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クロイツェル・バレット 掃討の聖約者  作者: 美濃勇侍
第4章 ツーク・ツヴァンク
13/17

4章の2

連載開始から8ヶ月でPV5,081アクセスに達しました。

更新があいかわらず一ヶ月に二回で遅めですが、楽しみにしていただいている方々には、今後ともよろしくお願いしますと申し上げます。


それではどうぞ。

── ローマ── ヴィットリオ・ヴェネト通り アメリカ合衆国大使館


” 緊急時以外の入室・呼び出しを禁ず ” のプレートをドアにつけて用事をいっさいシャットアウトし、公室に引きこもったままの駐伊アメリカ大使は、ヴァチカン市国を非公式訪問していたあいだにローマ教皇庁からつぎつぎと明かされた、彼らが言うところの《真の西欧史》なる物語の内容について、コーヒーをがぶ飲みしつつえんえんと考えていた。


 朝鮮戦争が終わったころからアメリカという国に仕え、キューバ危機やベトナム戦争やあれやこれやのロクでもない騒ぎを、外交という国家のエゴむき出しの、祈りなどトイレットペーパーほどの価値もない、生ぐさい立場から見つづけてきたことで、徹底的な超リアリストの性格を完成させた大使は、ふだんはヴァチカンがあるイタリア駐在大使としての立場から慎重に隠してはいたが、実はとてつもない──リューポルドが知ったら大喜びするほどの──宗教アレルギー、その中でもダントツでキリスト教が嫌いな、アングロ・サクソン系にしては珍しい個性の男だった。


 そんな彼にとってキリスト教というのはもともと、魔女裁判という女性ばかりを狙った計画的な大量殺人をすすんで行ったり、頼みもしないのに大西洋を渡っていって、インカという文明を食後にクッキーを食うような気軽さで滅ぼしたりしてきた血なまぐさい過去を、どういう手を使ったのか上手にごまかして現代までのうのうと生き残り、地球は丸いということもありうるなどと言い出す、時代おくれな酔っぱらいの集まりにしか見えないのだった。

 さらにこの連中はときどき文明の守り手のような顔をして、忠告と称して他国の内政に口を出すという、外交官を最高にイラつかせる習性を持っている。


 今回もなにか、そういうおせっかいを焼くのだろうと見当を付けてヴァチカンに呼ばれていった大使は世にもキテレツな妄想を二日間も聞かされたあげく、合衆国政府に対する ” 要求 ” を突きつけられたのだった。

 いらつきを抑えかねた大使は、冷静になろうとするときのクセで、机のメモ用紙にヴァチカンがとくとくと語った壮大な歴史の真実(スーパーファンタジー)の骨子を個条書きしはじめた。


1、世界には不老不死のモンスター ”獣人” が存在する。それはいわゆる ”狼男” の同類である。

2、ヴァチカンは十六世紀からその存在を知っていた。

3、ヴァチカンは獣人を悪魔と断定し、獣人を滅ぼすための特殊な組織を作った。

4、二十一世紀のいま現在も、ローマ教皇庁と獣人たちは完全な戦争状態にある。

5、獣人の親玉はアメリカ合衆国に潜んでいる。

6、ヴァチカンは獣人の親玉の居どころが判明しだい、討伐チームを合衆国に


” 合衆国に ” まで書いたところで大使は「くたばりやがれ(ジーザス・ファック)!」と叫びながら、ペンを部屋のすみに向かっておもいきり投げ捨てた。


──まったくふざけとる。こんなバカバカしい話が現実なものか。ヴァチカンが四百年間も隠しつづけた、数百人にもなる狼男バスターズを合衆国に送り込むから、大統領に許可を取れだと!?

 

 そこでまた大使の視線は、机の上のあるものに吸い寄せられた。

 ヴァチカン市国からの去りぎわにピエトロと名乗る枢機卿から渡された、二センチもの厚さにふくらんだ、イヤでも目を引く赤い封筒。その消防車のような色が ”俺が中に秘めた闇をのぞけ、そして認めろ。これがおまえの大好きな現実だ” と語ってくるようで、気味が悪かった。


 おそるおそる手を伸ばした大使は封筒の閉じぶたを開くと、中から一枚のゼロックスコピーを引っぱり出した。いま彼はむしょうにタバコが吸いたかった。禁煙に成功して六年になるが、ここでタバコをおもいきり吸えたら、どれだけ気が休まるだろう。

 だが、大使がやっと手にした書類はなぜかラテン語で書かれていた。ラテン語をすっかり忘れて久しい大使はイラつきを激しくあおられて、思わず彼の指はなんの考えもなく、机の上のインターホンのボタンを押した。


《はい、大使。ご用ですか?》コールに答えた若い男の声が、スピーカーから返ってきた。

「グリフィン。悪いが、私の部屋へ来てもらえるか?」

《わかりました。すぐ行きます》

 ほんの十秒もたたずにノックの音がしたあと、呼ばれてきた男がドアから顔をのぞかせた。

「お待たせしました、大使」

「すまんな。ところでグリフィン、きみはたしかラテン語を読めるんだったな?」

「ラテン語?はあ、読めますよ。といって、大学を出てから役に立ったことはないですが」

「ならいま役立ててくれ。ここにある、ラテン語で書かれた書類を英訳してほしいのだ。私はもうラテン語なんぞ忘れてしまって、まったく読めん」大使は赤い封筒に向かって、つまらなそうに手を振って見せた。


「それが機密書類なら、私の機密資格で関わっていいものでしょうか?」

 若い部下のまっとうな質問に、聞かれた大使は少し考えた。言われてみればこれは ”超” がつくほどの機密書類なのだろうが、それはヴァチカン内部だけのことだし、方法はどうあれ読めと渡されたのだから読むだけのことだ。それに、万が一これがリークしたところで、こんなマンガじみた話をマジメに追求するものなどいるはずがない。


「かまわん。これは合衆国政府の書類ではなくヴァチカン内部の書類だから、機密関与資格は問題ないが、作業はきみ一人でやってくれ。だが内容に関してはまあ、きみの意表をつくかもしれんがね」

 ヴァチカンと聞いたグリフィンのまなざしが一瞬、ピクリと細まった。「はあ、ヴァチカンですか。ま、大使がそうおっしゃるならいいですよ。いつまでに欲しいですか?」

「できるだけ早く頼む」


 赤い封筒のままでは目立ちすぎるというので、大使の部屋にあったふつうの封筒に書類を入れなおして持ち出したグリフィンは、ノートパソコンとコーヒーポットをかかえて大使館内の個室にこもり、問題の書類を読みはじめて数分のうちに、これはヴァチカンのクソどものシッポを捕まえるチャンスかもしれんと思い始めた。


 アメリカ国務省イタリア駐在書記官の身分と、二十代後半の外見を持った獣人グリフィンは、リューポルドに仕える第一の側近、シモンズ・ウェイバーンから、アメリカ政府組織に浸透しているすべての獣人にむけて出された 《ヴァチカンの犬、ゲヘナの本拠地に関する情報を探れ》 という命令を思い出し、これほど早くチャンスがめぐってきたことに、心中ひそかに狂喜していた。


 これだけたくさんの資料をあっさり渡すということは、ヴァチカンが、合衆国政府が事実上、獣人に乗っ取られているなどとは疑ってもいないことを意味する。これだけたくさんの書類の中には、シモンズが求めるものの手がかりぐらいはあるかもしれない。それを探り出せればきっと、最 初 の 一 人(プリモ・オプティマス)であるわれらが王、リューポルド様から大きな見返りがあるにちがいない。

 大使から頼まれた仕事の英訳もこなしながらグリフィンは、欲しい情報の影を探しもとめて、書類の一字一句に没頭していった。



── フランス共和国 ── パリ郊外 シャルル・ド・ゴール国際空港


 出発ロビーでなにか困ったこと──おもに迷い子──になっている乗客を助けるためのヘルパーとして空港に勤める、ある女性職員の目が、背かっこうに比べて大きすぎるキャリーバッグを、いささか苦労して引っぱりながらやってきた、十代前半のような少年の上にとまった。


どこへ行くのか知らないけど、あの歳で一人で飛行機に乗るなんて、なかなか勇気のある子ね。


 そう思った彼女は、チケットを取り出してまわりをキョロキョロ見回している少年に近付いていくと、彼の目線に合わせてかがみ、にこやかに声をかける。

こんにちは(ボンジュール)。ねえぼく、なにかお手伝いしましょうか?」

「ありがとう、お姉さん。ぼくこの飛行機に乗るんだけど、どこへ行ったらいいの?」声をかけられた少年は、ほっと安心した感じの表情で答えると、職員に見てもらおうとチケットを差しだす。それを受け取った彼女は、そこに書かれている少年の名前と出発便を見ると、うん、とうなずいてから言った。

「エールフランスのゲートまで案内するわね。ねえエドモンくん。一人でアメリカまで行くなんて、すごいのね」

「ありがとう。ぼく、アメリカにいるおじいちゃんに会いに行くんだよ。ところでお姉さん、すごくきれいだね」

「あら、ありがとう。エドモンくんも楽しい旅行になるといい……わね……」

 年に似合わぬこのお世辞を、笑って受け流そうとした彼女は、少年の真っ赤な瞳に目を合わせた瞬間、強力きわまる催眠洗脳力を持った邪眼に、意識と自我のすべてをこなごなに吹き飛ばされた。


 大人が右へ左へうろうろと歩き回り、混雑するコンコースのまんなかで一瞬、棒立ちになったあと、邪眼の奴隷と化した彼女は、少年の前に片ひざをつき、潤んだ瞳でセクシーに言った。

「行ってらっしゃいませ、エドモン様……お早いお帰りを、お待ちいたしますわ」

「うん、ありがとう。お姉さん、名前はなんて言うの?」

「ソフィーと申します、エドモン様」

「そっか。じゃあ、ぼくをちゃんとゲートまで案内してね?ソフィー」

 紅い魔眼から青くもどった瞳に少し淫らな笑みを浮かべた少年は、たしなめるように言った。

「あぁっ……申し訳ございません、エドモン様。こちらでございます……」

 すれちがう男たちがひとり残らずハッとするような色気をまき散らすフランス美女に案内されながら、シモンズを筆頭とする獣の軍団(レギオン)の五人の中心人物のうちの一人、ゲヘナ壊滅の命を受けた獣人エドモン・ヴォレは、アメリカに向けヨーロッパを発った。

シモンズに続く獣の軍団(レギオン)の中心人物、エドモン・ヴォレの登場でした。


次の更新は12月前半です。ポイントのみ評価、感想、レビュー、お気に入り、どれでも、お気軽にお願いします。ご一読いただき、ありがとうございました。


12/29追記 PCの故障で更新が遅れています。やっとウェブにつながるまで再構築できたので、次話はこれから書き直します。なる早で更新できるようにしますので、いましばらくお待ちください。

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