第十八話
屋敷内部に突入後、1階をA班、2階を俺が振り分けられたB班が探索する。
ハイドが俺とカリスと名乗る人物に
「どちらかに探知魔法をお願いしたいのだが・・・」
と求められたので俺が
「では、俺が担当します」
と言い2階を探知魔法で魔物の位置を把握、その情報を基にその場所を全員で向かい魔物を倒していく。
一体どのくらい魔物が巣食っているかと身構えながら探索したが、結果から先に言えば低級の魔物がちらほらと散発的に出てくる程度で、攻撃系の魔法の出番はなく討伐のみなら兵士達だけで事足りた。
ロールプレイングゲームで廃墟の探索と言えば、所謂<ゴースト>系や<アンデット>系の敵が現れるのが定番かと思っていたが、そういう事は無く2階をB班全員で細かく調べてもその手の魔物は現れなかった。
俺達B班が2階を全て調べ終わり、3階に続く階段で待機しているとすぐに1階から上がってきたA班と合流した。
最後の3階をこの大人数で調べるのかと思ったら、ジョージがA班にいた魔導士2人と兵士6人に1階と2階で倒した魔物の部位の解体と回収の班をその場で編成し、2班に分けてそれぞれ向かわせた。
残り全員で3階の魔物も全て討伐。と同時に兵士3人が部位の切り取り、俺のマジックゲートへ収納。
因みにカリスはここまで何もしていない。なんなら自分の気配を消して注目されないようにしているまである。
何なんだコイツはと思いながら作業をしている内に全ての部屋を調べ終えると、リーダーのジョージが
「では、屋敷内の魔物の討伐と調査はこれで全て終了しました。別の2班と合流次第、屋敷の焼却作業を開始します」
ほぼ全員が屋敷の1階の入り口から出てくる時、最後に出てきた兵士達が腰にぶら下げた小さな樽の中から液体を絨毯に撒きながら出てきた。
ハイドに「今撒いているあの液体は何ですか?」と聞いてみると
「お城や街の食堂で廃棄予定の調理油を、携行可能な樽に入れて兵士全員に持たせたんです。
それを各階の布や壁にまんべんなくかけて火の回りを早めます。そうすればただ炎魔法を撃ち込むより早く全焼すると思いまして」
全員が門の前に集まると兵士が数人、入り口に敷いてある絨毯に火がついた松明を投げ入れた。
火は瞬く間に1階に広まり、1階の探索の時に兵士によって割られた窓から煙がモクモクと出てきた。
するとジョージが
「では炎魔法を使える方、2階と3階の各階の窓に向けて魔法をお願いします」
そう言われると俺ともう1人の魔術師が各階の窓めがけて炎魔法を撃っていく。
撃ちこまれた炎魔法によって割られた各階の窓の奥の壁や床にに次々と火がついていき、内部に撒いた油のおかげか屋敷が全焼して柱すら崩れて屋敷の原型が無くなるまでそう時間が掛からなかった。
念の為、焼けて炭と化してしまった屋敷の残骸に水魔法をまんべんなくかけて消火を全員で確認した後、城へ帰還した。
城へ到着した後、報告する兵士2人と依頼に参加した俺を含めた4人でギルドへ向かい部位を換金所に提出、受付で報告手続きを完了して依頼料と部位のお金の合計を均等に分けると報告に同行した兵士が
「これで今回の依頼は終了です。お疲れさまでした」
と挨拶をして城へ戻っていった。
A班にいた2人の男性魔導士もギルドを出てそれぞれ別の方向へ去っていく。
今日の依頼は比較的楽だったなぁ。周りに兵士達がいたし、魔物も低級で数も多くなかったし。
緊張が解けて背伸びをしがら
(俺もリフルに戻るかぁ)
なんて思っていた時、不意に腕を引っ張られ待合所の隅に連れ込まれた。
えっ?と思ったらB班で一緒だったカリスが目の前に立っていて、小声で
「アタシよ、アタシ」
と話しかけてきた。
少し混乱して分からなかったがよく見るとファルシア王女だった。
びっくりして声を上げそうになったが王女の手で口を押えられた。
王女の手をどけて俺が
「何してるんです、こんなところで。ん?ていうかその恰好はまさか・・・」
と俺も小声で返すと
「そ!。今日の依頼、アタシも参加してたのよ。見抜けないなんてまだまだね」
とあっけらかんと言い放った。
「どうやって依頼書を・・・」
と聞こうとすると王女が
「質問は後で。それよりお腹がすいたわ。こんな所にずっといても怪しまれるからリフルに行きましょ!」
とリフルに戻・・・いや、半ば強引に連れていかれた。
リフルに到着すると食堂へ2人で向かい、端の席に座ると王女が羽織っていたフード付きのローブを脱ぎ、夫婦に素顔を見せた。
あまりに驚いた夫婦はリフルの看板を<閉店>変えて、夫婦が王女の傍へ行くと王女が
「久しぶりね2人共、いつ以来かしら?お父様に連れて来てもらったのは」
と言うとリフルの主人が
「確か、10歳の時が最後だと思いますよ」
と夫婦2人共笑顔ではあるものの涙を浮かべそうになっている。
「もう、泣きそうになっているじゃない。なにか食べさせて。もうお腹ペコペコ」
屈託のない笑顔で奥さんに言うと
「はいはい、少々お待ちください」
と奥さんも笑顔で応対した。
夫婦2人で料理の準備をしている間俺が
「ギルドでの話の続きですけど、依頼書はどうしたんです?門番に見せないと参加できない筈では?」
と聞くと
「そんなの簡単よ。兵士達と魔術師達が集まってる中に気配を消してこっそり集団の中に入ったの」
とさらりと返された。
「王女様の身に何かあったらどうするんです?B班のリーダーだったハイドさんの、いやあの場にいた兵士全員のクビが飛びますよ」
と率直に思った事をぶつけると
「だって、貴方との一件以来監視が厳しくなって外へ出かけられないんだもの。あれじゃストレスが溜まるとかのレベルじゃないわ」
と頬を膨らませ口を尖らせながら不満を漏らした。
いや普通、一国の王女がストレス発散にお忍びで街に出かける方がどうなんだよと呆れてる間に夫婦が
「さあ、料理が出来ましたよ」
と2人で料理を運んできてくれた。
「わぁ!これよ、これ!」
と王女が子供の様に目を輝かせたながら喜んだ。俺と王女の分が運ばれてくると王女が
「いただきます」
と元気よく言い1口目を頬張ると
「んん~、美味しい~。城の料理ももちろん美味しいけど、ここの料理も最高だわ~」
と幸せそうな表情で食べている。
俺達2人の食べている姿をリフルの夫婦が微笑ましくこちらを見ているのに気づいた俺が
「お2人はもう食べたんですか?」
と聞くと奥さんが
「ええ、私達はもう頂きましたよ。それにしても嬉しいわ、王女様に久しぶりに会えたのもそうだし、変わらず美味しそうに食べて貰えたら見ている私達も幸せになるもの」
と優しい笑顔で返してくれた。
他のお客さんがいたような感じが無かったので旦那さんに聞くと今日は珍しく宿泊客は俺1人だそうだ。
良かった~。王女の姿を他の客に見られたらきっと騒ぎになってたかもしれない。
食事を堪能した後、暫く皆で雑談をしているとキッチンの裏口の扉をノックする音が聞こえて旦那さんがが見に行くと
「なんと、これはこれは」
と旦那さんの喜びの声が聞こえた。
キッチンから姿を現したのはなんと国王とジョージ、それにハイドだった。
ジョージとハイドは(気持ち)顔が青ざめているように見えた。どうやらカリスの正体がファルシア王女だった事を聞かされて、国王の護衛と共に王女に謝罪しに来たらしい。
びっくりして慌てて立ち上がると国王が
「ああ、座ったままで結構。今はお忍びだからね」
と笑顔で返してくれた。
「それにしても、ファルシア。今日ばかりは流石に肝が冷えたぞ、身分を隠して討伐に参加するなんて」
と国王が王女に最もな事をぶつける。
「だって、いつも以上にダンスの稽古や作法の勉強を多く詰め込むんですもの。あれじゃ囚人と変わりないわ」
とまた口を尖らせて不満を吐露した。
リフルの夫婦2人が
「では、皆様の料理も・・・」
と席を立とうとすると国王が
「ああ、今日は大丈夫だ。また今度、機会があればお忍びで来させていただくよ」
と席を立とうとする夫婦を笑顔で止めた後
「では、ファルシア、そろそろ失礼させてもらおう。もう夜も更けてきたからね」
と国王が立ち上がると王女が
「そうね、もう暗いわね。アイカワさん、今日はありがとう。リフルの御夫婦も本っ当に美味しかったわ。またいつか食べに来るわね、その時はお父様と一緒に」
と満足げな表情を浮かべていた。
「アイカワ殿、今回も娘が迷惑をかけてしまったね。本当に申し訳ない」
と国王に礼を言われると
「とんでもない。こちらこそ何も出来ずに」
と謙遜した
すると王女が
「ああそうだ、このお金。要らないから貴方にあげるわ」
と唐突にお金が入った袋を出して俺に渡してきた。
「そんな、受け取れません。これは王女様が依頼に参加して手にされたお金ですし」
と断ると今度は夫婦に
「あ、なら貴方達が受け取って?。今夜の料理の代金として」
と差し出した。
当然、夫婦にも断られたが国王が夫婦に
「是非、受け取ってくれないか?今までの感謝の印として」
と説得されて申し訳なさそうに受け取る事になった。
そして国王、王女、ジョージ、ハイドの4人がリフルの夫婦と俺に見送られながらキッチンの裏口から店を後にする。
部屋に戻り、速攻でベットに潜り込んだ。
あの王女が絡むと何故かどっと疲れる。
あまりに疲れたのでアイに
「アイ。申し訳ないけど疲労軽減の魔法をまたかけてくれないかな?」
と聞くと
「わかりました」
と言って、戦闘ミッション初日の終わりと同じ疲労軽減の魔法を久しぶりにかけてもらった。
こうして激動の1日が幕を閉じた。




