第二十話
ケイン達と目的地へ向かう途中、ルーシーに今回の経緯を報告しなくていいのかと尋ねたがケイトに
「依頼を完遂して戻ってきた後に報告しましょ?あの子きっと(もうほぼ治ったから私も行きたい!)なんて我儘言うかもしれないわよ?」
と言われてケインとウィルが
「かもなぁ」
と笑いながら同意した。
今回の目的地はダンジョンではなく広い平地でそこにオークが群れを成しているという事だった。
平地か。ダンジョンと違って動きに制約が無い分、複数の人数で1体ずつ撃破なんて出来ないな。
それに戦闘が長引けば下手をすると他の魔物が寄ってこないとも限らない。どう攻めたものか・・・
そうこうしている内に目的地に到着した。
目的地に近づくとケインがケイトに探知魔法で周囲を探ってもらうとかなり遠くだがオークの存在が確認できた。
近づく前にケインにオークを倒した時の状況を聞かれたので
「確か、顔に先端が尖った岩を顔面に当てて、相手が怯んだ状況でに水魔法で体中をずぶ濡れにした後、雷魔法でトドメを刺したって流れでした」
と話したらその場の時間が止まった感じがした。
「ア、アイカワさん、今まで幾つの属性の魔法を使ったことあるの?」
とケイトに聞かれたので
「確かあの時は、土、水、雷、火だから使ったことが無いのは風魔法くらいかなぁ」
と言うとケイトが思わず
「ええぇぇ~~~!?」
と声を上げそうになった。
ウィルに口を押えられている所に俺が
「え?なんか変なこと言いました?俺」
と唖然としているとケイトが
「アイカワさん。一般的な魔導士はね、通常1~2つ、多くても3つくらいの属性の魔法しか使いえないのよ。それにギルドの受付の女性の証言だと魔法障壁も使えるって言ってたわよね?」
と胸ぐらをつかまれるかの勢いで詰められ
「ま、まあ、一応」
と返すと
「4つの属性の攻撃魔法と補助魔法が新人冒険者に使えるなんて・・・自信が無くなりそう」
とがっくりしそうになっていたがケインが
「何はともあれ今は依頼に集中しよう!」
と俺達に喝を入れた。
オークのいる方角へ身を屈みながらある程度の距離まで近づくと運よく人が3~4人程隠れられる岩があったのでそこへ身を寄せる様に全員で隠れた。
前方10メートル程先にオークが数匹いる。再度ケイトが探知魔法でオークの数を確認すると合計12匹確認できたらしい。
「作戦はどうします?」
とケインに尋ねると
「まずウィルでオークの足を傷つけて動きを止める。その隙に私やアイカワさんがとどめを刺していく。
ケイトはバックアップに回ってくれ。オークの攻撃が当たりそうになっても魔法障壁で防げるが発動できる回数に限度がある。その事を頭に入れておいてくれ」
という作戦に決まった。
ケインが決めた通りにウィルがスピードでオークにダメージを加え、俺がサンダーボルトを撃ち込みトドメを刺す。
ケインは最初の1体目は1人で倒したが、2体目以降はウィルとのコンビネーションで着実に倒していく。
俺も肉体強化を発動し、水魔法をオークの顔にかけたり、無数のストーンショットを顔に撃ち込んだりして怯ませた後、いつもより強めの雷魔法で着実に倒していく。
疲労で体力が落ちたメンバーがいるとケイトの所まで一旦下がり、疲労回復の魔法で体力をかけている間、空いた穴を他のメンバーが埋めるという作戦も実行しながら何とかラスト1体まで数を減らせた。
その時だった。
「お、おい冗談だろ!」
ウィルが何かを見つけて驚いたような声を上げる。
その方向を見てみると先程まで戦っていたオーク達より一回り大きな巨体のオークが出てきた。
どうやら群れのボスの様だ。
「参ったな。皆、残りの体力や魔力は?」
とケインが聞いてきた。
俺はまだ大丈夫だが、攻撃の要であるケインとウィルの体力、ケイトも疲労回復の魔法を何度も連続で使用した為か、かなり疲れが出ていた。
「まずい展開だな、一度撤退するか?」
とウィルが提案してきたがケインが
「いや、残りの体力を考えると全員が逃げ切るのはかなり厳しい。それに上手く逃げ切れたとしても群れを壊滅させられた怒りでそのまま街へ攻めてくる可能性もある。
そうなれば甚大な被害が出てしまう。何とかここで食い止めなければ」
とは言ったがこのまま戦っても下手をすれば誰かが命を落としかねない。
ここでアイに
「アイ、いざとなったらバックアップお願いできるかな」
と聞いたら
「わかりました。ですが無茶はしないで下さい」
とやり取りを終えた後
「ケイトさん、疲労回復の魔法はあと何回使えますか?」
と聞いた。
「あと2回が限度よ。でもどうして?」
とケイトが言い終わると同時にケインが
「まさか、1人で戦う気か!」
と止めに入ったが
「1人で仕留めようなんて思ってません。俺が時間を稼ぐので出来るだけ早く2人に疲労回復の魔法をかけてください。では、頼みましたよ!」
と言ってオークのボスに突っ込んでいく。
他のオークと同じく動きは遅かったが空振りした一撃が、今までのオークとは段違いの威力に背筋が凍る思いだった。
しかし、動きを止めずストーンショットやサンダーボルト、そして戦闘で2度目の使用となる短剣で切り付けて着実にダメージを重ねていく。
一瞬、動きが止まったのを見計らって両手を前にかざし、フルパワーのサンダーボルトを撃とうとしたら目の前に溜めた筈のサンダーボルトが消えてしまった。
どうやら自分も魔力が底を尽く寸前のようだ。
「逃げろ!!アイカワさん!!」
とケインの声が響いて、一瞬そちらに視線を向けるとケインとウィルが剣を構えてこちらに走ってくるのが見えたがまだ距離がある。
オークのボスが怒りに任せて俺に一撃を入れようと腕を振り上げた瞬間を見計らい、オークの頭頂部に移動し、力の限り短剣を突き刺し、残った魔力の全てを使い雷魔法を短剣を通してオークの体全体に流し込んだ。
この一撃にオークの動きが止まり、魔力を使い果たした俺は地面へと落ちていく。
地面に叩きつけられる寸前にウィルが俺を受け止めて、同時にケインがオークのボスの首を刎ねてトドメとなった。
「大丈夫か!アイカワさん!」
とケイン達の声が響くが
「大丈夫です。魔力を使い切って疲れてるだけなので・・・」
と返したが正直体に力は入らない。起き上がるのがやっとな程だ。
「全く無茶するわねぇ。最後はどうなるかと思ったわ」
と言いながら安堵の表情をケイトが見せた。
「最後の一撃に勝算はあったのか?」
とケインに聞かれたが
「いえ、正直あの状況で奴に少しでもダメージを喰らわせる攻撃はあれしかないと思ったんです。完全な思い付きですよ」
と正直に話した。
それを聞いたケイン達は
「全く呆れた奴だよ」
と皆で笑い飛ばしながらケインが差し伸べてくれた手で起き上がる俺に
「でも正直助かったよ。もし3人だけでこの依頼に挑んでいたら間違いなく全滅してた。ありがとう」
と礼を言われた。
倒したオーク達をケイトのマジックゲートに全て納めてギルドへ向かう。
途中までウィルに肩を貸して貰いながら歩いていたが帰還している途中、体力がほんの少しずつだが回復してきていたので途中からは自力で歩き、マジックゲートを開けるまで魔力が回復していた。
改めて創生神様にはこの体を与えて貰い感謝しかない。
換金所に倒したオークを持ち込んだが、流石にその場での解体と換金は無理との事だったので翌日の昼に改めて来てくれとの事だった。
そして、俺には上位ランクのパーティーと一緒とはいえ、オークの群れとそのボスを討伐した証として報償紙が発行され、晴れてDランクに昇格した。
流石にCランクへの飛び級とはいかなかったが、個人的にはそれで良かったと思う。
とてもじゃないがケイン達の協力が無ければ今回の依頼は達成出来なかっただろうし、ここで変な自信がついて天狗になればきっと何処かで挫折する時が来る。
それが戦闘中になれば自分の命、ましてやその時に一緒にいる仲間の命にまで関わってしまう。
そんな事を考えている間に今日の所は解散となりリフルに戻る。
食堂で晩御飯を食べて部屋に戻るとアイが
「ここで一つお知らせしておきたい事があります」
と言ってきた。
「どうしたの?」
と返すと
「今日の戦闘で一度魔力を全て使い切ってしまった反動で、少なくとも明日と明後日は攻撃魔法と補助魔法が使用出来なくなります。
マジックゲートと肉体強化は使用できますが、肉体強化はいつもより体に流し込める魔力が制限されるので気を付けてください。
後、今日の戦闘で2レベル上がりましたので、明日以降開放するスキルを2つ選んでください」
と忠告が来た。
「ああ、分かった。正直言うとリフレッシュも兼ねて最低でも2、3日間くらい休みを入れようと思ってたから丁度良かったかな。
スキルも明日以降どこかのタイミングでゆっくり選ぶよ」
と笑いながらベットに横になる。
「あ、そう言えばオークのボスの頭に短剣刺したまま換金所に出しちゃったな。
まあ、いいか。明日考えよ」
と言い終わるのと同時に寝落ちしていた。




