第九話
翌朝、ランクを受けるにあたり珍しく朝食を食べようとリフルに併設されている食堂に行ってみる。
いつもは晩御飯を食べる時しか食堂へは来ないが朝方はどんな感じなんだろうな・・・と店を経営している夫婦が
「お、珍しいね。朝飯食べてくかい?パンとチーズ位しかないから今回はタダにしとくよ」
と言ってくれたのでお言葉に甘えて頂くことにした。
「そうかい、今日からFランクの依頼を受けるのかい。一番下のランクだから危ない目に遭う事はほとんど無いだろうが、気を付けてな」
と優しい笑みをくれる。
「ありがとうございます。行ってきます」
そう言ってリフルを後にする。
ギルドの建物に到着し、早速依頼が出されている掲示見てみるとランク別に分かれているようでFランクの依頼内容は大概
「魔物が出現する地域で希少な薬草を採取する」
とか
「少数で群れている魔物を討伐してくる」
とかだ。
どの依頼でも似たり寄ったりだが、一番最初に目に入った「魔物が出現する地域で希少な薬草を採取する」にしよう。
文字通りリフルの夫婦が言っていた通り余り危険な依頼ではないみたいだがとは言え少なからず魔物との戦闘になれば命の危険が無いわけではない。
依頼書を受付の女性に渡して、正式に依頼を受注する。
受付の女性に
「今日が初めての依頼受注ですね。気をつけていってらっしゃい」
「ありがとうございます。では」
ギルドの建物を後にして依頼書を見ながら場所の確認をする。
どうやら街から北へ10km程離れた場所らしい。
では早速向かうか。
街の北門から出て指定場所へ向かう途中アイに尋ねてみる。
「ねえアイ、ケインが戦闘ミッションの初日にマジックゲートに魔物の亡骸を収納って言ってたけどどの位で腐敗が進行するの?」
「そうですね、腐敗の進行はマジックゲートの中だとかなり遅くなるので討伐してから2週間程度なら腐敗などは発生しないと思います。
但し正確な情報があるわけではないのでおおよそですが」
との答えだった。
「まあ、そりゃそうだよな。普通なら苦労して討伐した魔物の亡骸をマジックゲートの中とはいえ放置しておくわけないし、街に戻ってきたならすぐギルドで換金するよな」
などとアイと雑談をしながら歩いていると何かの気配を感じた。
一瞬立ち止まり、肉体強化を軽めに発動して耳を澄ましてみると右の方から虫の羽音が聞こえる。
そちらの方へ行ってみるとまるで5歳児の大きさの蜂が2匹集まっている。
「あれは<キラースワブ>です。周囲を魔法で探索したところあの2匹しかいないようですね。危険な魔物ですが戦いますか?」
アイにそう聞かれたので
「そうだね、出来るだけ戦闘は避けたいけど、このまま通り過ぎた後不意打ちを喰らうのも危ないだろうから」
そう言うと軽めに発動していた肉体強化を体全体まで発動した。
気づかれないように近づいてる最中に炎系の使用するか迷ったが、木に燃え移って火事になっても大変かと思ったのでドロドロとした水系の魔法で攻撃してみる事を思いつく。
アイに提案してみようと思ったがキラースワブとの距離が近づいたので奇襲に集中する。
飛んでいるキラースワブにばれないように手をかざし、声を出さず心の中で
「ウォータージェル!!」
と唱えてドロドロした液体を球状にして1体目に放つと見ごとに命中し地面に落下した。
奇襲を受けて慌てたもう1体が尻から大きな針を出してこちらに襲ってきたがひらりと攻撃を避けると再びウォータジェルを命中させて2体目も動きを止めて地面に落下した。
想像通りの流れに満足していたが、いつ魔物が動けるようになるかわからないので今度は雷系の魔法で
「サンダーボルト!!」
と雷を球状に形成したものを1体目、2体目にそれぞれ当ててとどめを刺す。
ウォータージェルで予め体全体が濡れていたせいか雷系の魔法は効果的でキラースワブはすぐに息を引き取った。
アイにキラースワブの希少部位を聞いてみると
「2体目が攻撃してきたときに出してきた針が多少ですが換金出来ます」
と言われたので、まず本当に息を引き取ったか木の枝でつついて慎重に確認した後、尻の部分から針を切り離そうと取り掛かったがかなり苦労した。
装備している短剣で尻の部分を解体していくが初めての解体だったし、魔物でしかも昆虫ときている。
「虫が大嫌いなのをすっかり忘れてた・・・」
そう独り言を呟きなんとかアイの助言を受けながら針を切り落とし、マジックゲートに入れる。
その後、ファイヤーボールで亡骸を焼却して目的地へと向かう。
目的地に到着するとキラースワブの時と同様に軽めの肉体強化を発動し、周囲に気を配りながら依頼書を取り出し辺りを探すと目当ての薬草を見つけた。
記載されている数の薬草採るとマジックゲートに収めてその場を後にする。
ギルドに到着して、換金所に採取した薬草とキラースワブの針を換金してもらうと担当の男性が
「ほう、初日にキラースワブを2体も倒すとはなかなかやるな」
と言ってくれたが
「運が良かっただけです」
と苦笑いを浮かべてその場を乗り切った。
アイの言う通りキラースワブの針はそこまで高くはなかったが、薬草を採取する依頼よりは多少プラスされた。
受付で依頼完了の手続きを終えるとリフルに戻り食堂で注文した料理が到着するまで一息つく。
料理が到着すると持ってきてくれたリフルの夫婦が
「どうだった?初めての依頼は。うまく出来たか?」
と優しい笑みをしながら聞いてくるのでキラースワブを2体倒したことを報告すると
「ほほう!そりゃ凄いな!大したもんじゃないか」
とここでも褒めてくれたが
「運よく倒せただけですよ」
と返しながら少し雑談を交わす。
食事が終わり部屋に戻るとベットに横になりながらふとアイに聞いてみる
「アイ、今日魔物を倒したけどどのくらい倒せばレベルが上がって新しいスキルが解放されるの?」
と聞くと
「仮に今日倒したキラースワブを基準とするとあと10体程倒せば解放されるスキルが選べますし、体も強化されます」
あれをあと10体かぁ・・・ん?体も強化?
「体も強化って例えばどんな?」
「平たく言えば筋力が上がったり肉体強化で魔力を流し込むための耐久力の上限が上がったりです」
RPGで言うところの<ちからがあがる>的なそんな感じかぁ。
「今日の様な戦闘をそつなくこなしていけばある程度のレベルまであっという間に到達できますよ」
アイにはそう言われたが、そつなくこなすと言われてもなぁ・・・
取り敢えずあまり無理せず戦闘を重ねていこう。
ケインにも諭されたが調子に乗って大きなしっぺ返しを喰らうのは御免だ。
そう自分に言い聞かせながら眠りについた。




