第十三話
リフルを出てはみたものの知らない街の散策など生まれて此の方したことが無い。
前の世界で旅行に行き慣れているならば良かったのだが、修学旅行以外での旅など行った事が無いし、休みの日に遠くへ出かけるとはいっても車で1~2時間程度の範囲へ出かける程度だった。
(田舎の辺鄙なところに住んでいたので県外へ出る意欲もそもそも無かったというのもある)
アイに街のマップを出してもらう。
マップ上には武器屋とか道具屋とか色々あるが特に興味を引きそうなものは無い
まあ、悩んでてもしょうがないからふらっと歩き出してみるか。
(お城の近くをうろつかなければさして問題は無いだろ)
そう思いながら市場の方へ歩き出してみる。
少し歩くと市場へ到着、やはり活気がある。やっぱり市場だけあって色々な物があるな。
「前の世界と結構似た野菜や果物が売ってるんだなぁ」
とつい独り言が出てしまう。
それもその筈でパッと見て確認できただけでリンゴ、桃、ぶどう、トウモロコシ、キャベツ、ニンジン、青ネギ、玉ねぎ等見覚えのある物がかなり売っている。
目に入った売り場のリンゴを試しに1つ購入して歩きながら1口かじってみると
(うーむ、思いのほか酸味が強めかな)
なんて感想を考えているとアイが
「こちらの世界だと一般人が手に入れられる果物はそんな感じの物ばかりです」
と話しかけてきた。
「やっぱり出来のいい物って王様とか貴族の人達が手に入れるみたいな?」
と返すと
「当然です。この世界は基本的に王国制ですので、王は治安を維持したり、他の国からの侵攻を防いだりして国民が平穏に過ごしていけるわけですので、上質なものを納めさせる権利はあると思いますし、通貨での取引も成立していますので収入の格差が生まれ、収入の多い商人などもその収入に見合った物を手に入れます」
当たり前の事を説明されてまたも苦笑いを浮かべながら
「そ、そうですよね~」
心の中でアイと会話しながらリンゴを食べ終わる。
残った芯の部分を炎の魔法で消し炭にした後、アイにマップを開いてもらい他に何かないかと探しているとふとある場所が目に留まる
「歓楽街?」
「主に女性がお酒を提供したり、それ以上のサービスをする店のエリアと言えばお分かりになると思います」
ああ、そういうエリアか。
俺自身お酒はからっきし飲めないし、そういうオトナ系の店もあまり入ろうとは思わない。
女性に興味が無いわけではないが、こちらの世界だとそういう店でのトラブルに巻き込まれる確率が前の世界より格段に上がる気がする。
まあ、俺には関係ないな。
ふと気づくと市場を軽装の兵士があちらこちらにいる事に気づいた。
市場の警備というよりは誰かを探している様子で兵士達はとても慌てていた。
そんな兵士達をよそに市場を後にした。
結局興味のある場所がこれといって見つからなかったので、行かないと決めていたお城の付近まで行ってみることにした。
外観は大体の人がイメージするオーソドックスな西洋のお城だが、近くで見るとやはり迫力が違う。
門の付近まで行ってみると当然衛兵が守っている。
おお、ほんとに鎧を着てる。テレビとかでイギリスの映像を見ると独特の制服を着ているがこちらの世界では当然ながら鎧だ。
あまりジロジロ見ると不審者と勘違いされて捕まりかねないのでその場を立ち去る。
スマホやカメラがあれば記念写真を撮っておきたいところだが、当然そんな物は持ってないし、これからこちらの世界で旅をしていけば嫌というほどこの光景は見る事が出来る。
お城を後にして少し歩いた路地裏から変な会話が聞こえてきた。
アイにマップで確認してもらうと「歓楽街」のエリアに差し掛かる場所だった。
興味本位で覗いてみるとガタイの良い男3人が1人の女性を囲んでニヤニヤと品のない浮かべている。
どこからどう見ても女性が絡まれてる。
厄介ごとに首を突っ込むのはあまり好きではないが
「たぶん助けた方がいいよね?」
とアイに呟くと
「その方が賢明ですね」
と返された。
その場で肉体強化の魔法を少しだけ発動させて一瞬で男達の背後に回り、わざと気づかせ振り向かせた後に一人は顎を軽く拳で、もう一人には側頭部に蹴りを、残り一人にはもう一度後ろに回り込んで振り向かせた後にみぞおちに拳の一撃を入れてそれぞれダウンさせた。
その隙に女性を逃がそうと思い話しかけようとした瞬間
「こんのドぐされ共がぁぁぁーーー!!」
とかなりドスの効いた声を出しながら、みぞおちを殴られうずくまってる男の顔面に足で一撃入れて完全にダウンさせた。
余りの迫力に目が点になっていると女性が俺に近づき
「助けてくれてありがと。一人で倒すのは面倒だと思ってたところなのよ」
取り敢えずお礼を言われたので
「役に立てたなら何よりだけど、やっぱ絡まれてたんだよね?」
と聞くと
「当然よ!こんな粗暴で品のない奴らなんか相手にするわけないじゃない、あり得ないわ。
なんか気絶してる顔見たらまた腹が立ってきた。もう一撃入れようかしら」
そう言いながら意識を失っている男達に近づいて行ったのでなだめるとなんとか落ち着いてくれた。
「家は近く?遠ければ近くまで送るけど」
とありきたりなセリフを吐く自分に少し感動している。
彼女いない歴=年齢の俺がこんなセリフを言う日が来るとは!
と感動していると意外にも
「じゃあ、お願いするわ。すぐ近くだけど」
とあっさりボディーガードの権利を得ると女性はスタスタと歩き出した。
男達の一人を倒した光景を見ていると自分は要らないのではないかと思ったが、同じ事がもう一度起こらないとも限らないし、女性の後を追う事にする。
他愛のない会話をしながら歩いているとお城の門の近くまで来た。
「ここ、お城だけど・・・?」
と言いかけたら
「いいのよ。ついて来て」
と軽い感じで言われて門の前へと堂々と歩いていく。
いくら何でもマズイだろと止めようとしたら門番をしている衛兵がとても驚いた様子で
「お、王女様ぁぁぁ~~~~~!!」
とその場で泣き崩れた。
は?王女様???
目が点になっていると女性が
「アタシ、この国の王女なの。助けてくれたお礼に食事くらい御馳走してあげる」
ええぇぇぇぇ~~~~~~??
衛兵達と自分を尻目に王女とやらは門の中へ入っていった。




