第二十四話
翌朝、散歩を兼ねて街をぶらつきながら他の店で朝食を食べた。
そこそこ美味しかったが、値段を加味してもリフルの料理の方が断然上だった。
市場でリンゴを1つ購入し早めに待ち合わせ場所に向かう。
到着すると座るのに丁度いい岩を見つけたのでそこに腰かけてリンゴを食べた。
食べ終えて少し休憩した後、試してみたい事があった。
新しい武器の扱いについてだ。
前に使用していた短剣に比べるとほぼ剣に近い長さになったので、一応確認しておきたかった。
接近戦はなるべく避けたいが、持久戦になった時はある程度魔力を節約して武器にも頼らなくてはいけないと思ったからだ。
(この間のオークの群れと戦った時がまさにそれだった)
武器を手に取り、まずは軽く振ってみたり、前方に突いてみたりする。
当然ながら若干の重さを感じるが、肉体強化を発動していない状態でもそこまで苦にはならない。
うん、いい感じだ。少し慣れてくると今度は目の前に相手がいると想像しながら武器を振ってみる。
「片手用の武器だから万が一、相手と鍔迫り合いにったらどうしようかな」
等いろいろ想像してみる。
そうこうしている内にケイン達が到着した。
「こんにちは。武器なんか取り出して何をしてたんだい?」
とケインに聞かれ
「あ、いや、もし持久戦になって魔力の節約を考えた時に、新しい武器で接近戦をした時の想像を少し・・・」
と返すとウィルが
「ハハハ、アイカワさん。剣士も目指すの?そうなるともう凄すぎでしょ?」
と冗談っぽく言われたので
「まあ、あくまでもいざって時の為ですから」
と苦笑いを浮かべた。
「ねえ、早く村に行こうよ!」
と人一倍鼻息が荒いルーシーが言うと
「もう、ルーシーったら。そんなに慌てなくても」
とケイトになだめられていた。
村に向かいながらルーシーのあの様子についてケインに聞いたところ、今朝から興奮してずっとあの状態なのだという。
いや、遠足が楽しみで興奮した小学生か!と思わず心の中でツッコんだ。
ほどなくして村に到着すると、ケイン達に気が付いた数人の村人達が集まって来て仲良さげに話していた。
ルーシー達のお師匠さんはどうやら村の外れに住んでいるとの事なのでそこへ向かってみる。
村の外れまで来ると煙突がある大きめの家がポツンと立っていた。
そこに薪割りをしている男性と洗濯物を干している女性を見つけると
「師匠~!」
と大きな声を出しながら手を大きく振る。
2人の所まで来るとケインが
「お久しぶりです。ダンさん、マリンさん」
とケインが挨拶するとダンと呼ばれた男性が柔らかい笑顔で
「おやおや、誰かと思えば君達でしたか。これはまた急な来訪ですね」
一方マリンと呼ばれた女性はハキハキとした口調で
「あら、久しぶり。みんな元気そうね!」
と俺達を出迎えてくれた。俺を見て
「そちらの方は?」
と聞かれたので
「はじめまして。アイカワ ユウイチと言います」
と自己紹介をした後
(氷の魔法について教えてほしい事、ルーシーがもう一度修行をしてほしい事)
を簡単に説明した。
「そういう事でしたか。まあ、取り敢えず家に入って休んで下さい」
と言われたのでお邪魔することにした。
リビングのテーブルに案内されて椅子に座った後、マリンさんが村特産のお茶を人数分出してくれた。
「いただきます」
といい一口。すると
「美味しい」
と思わず感想が出てしまった。
味は日本の緑茶とほぼ同じでとてもなじみのある味だった。
「では、事の経緯をもう一度整理してもいいですか?アイカワさんは氷を作り出す魔法を私に欲しいと。何故です?」
と聞かれた。
「実は雷魔法で強い魔物を倒そうとした時、威力をより与えたいと考えた結果、最初は水魔法で相手をずぶ濡れにした後に雷魔法を撃ち込んでいたんですが、この先を見据えた場合通用しないと思いました。
なので水魔法を応用して氷を作り出す魔法で魔物の動きを止めた後に、雷魔法を撃ち込めたら上手くいけば動きも止められるし、氷と雷で威力も上がるかもと思い何度か練習してみたのですが、上手くいきませんでした。
そこへギルドの戦闘ミッションでお世話になったケインさん達とばったり会って相談してみた所、ダンさんを紹介してくれるという事で今日お邪魔させていただきました」
と詳細に説明した。
「因みに魔法の掛け合わせを試したことは?」
と聞かれたので
「(火と風)は何度か練習で、(水と土)ならば実戦で1度だけ使用出来ました」
と答えると
「ほう。火、風、水、土と4つも属性を使えるのですか。凄いですねぇ。
でもそんなに多彩な魔法が使えるなら、雷魔法との掛け合わせなど考えなくても十分な気がしますがねぇ・・・」
とダンさんが答える。するとルーシーが
「そうですよね。アタイもそう思うんですけどね・・・」
とまた落ち込み始めた。
「フフ、ルーシーは明るそうに見えて落ち込みやすいのは変わってませんね。
では、今日はもうすぐ日が暮れるので明日また来てください。その時に氷の魔法のコツを教えましょう」
と笑顔で言ってくれた。
「ありがとうございます」
と俺が言うと
「ねえねえ師匠、アタイの特訓は~?」
と子供が駄々をこねる様にダンさんに聞いてきたので
「わかってますよ。ルーシーの修行もね」
となだめる様に笑顔で答えた。
流石にこの人数を泊める広さはダンさんの家には無いので、男性陣は村の宿屋に泊ることになった。
その日の夜、宿屋の部屋で男性陣のみでケインとウィルが過去の話してくれた。
ケインとウィルは戦争孤児で、この街に流れ着いた時にダンさんとマリンさんに出会い、2人を通じて元剣士だったルーシーの父親の下で修行をして今に至るという。
(後でケインとウィルに聞いた話だが、ルーシーの両親とケイトの両親は共に元冒険者で引退した後この村に定住し、2人が成人になる前に病気で亡くなったそうだ)
ベットで寝る直前ケインが
「アイカワさん、戦闘ミッションで最後に私が言った事を覚えているかな?」
と聞かれて
「(討伐依頼を受けて続けて調子に乗っていると、いつか大変なしっぺ返しを食らったり命の重さや大切さを見失う時が来るかもしれない)でしたよね。よく覚えています」
と答えると
「ありがとう、覚えていてくれたんだね。あの言葉は戦災孤児としての私達2人が経験からきている言葉でもあるんだ。
命の重さや大切さを軽んじてしまえば、次第に自分の周りが見えなくなり同じ仲間や守りたいと思う大切な存在すら大切に出来なくなってしまう可能性がある。
その大切さが分からなくなってしまったせいで、私達が子供の頃の暮らしていた国の国王は他国のとの戦争を繰り広げ、結果国は滅んでしまった。
だからアイカワさんをはじめ、我々が戦闘ミッションで出会った冒険者全員にこの言葉を送っているんだ。なので出来るだけこの言葉は忘れないでいてくれ」
と言われた。
あの時の真っ直ぐな目はそんな辛い過去の経験から来てるのか。
前の世界では背負う物をなるべく増やさないように生きてきて、こちらの世界に転生してもそう生きていこうとしてはいる。そこは今でも変わっていない。
しかし、少なくとも2人から聞いたこの言葉を出来るだけ忘れないようにしようと思いながらこの日は眠りについた。




