第十四話
配下の(如何にも執事っぽい)人に
「この部屋でお待ちください」
と案内されたのは、かなりの広さの部屋で、これまたかなりの高級感を醸し出して、色々な調度品が置かれた部屋、そしてソファーにちょこんと座って事態がいまだに理解できずに思考停止中の俺。
「どうなってんだ、これ」
ボソッと小声で独り言を呟くとアイが
「あの女性はこの国の王女<ファルシア・ダン・キリアナ>です」
と言ってきた。
「え?知ってたの?」
「貴方が助ける直前はよく見えなかったので解りませんでしたが、彼女が通りに出てきた時に顔がはっきり見えたので」
解ったのなら言ってくれ・・・
なんて会話をしていたら扉をノックする音がして執事の人が
「お待たせしました。こちらへ」
と言われてついていくとさらにドデカい、というか完全に<謁見の間>の様な場所に案内され、一番奥には王様らしき人が座っていた。
こういう時って所謂<片膝をついて、右手を左胸に充てて>の自己紹介とか?とアイに問うと
「その国王の人柄にもよりますが、それが一番無難でしょうね」
そりゃそうか、なんて思っていると執事の人が
「こちらはこのキリアナ国の国王<ベルク・ダン・キリアナ王>でございます」
と一言。
ひとまずアイに確認した通りの事を自分なりにしてみた後
「お初にお目にかかります。私はアイカワ ユウイチというものです」
とこちらから自己紹介してみると執事の人も周りの兵士の人もキョトンとした顔で見られた。
「ハッハッハ、立ったままで結構だよアイカワ殿。そこまでかしこまらなくても大丈夫だ。娘が世話になったそうだね」
と笑顔で話してくれた。
「街の路地裏で男達に絡まれているの見て偶然。しかし、この国の王女様だとは知らずに・・・」
と立ち上がりながら言うと
「いや、父親の私が言うのもなんだが娘は結構おてんばでなぁ。城での暮らしのストレスを解消するためお忍びで街へ出てしまい、兵士達や臣下達を困らせる時があるのだ」
それで門番の衛兵達はあんなに安堵して泣いてたのか。
「それより、どこか怪我をしてないか?」
「怪我、ですか?いいえ、どこも」
変な事聞くなぁ、と思った後に国王から出てきた一言が
「いやぁ、何があったのか知らんが、たまにこうして送り届けてくれた人の顔にアザなどが出来てる場合があってな。君は大丈夫かと・・・」
国王のその言葉で暴漢の一人にトドメの一撃を入れた瞬間を思い出した。
それって助ける時に追った怪我ではなくて、助けた後に王女に手を出そうをして負った怪我だよなぁ、きっと。
などと考えていると、奥の扉が開いて凄く綺麗な女性が出てきた。
「ああ、改めて紹介しよう。わが娘<ファルシア・ダン・キリアナ>だ」
普通なら綺麗すぎて惚けてしまうところだろうが<蹴りの一撃>の時のドスの効いた声を覚えているので国王にして指摘された様に立ったまま会釈をして
「先程は王女様とは知らず失礼しました」
とかしこまると
「そんなにかしこまらなくて大丈夫よ」
と王女らしからぬフレンドリーな感じでケタケタ笑いながら
「それに助けてくれた後、貴方は私に手を出そうとしなかったから。もし手を出そうものならあの男と同じ目に遭わせてたわ」
と次の瞬間には周りから黒いオーラが出てきそうな不敵な笑みを浮かべた。
「にしても、その恰好は剣士や魔導士ってわけではなさそうだけど職業は何なの?」
「ギルドには商人で登録してあります」
「え?あれで?商人って身のこなしではなかった様に見えたけど!」
と驚かれたが
「実は、子供の頃に魔法や武術を教えられた経験はあるにはあるんですが、どれも実用出来るレベルまでには至らなかったんです。
魔法は基礎的な物が少し出来る位で、武術もほんの少し知識がある程度で止まってます」
と嘘を取り敢えずつくと
「もったいないわねぇ~」
そんな危ない事を極めたくないし
「それに私はもう33歳ですし、この年から魔法や武術を改めて鍛え直す年齢でもないですし」
単に努力とかしたくないし。というか努力なんてどうすりゃいいかわからんし
「まあ、いいわ。助けてくれたお礼に食事くらい御馳走するわよ?」
「おお、是非そうしていってくれ」
王女の提案に国王も同意した。
あ、城の門に到着した時そんなこと言ってたな。そのくらいのお礼なら貰っても罰は当たらないか。
「では、そういう事なら遠慮なく頂きます」
食事の準備と調理が出来るまで最初に通された部屋へ再び案内された。
城の窓からの眺めを楽しんでいると扉をノックされて執事の人が
「お食事の準備が出来ました。こちらへどうぞ」
案内されたのはひたすら長いテーブルに豪華な椅子がたくさん並べられた食堂・・・というにはあまりにも広い。
まあ、一国の主の城だしこんな感じが普通なんだろうな。
「こちらへどうぞ」
執事の人が椅子の後ろに待機している。
海外の映画で見た様な感じで近くまで行くと椅子を引いてくた。
座ろうとしたタイミングで国王と王女が同時に来たので執事の人と一緒に一礼すると
「ああ、遠慮なく座ってくれ」
と着席を促してくれた。
3人で座ったのと同時に料理が運ばれてきた。
計5品程のコース料理だったが流石にお城で出される料理と思うほど味は美味しく、言葉に表せない程だった。
リフルの料理も美味しくて感動したがこりゃあ比較にならん。
料理が運ばれてくる間にも色々と雑談をしたりだったが、雑談の内容よりも料理の味に感動しっぱなしだった。
最後のデザートまで食べ終えて余韻に浸っている途中、食堂の窓から外を見るともう暗くなっていた。
その様子に気づいた王女が
「あ、もう暗いわね。何なら泊まってく?」
と唐突に言われたが
「いえ、そこまで甘えるわけにはいきません」
と断った。
「あらそう、残念ねぇ。食後に一つ手合わせを願いたかったんだけど」
いきなりとんでもない事を言い出す。
「家はどこの地区なの?」
と聞かれたが
「私はこの国の出身ではありません。今はリフルという宿屋でお世話になりながらギルドで依頼をこなしてます」
と言うと以外にも国王が
「おお、リフルか。懐かしいな」
と会話に入ってきた。
「あそこの御夫婦の食堂には若い頃お忍びで行ったもんだ。御夫婦は元気でいるかね?」
「はい。滞在してまだ数日ですが、お二人ともお元気ですよ」
若いころとは言え、国王がお忍びで料理を食べに行くって余程気に入ったんだろうな。
長居しても申し訳ないと思ったので
「では、私はこれで失礼させていただければと思います」
と言って席を立とうとすると国王が
「では、最後にこれを受け取ってくれ」
そう言うと執事の人が小さい袋を出してくれた。
中身を見ると金貨が20枚ほど入っていた。
流石に申し訳なく思って
「こんなに沢山頂けません」
と断ろうとすると王女が
「いいのよ、受け取って。助けた後に手を出してこよう物なら金貨数枚を渡して放り出してたけど貴方はそうじゃなかったから。私達親子からのせめてもの気持ちよ」
こっそり置いていこうかと思ったがそれも悪いと思ったので有難く頂くことにする。
「では、本日はごちそうさまでした」
国王や王女にお礼を言いながら城を後にした。
門番の衛兵達にも帰り際
「ありがとうございました!」
とお礼を言われ、会釈をして急いでリフルに戻る。
リフルに着いて扉を開けると夫婦が
「おお、お帰り。随分遅かったね。この街にそんなに見て回る所あったかね?」
と二人揃って不思議そうな顔をされたので今日起こった事をそのまま伝えると
「そうか!そんな事があったのか」
と二人で笑っていた。
「昔、稀にに王女様を連れてお忍びで来られていたがそんなに活発になられたんだなぁ」
と懐かしむような表情で話を聞いてくれた。
ひとしきり話した後、部屋に戻って装備を外し、靴を脱いでそのままベットへ寝ころんだ。
普段ならアイにおやすみと言って寝るがそれも忘れるくらいのスピードでこの日は寝落ちした。




