第十一話
ギルドへ戻り、早速換金所へ向かう。
換金所の男性に
「あの~、魔物の解体と換金をお願いしたいんですけど・・・」
と話しかけると
「おお。で、魔物は?」
と聞かれたのでマジックゲートから回収した亡骸をすべて出すと
「ほぉ、オークか!でも確かお前さん、この前初心者ランクを終えてそんなに日が経ってないだろ。早速パーティーを組んで倒したのか?」
「あ、いえ、運よく1人で倒す事が出来まして・・・」
「それでもスゲェじゃねぇか、運も実力の内だぜ。それに低級とはいえこの数を相手にして更にオークだろ、しかも1人で。いやぁ大したもんだ」
褒められ慣れてない中早く解体してくれんかなぁと思っていると
「おお、解体と換金だったな。この量だったらすぐ終わるから受付の方でで待つか?」
「はい、そうさせてもらいます」
と会話を切り上げて換金所を後にする。
待合所の椅子に座って待っていると受付の女性が
「アイカワさーん、解体と換金が終わりましたー。換金所へお願いしまーす。」
と呼ばれたので換金所へ向かう。
「失礼します」
「おう、解体と換金が終わったぞ。ゴブリンは初心者ランクで説明されたと思うが価値は全くないのでそのまま焼却、キラースワブは尻の中の針、ビックスパイダーは体内で糸を生成する特殊な粘液とそれが入った袋、そして大物のオークは内臓の一部と肉が換金できる!」
「え?肉?食えるんですか?これ」
あっけにとられていると
「何言ってんだ、オークの肉と言えばかなり美味いぞ。知らないのに倒してきたのか?」
「いや、戦いに夢中でそれどころじゃありませんでしたよ」
いや、オークの肉がというより魔物の肉が食べられるなんて考えもしなかっただけなんだが・・・
「なんなら少し持ってくか?泊ってる宿屋はリフルだろ?」
「え?どうしてそれを」
「あそこの夫婦とは長い付き合いでな、お前さんの事も話に出るよ。持って行ってやりな、きっと喜ぶぜ~」
そう言いながらオークの肉の一部と解体費用を差し引いた金額<金貨7枚>を貰った。
おお、金貨7枚も!やっぱり強かっただけあるわぁ、オーク。
でも、リフルの食堂でメニュー表に<オーク肉>なんて表記を見た事無いしなぁと思い出していると
「リフルの食堂にもオーク肉の料理は載ってるぞ?食った事無いのか?」
と言われ、必死に思い出そうとすると
「あと受付で手続きをする時にこの紙を提出してくれ」
と、1枚の紙を渡された。
「なんです?この紙」
「それは、<報償紙>と言って自分のランク以上の強力な魔物を倒したときに発行される証明書だ。
それを受付で出すと倒した魔物の種類や数によっては一気に2つや3つランクアップ出来るっていうシステムがある。
はなっから実力のある奴が手っ取り早く上のランクに行きたい場合は、パーティーを組んで強力な魔物を複数倒し、上のランクに上がるって方法もある」
「へぇ、そんなシステムが・・・」
と言いながら報償紙を見ていると
「まあいいや。受付で完了手続き済ませて、早く肉を持って行ってやりな」
オーク肉を受け取り、マジックゲートに収納、受付で手続きを済ませて報償紙を渡すと
「あ、報償紙ですね。えっと・・・」
と受付の女性が報償紙を確認すると
「おめでとうございまーす。アイカワさん、1つ上のEランクへランクアップです!」
といきなり言われ
「え!?」
と驚いていると
「低級魔物を6体だけならまだしもオークが1体プラスとなるとEランクへ1発昇格になります。
それにしても凄いですね!Fランクの人がいきなりオークを倒してしまうなんて。
もっと腕を磨いて実力を付ければ魔導士や戦士への職業に変更できるかもしれませんね」
なんて受付の女性に言われたが毛頭そんな職業にする気はない。
適当に謙遜してギルドを後にしてリフレに向かう。
リフレに到着し、夫婦にオークを倒せたこと、換金所の男性に肉を分けて貰った事、報償紙が出されて1つ上のランクに上がった事を報告すると
夫婦揃ってすごく喜んでくれた。
「じゃあ、せっかくだから今夜はオーク肉の料理にしましょうかねぇ~」
と奥さんが言いながら立ち上がりキッチンへ向かう。
旦那さんと雑談をしていると奥さんが自分たちの席に料理を運んできてくれた。
「はい、どうぞ~」
出された料理の見た目は明らかにトンカツだった。
旦那さんは
「おお~、美味しそうだな」
と声を上げた。
まさかこちらの世界に来てトンカツが食べられるとは思わなかったなんて思っていると、自分と夫婦2人分の準備が出来たところで
「では、早速いただこう」
と3人で同じタイミングでオークのトンカツを口に入れたら
「美味しい~」
と思わず声が出てしまった。
正直、料理が運ばれてくる前まではオークの元の姿がどこかでチラついていたが、口に入れた途端そんなことは何処かへ吹っ飛んでいた。
あまりの美味しさに夢中で食べ終わると夫婦が微笑ましく自分を見ていた。
「そんなに美味しかった?」
と笑顔で奥さんが聞いてくると
「すいません。あまりの美味しさに思わず夢中で食べてしまいました」
と恥ずかしい気持ちになった。
「はは、まあ恥ずかしがることじゃない。美味しく食べて貰えれば私達も嬉しいよ」
と旦那さんが優しい笑顔で答えてくれた。
食事が終わって皆で一息つくと奥さんが
「お肉が余ったんだけど、どうしようかしら」
と聞かれたので
「じゃあ、差し上げます。このお店で使ってください」
と提案した。
「でもいいのかい?こんな上質な物を」
と旦那さんに言われたが
「いえ、いつもお世話になりっぱなしなのでせめてものお礼をさせて下さい」
と言い、夫婦に感謝され部屋に戻った。
部屋に備え付けの椅子に座るとアイが
「今、いいですか?」
と聞いてきた。
「うん、大丈夫。どうした?」
「今日の依頼書でオークを倒した事で貴方のレベルが上がり、各能力値がアップ。そして新たなスキルが解放できるようになりましたが、今新スキルを選びますか?」
と聞かれたが
「う~ん、今日はいいや。明日起きてからじっくり考えて選ぶよ」
と返した。
正直、今はオークを倒せたこと、ランクが1つ上がった事、リフルの夫婦が喜んでくれた事で心がいっぱいになり新スキルを考えるどころではなかった。
前の世界にいた時にもこんな不思議な気分になる事なんて1度もなかった。
きっとこれが幸せな気分になるって事なんだろうなぁ。
さて、もう寝るか。
今日はいつもよりぐっすり眠れる気がする。
装備をテーブルの上に置きアイにおやすみを言って、この日は眠りについた。




