第十九話
激動の1日の翌日。
次のランクへ昇格するための方法を少し考えてみる事にした。
そろそろ別の街へ行ってみたいという願望も出てきていたからだ。
そもそも今のランクに上がった経緯は1人で
<低級の魔物の他に偶然現れたオークを1体仕留めた>
という偶然があった訳だが、次のランク上がる為にはどんな条件をクリアすれば良いのか。
「もう少し強い魔物を相当数討伐すれば・・・って感じなのかなぁ」
と1人、部屋で呟くとアイが
「焦ってはいませんか?確かに貴方は徐々に強くなってはいますが、功を焦ればあっさりと命を落としてしまいますよ」
とクギを刺された。
「うん。分かってはいるよ。ただ、第2の人生をのんびりと過ごそうと決めてはいるんだけど、のんびりし過ぎているといつまでもこの街に居座ってしまいそうで・・・」
と返した。
この街で関わった人達は今の所良い人達ばかりだ。
戦闘ミッションで出会ったケイン達、リフルの夫婦、エヴァンとメイ、ベルク国王とファルシア王女・・・
本当に皆良い人達と出会えた。
前の世界では色々な人間関係が上手くいかなかった事もあり、第2の人生は街から街へ移動しながら、1人で(正確にはアイもいるが)気ままに生きていければいいと考えていた。
「まあ、そこら辺は流れに身を任せてみるか・・・」
そう、ゆっくりと決めればいい。気ままに生きる事が出来ればそれでいい。
ギルドへ向かう前に装備品の状態を確認してみることにした。
今装備している短剣を使用したのはキラースワブを解体した時だけだったが、その後の刃先の状態確認は一切していない。
取り敢えず短剣を引き抜いてみると・・・良かった。何ともなっていない。
一安心した後に、ふと思いついた事をアイに聞いてみる。
「ねえ、アイ。魔法の力を剣に移して使用する事とかって出来るの?」
昔ゲームでみた<魔法剣>というやつだ。
「可能ではありますが、剣そのものに特殊な素材が使用されてないと出来ません。
一般的に販売されている武器に魔法を移して使用すると剣そのものが耐えられなくなり破損してしまいます」
と言われた。
「特殊な素材か・・・因みにどんな所で取れるの?鉱山とか?」
「鉱山というより、よく依頼で赴くダンジョンです。稀に魔物が巣食っている所に特殊な鉱物が含まれていて、それを採取してきて特殊な武器に加工してもらうという流れになります。
しかし、例え特殊な鉱物が採れたとしてもそれを加工出来る職人がいなければ話になりません。
残念ですがこの街の周辺にはその鉱物が採れる場所も、その職人もいません。
もし、そういう武器を手に入れたいのであれば他の街へ行くしかありませんね」
そうかぁ、鉱物も職人もいないかぁ。
それならしょうがないか。出来れば剣は使いたくないが、仮に魔法が使用できない状況になった場合やゲームの様に剣に魔法を移して使用すれば相乗効果が期待出来ればと思ったのだが・・・
まあ、その時が来ればまた改めて考えるか。
取り敢えずギルドへ行こう。
ギルドに到着し、待合所になんとなく目を向けてみると見覚えのある顔がいた。
戦闘ミッションで一緒になったケイン達だ。
「こんにちは。お久しぶりです」
と声をかける。
「ああアイカワさんか、久しぶりだな。戦闘ミッション以来か」
と挨拶してくれたがどこが元気がない。
あれ、1人足りないな。
「あれ、ルーシーさんは?」
とケインに聞くと
「彼女は風邪を拗らせてね。熱は下がったんだが、念の為今は宿で休養を取っているんだ」
との事。でもそれにしては暗すぎないか?と思っているとウィルが続けて
「実は、風邪で寝込む前に依頼を受けていてさ、しかもその依頼で討伐するオークの弱点が雷魔法なんだよね。
で、流石に俺達だけだと達成出来る確率が下がるからどうしようかと悩んでいた所なんだ」
なんか何処かで経験した流れ・・・と感じた次の瞬間
「フッフッフ。ケインさん、しょぼくれる必要なんかありませんよ。目の前に救世主がいるじゃありませんか!」
と俺の背後から受付の女性が急に現れた。
「またこのパターンかよ!」
思わずツッコミを入れてしまったが、ケインが
「いや、今回の依頼はオークの群れの退治する俺達でも危険な依頼だし、いくらアイカワさんでも・・・」
と不安を口にすると受付の女性が
「だってアイカワさん、1人でオーク1体倒した経験あるし、前回の依頼では魔法障壁も使って守ってくれたってエヴァンさん達が嬉しそうに言ってましたよ?
追加条件が無ければ是非仲間にしたかったって・・・」
あんの若造共め、余計な事を言いおって!と思わず頭を抱えると
「ねぇ、ケイン。アイカワさんに参加してもらいましょうよ。正直私達だけでは達成は不可能に近いわけだし、まだFランクだけど炎魔法が使えるなら・・・」
とケイトがケインに提案している途中で
「確か、オークを倒した時に報償紙が出てEランクに上がったし、アークスコーピオンに襲われそうになった後、雷魔法で動きを止めたってメイさんが・・・」
とまたまた受付の女性が割って入ったと思った直後
「頼む!オーク討伐に加わってくれ!」
とケインとウィルが立ち上がって頭を下げてきた。
どうしようか悩んでいるとアイが
「良いではありませんか。この依頼を完遂する事が出来れば報償紙が発行されて次のランクに上がるかもしれませんよ?」
ア、アイさん?!今朝リフルの部屋で「功を焦れば命を~」とか言ってたのに?!
あ~、もう知らね。
「わかりました、受けましょう。どうなっても知りませんよ」
と半ば諦めで提案を了承した。
「ありがとう!これで依頼を破棄せずに済む」
とケイン達が喜んでいたがこのパーティーに俺1人が加わったところで戦力になるのか?と今でも自信が持てない。
が、受けてしまったものはしょうがないしこれも2度目だが気ままに生きよう、もうなすがままだ。
と気合を入れ直すとケインが
「では、早速だが目的地へ行きたいのだが大丈夫か?」
と聞かれたので
「はい、大丈夫です。行きましょう」
と言い、目的地へ向かうとにした。




