第十五話
翌朝、目が覚めると布団を掛けずに寝ていたことに気づいて起きる。
「そういや、あの後すぐ寝落ちしたんだっけ」
と半分寝ぼけた状態で昨日の出来事を思い出してみる。
まあ、この世界の住人でさえあるかないかの体験をしたのだから無理はないか。
起きた時が仰向けだったが枕に涎が無いか確認してから部屋を出てギルドへ向かう。
ギルドへ到着し、依頼書が張られている掲示板を見る。
あれ?Eランクは1枚しかないな。
内容は・・・「即席でパーティーを組んで低級魔物のダンジョン攻略」?
意味も解らずその依頼書を見ていると受付の女性が
「ああ、アイカワさん。この依頼ですか?」
と話しかけてくれた。
「なんです?この依頼。即席パーティー?」
「ええ、たまにあるんですよ。パーティーを組んで自分達で攻略出来そうなダンジョンを見つけたものの、何らかの理由で欠員が出たパーティーの人達がギルドを通してこういう依頼書を出すんです」
なんだそりゃ。パーティー内でなんか揉めたのかな?それとも他の理由か?
なんてやり取りをしていると受付に若い(10代後半くらい?)男女2人が来て
「あの、依頼書を出した者なんですが引き受けてくれる人見つかりましたか?」
と尋ねてきた。すると受付の女性が
「あ、ちょうど興味を持ってくれてる人が今ここに・・・」
ん?俺は不可思議な内容だからちょっと聞いてみただけなんだが?
そうすると続けて受付の女性が
「アイカワさん、受けてみませんか?1人でオーク1体を倒しちゃうくらいなんですからきっと3人で組めば低級魔物のダンジョンなんかあっという間ですよ!」
おい、待て。なぁんで引き受ける流れなんだよ!と言おうとした瞬間、依頼書の男女2人が
「お願いします。今回だけ一緒にパーティーを組んでください!」
とすがるように頭を下げてきた。
「いや、そんな事をいきなり言われてもなぁ」
と困惑していたが急にアイが
「良いと思いますよ、誰か行動を共にするのも」
と割り込んできた。
「パーティーを組んでの連携を経験してみるのも悪くないと思います」
そりゃ、経験しとくに越したことはないけど・・・
ああもう、面倒くせぇ!
「わかりました。受けます」
と言うと男女2人が
「ありがとうございます!」
と礼を言われた。が、依頼を受けるにあたり1つだけ条件を追加した。それは
<この依頼をクリアしたら依頼関連で自分に関わらない事>だ。
何故こんな条件を出したかと言うと
1.依頼を出したこの男女2人が何らかのトラブルを抱えていた場合、後々巻き込 まれた時を見越して
2.もしダンジョンでオークの様な強敵と出くわして俺がまた倒した時、その実力 にあやかってランクを上げる目的で近づかれても迷惑だから
と考えたからだ。条件を承諾させ依頼書にも追加条件として書かせて、受付の女性にも確認してもらった。
ギルドを出て目的のダンジョンに向かう道すがら各々自己紹介をした。
若い男性の名は<エヴァン>職業は剣士で登録してるがまだ見習い程の実力でそこまで強くはないらしい。
もう1人の女性は<メイ>職業は魔導士だがまだ簡単な治癒魔法と補助魔法しか使えないそうだ
2人の自己紹介が終わると
「俺はアイカワ ユウイチ。職業は商人で出してる」
と言うと
「え?でも受付の女性はオーク1体を1人で倒したって・・・」
とエヴァンに言われたが
「子供の頃に魔法や武術の修行はしたけど、将来性無しと判断されて途中で諦めて辞めたんだ。攻撃魔法と簡単な回復魔法は使えるけど、オークを倒せたのなんて奇跡に近いよ」
とお決まりの嘘を言っておいた。
「で、つかぬ事聞くけどなんでこんな依頼出したの?仲間と何かあったの?」
と聞くとメイが
「実を言うと、あと男女2人と私達の合計4人でパーティーを組んでたんですけど離脱した2人は実力が桁違いでEランクに上がった途端、見限られてしまったんです」
と何とも返答に困る切ない事情を話した。
「他の仲間候補は見つからなかったの?」
と返すとエヴァンが
「探してはみたんですが、その時同じランクでパーティーを組んでない人が見つからなくて、仕方なく昨日ギルドに仲介を含めた依頼書を出してみたんです。
そしたら今日アイカワさんに出会う事が出来たという訳です」
このタイミングで俺がいたのが渡りに船って事だったのか。
話している内に目的のダンジョンに到着した。
するとエヴァンが真剣な表情で
「入り口に人間の足跡も無いし、どうやらまだ攻略されてなさそうですね」
と一言。メイも探知する魔法を使い
「ええ、この前このダンジョンを見つけた時と同じ魔物の数よ。10体、全て低級の魔物」
と続いた。
(なんだ、意外と連携は出来てるじゃないか)なんて感心していると
腰に装備した剣を抜いたエヴァンが声と足を震わせながら
「じ、じゃあいいい行きましょうか。アイカワさん」
え?緊張してる?メイにも目を向けてみると装備している杖を両手で握りしめて体をガクガクさせていた。
「もしかして、ダンジョン攻略初めて?」
と聞くと無言で頷く2人。
こんな状態でダンジョンに入るのは危なすぎるので2人の背中を強めに叩いた。
2人が少し痛がっていると俺が
「2人共落ち着け!俺もこの間Eランクに上がったばかりだから偉そうなこと言えないけど、入る前からビビってたら攻略なんか出来ないし、なんなら命に関わるかもだぞ?」
と自分なりの喝を入れた。
「ア、アイカワさん」
と2人の表情からひとまず緊張が解けたのが見て取れた。
「回復魔法が使えるメイだっているし、やれるところまでやってこれ以上は危険だと判断したら退却して建て直せばいい。そうだろ?」
そう、無理は禁物だ。オークを倒した時だって1体しかいなかったから何とかなった様なものだし。
「じゃあ、行こう」
マジックゲートから松明を2本取り出し火をつけて、エヴァン、メイ、俺、の順でダンジョンへ入っていった・・・




