通りクラッシャーバッファローの数頭がこの農園の果実や野菜を食べに来てしまうので、それを撃退してもらうためにギルドに依頼したんです」
と事情を話してくれた。
「農園を荒らす群れはあの森の向こうにある草原にいるので、これから行こうと思うんですがいいですか?」
とダイスに提案されたので俺は
「はい。いつでも大丈夫です」
と答えた。
「では、早速向かいましょう」
と俺、ダイス、ロイドの3人で群れがいる場所へ向かう事にした。
目的地へ向かう途中、ロイドが
「あの~、つかぬ事をお聞きしますが俺達と何処かでお会いました?貴方とは何処かで会った様な・・・」
と聞かれ(はて?)と考えるとダイスが
「思い出した!王国の依頼で会った魔導士の人!」
と唐突に言い出した。
「ああ、あの時の」
そう。廃屋となった館を王国の依頼で魔物を掃討、館の焼却をした時に一緒だった男性魔導士2人だった(第十七話、第十八話参考)
「いや~、こんな感じで再開するとはね~」
なんて笑い話をしていると目的地の草原が見渡せる場所まで着いた。
木に隠れて俺が探知魔法で頭数を確認する。
「どうやら10頭いるみたいですね」
と言うと
「10頭か。どうやら農園が被害に遭い始めてから頭数は増えてないみたいだな」
とロイドが一言。
「作戦はどうします?」
と俺が尋ねるとダイスが
「アイカワさん、雷魔法は使えますか?」
と聞かれたので
「はい、使えます」
と答えるとロイドが
「じゃあ、あの作戦で決まりだな!」
と唐突に言い出した。
「まずは私が囮になりクラッシャーバッファローの1体を倒します。
残りが私に向かってくる間に、奴らの後ろに回り込んだロイドが氷の魔法で奴らの足元を凍らせるので、貴方が雷魔法で一網打尽にしてください」
と答えたが
「え?ダイスさんはその間どうするんです?」
と聞くと
「念の為土魔法で分厚い壁を作り、氷の魔法と雷魔法に備えます。
そうすれば同士討ちも防げるでしょう?」
と言われて半ば納得はしたが、ロイドが(あの作戦で決まり)って、過去に実行した事あるのかなと思いつつ、それぞれの場所まで移動する。
作戦通りにまずはダイスが囮として雷魔法でクラッシャーバッファロー1体を仕留める。
その後、怒り狂った残りの全頭が一直線にダイスに突進していくが土魔法で壁を作る間に、後ろに回り込んだロイドが氷魔法でクラッシャーバッファローの足元(正確には足全体がほぼ凍り付く高さまで)を凍らせると、俺が雷魔法で残りにトドメを刺した。
氷魔法と雷魔法の相性、更にはダンさんに教わった練り上げた魔力を使用したおかげか、残り9頭の全てを一撃で仕留める事が出来た。
一応探知魔法で他の魔物がいない事を確認すると
「よっしゃぁ!!」
と男3人で自然とハイタッチをして喜んでいた。
依頼書に書いてあった通り報酬は仕留めたクラッシャーバッファローを全体の半分、つまり5頭は俺。
残りをダイス達にという事だが、イマイチ金額がピンとこないので
「あの~、クラッシャーバッファローが高級肉で、国王や貴族が食べる程だってのは知ってるんですけど、換金するとどのくらい来るんです?これ」
とダイス達に聞いてみるとニヤニヤしながら
「まあ、それは換金所でのお楽しみって事で!」
と返された。
換金所に行く前にサラの所へ寄って、全員で換金所に向かう事になった。
ギルドに到着し、換金所でクラッシャーバッファローをそれぞれ提出し、換金してもらう。
「おい!こりゃあ、クラッシャーバッファローじゃねえか!何処でこんな代物を!」
と換金所の男性が声を上げ驚いている。
ダイスが経緯を説明すると換金所の男性が
「解体が終わる迄待てるか?」
と聞かれ、全員頷く。
待ってる間にも俺以外の3人のニヤニヤが止まらない。
そんなに驚くほど高級なのかな?とか思いながら暫く4人で雑談していると
「終わったぞ。全員来てくれ!」
と呼ばれた。
「クラッシャーバッファロー1体につき金貨12枚、全10頭で金貨120枚だ。
確か、報酬は半分ずつだから金貨60枚だな」
と、今まで聞いたことのない金額を聞いて驚いている俺を他所にダイス達3人が揃って
「やったー!!」
とバンザイをしながら大喜びしている。
「1体につき金貨12枚!?」
と啞然とした表情で呟くとダイス達が
「だから言ったでしょ?アイカワさん。換金してからのお楽しみだって。もっと喜ぼうよ!」
とはしゃいでいる中、改めて換金所の男性に何故こんなに高いのか聞いてみると
「クラッシャーバッファローは本来好戦的な性格ではない上、魔物とはいえ人里には近づかん。
それに大きな群れで行動するんだが、それ故に捕獲できる頭数も少ない。
だが、肉質は他の肉とは比べ物にならないくらい良く、捕獲できたと分かった日には国王や街の金持ち共が押し寄せて奪い合うくらいだ」
と語った。
「でも、今回は全部で10頭しかいませんでしたが・・・」
と聞くとやっと気分が落ち着いたロイドが
「きっと群れのリーダー争いに負けて、群れを追い出されたんじゃないかな?
周りにいたのは争いに負けたオスの仲間だと思う」
と言うと続いてサラが
「群れを追い出された後、やっと流れ着いたのがうちの農園だったんだと思うわ。
あんなに少数だと、他の大型の魔物に襲われたらあっという間に全滅しちゃうからね。
ちょっと可哀そうな気もするけど、私達も農園を荒らされるのは死活問題だし」
と冷静に言った。
それぞれの興奮が落ち着いた後、もう一つ疑問に思っていたことをダイスに聞いてみる。
「そう言えば不思議に思っていたんですけど、作戦を立てた時ロイドさんが
(あの作戦で決まりだな)って言ってましたよね?過去にあの作戦を使った事があるんですか?」
と聞くと
「ああ、あれは私とロイドが見習い魔導士だった頃、姉の所属していたパーティーが別の魔物に対して使った作戦だったんだよ。その当時見た事を今日そのまま使ってみたんだ」
と言われた。
しかし(あの作戦)で通じるのは流石に幼馴染といったところか。
一通りの手続きが終わり解散となった。
ダイス達はまた表情をニヤニヤしながら帰っていったが、分け前で揉めたりしないか?なんて思いながら俺もリフルに帰る。
食事を済ませて部屋に戻る。
今日の報酬だけで金貨60枚、Dランクにもなった。もうそろそろ他の街も見てみたい・・・
と思ってみたものの、ひとまずそれは明日以降考えてみるか。
しかし、あの3人は本当に大丈夫かな。取り分で争いなんて起きないかな。
まあ、俺が心配する事じゃあないか。
もう寝よう。
「おやすみ、アイ」
毎日のルーティーンとなったこの挨拶をアイにした後、眠りについた。




