第73話 計画は完璧
状況の説明については、念話を送れば済むだけの話である。
しかし、ディールは全員で捕まっていても仕方がないと思い、エマだけを拠点の宿に帰す事にした。
本人は納得いかない様子だったが。アル無しの彼女では万が一襲われても、相手がホムンクルス兵であれば倒す事はできない。
その為ディールは、諜報活動をする必要性が無くなった以上、彼女を宿に帰した方がそちらの戦力も厚くなり良いと考えたのだ。
勿論、作戦決行時に手引きしてもらえば済む話でもあったが。ディールは、このまま捕まっていた方が面倒が無いとも考えていた。
エマに対しては拠点の宿に着き次第、マギに連絡を寄越させるよう言って帰していた。
「一応、拘留中という設定ですので、非常に心苦しくは思いますが。お二人とも作戦決行までの間は、牢に入っていてもらう事になります」
「ああ、食事さえちゃんとしてもらえるなら、別に構わないぞ」
「豪華な食事にて、歓待するというわけにはいきませんが。囚人のそれとは違う物を用意させるよう、努力はいたします」
「まぁ一応、期待しとくわ」
ディールがカヴァデルに対してそう端的に返事をすると、ちょうどエマから連絡するように言われたマギが念話を送ってくる。
『ディール様! エマ教官から何となくは聞きましたけど、取り敢えず潜入自体は成功した感じなんですね?』
ディールの魔道具による念話の欠点は、受ける側は頭に直接声が響くものの、相手に送る時は声を出さなければならないところにあった。
勿論ノナとの間では、魔道具なしに直接念話にてやり取りできる為その限りではなかったが。
一応、念のため人払いをしてから話しを始めるディール。
「ああ、マギか。そんでいきなりだけど、今回お前に大事な役目を与えようと思ってな」
ディールから大事な役目をもらえると聞いて、念話の向こうで色めき立つマギ。
彼は、喜びを表しつつも自分達が仕入れて来た情報についても話す。
『俺に重要な役割ですか? 上手くやれたら俺の事、正式に騎士として取り立ててもらえますかね?』
「ああ、上手くやってくれたらな。てか、俺の気持ち的には、お前はとっくに騎士って事になってたけどな。ちゃんと正式に叙任式でもやんなきゃ、やっぱり納得いかなかったか?」
『そりゃ、そうしてもらえると嬉しいし、そうでないと俺が勝手に言ってるだけみたいな感じになっちゃいますよね? でも、ディール様の中では既に騎士だったって聞けて、めちゃめちゃ嬉しいですけど! そんで、こっちも報告したい事が有るんですが……』
マギの報告によると、ディールにとって完全に都合の良い展開になっているようだった。
実はディールとしては、王女救出の実行役をマギに任せようと思っており。自身は、カバー役を買って出るつもりであった。
マギ達が得た情報と、ディールが白き聖女の剣から得た情報の共通する点は、ヴァイセリーナが王宮に大勢の冒険者を集めるという部分である。
その目的はヴィルヘルムの遺体、若しくは遺留品を何としてでも見つけ出すという事にあった。
即位を無理やりさせられたとはいえ、まだ幼い娘の心情としては、父が確実に亡くなったという確証が得られるまで国葬だけはしたくない。という考えを頑なに持っていたからだ。
また彼女は「ひょっとしたら実は父が生きていた」という事にはならないだろうか? そんな希望も持っていた。
その為、実はまだヴィルヘルムの葬儀は行われてはいなかったのである。
白き聖女の剣が立てていた作戦の内容は、以下のとおりである。
集められた冒険者達の中に狼藉者が混じっていた為、女王は襲われてしまう。当日、謁見の間を警備する担当は、聖女の剣に所属する部隊だけだ。
女王は、ある兵士の娘と入れ替わり狼藉者共に連れ去られてしまう。偽女王を人質に、王宮の外へ出ようとする誘拐犯達。その混乱に乗じて、騎士の格好に扮した本物の女王を安全な場所に連れ出す。といったものだった。
実行役は確実に死ぬだろう。また、この作戦が成功するか否かは、その実行役が如何に長く生き残れるかにも懸かっている。
当然、警備に失敗した聖女の剣メンバー達も、後ほど厳罰を受ける事になるのは確実だ。
即ち、ヴァイセリーナただ一人を救い出す為に、多大な犠牲を払う必要のある作戦なのである。
とはいえ、聖女の剣に所属する者達の中に、彼女の為に命を惜しむ者など一人もいなかった。
ディールの考えた配役は次の通りである。
彼本人は謁見の間を警備する衛兵の役。狼藉者として女王を誘拐するのは、ヴィルヘルムも含めたジャン、マギ、エマの四人である。
偽の女王として入れ替わるのは、アルがその役目を担う。その為、却って一緒の方が安全だと判断したので、ヴィルヘルムも作戦に参加する事となったわけだ。
他に陽動役として、王宮内で暴れまわるのを担当するのはノナである。
必要に応じては、魔王やその部下を倒してしまう事も視野に入れていた。
後は、マギ達をどう冒険者に紛れさせるかが問題であるが。そこでお爺ちゃんと孫は良い仕事をしていた。
二人は、酒場で会った冒険者パーティーから、ギルドで受け取った紹介状を譲り受けていたのだ。
多くの冒険者達がその召集に対して、多額の報酬目当てに飛び付きはしたが。紹介状を受け取っても、参加を見合わせる者は後を絶たなかった。
勘の良い冒険者達は、その依頼に対して何かしら嫌な予感がしていたのだろう。
「それは上々だ! 一々、方法を考える必要が無くなったからな」
『はい。王宮に潜入できる方法が有るなら、どんな事でも活用しなきゃって思って。冒険者達が迷ってるみたいだったから、ダメ元で訊いてみたんです!』
思った以上に仕事ができるマギに対して、感心するディール。
しかし、冒険者達の謁見が行われる日が三日後と迫っているのも相まって、彼は全ての歯車が噛み合っている事にむしろ多少の不安を覚える。
「ひょっとしたら罠かも知れないな……」
「恐らくその可能性は高いの。しかし、我らにとってそんな事は大した問題では無かろう?」
ノナは、そう言ってディールの考えを的確に表すのだった。




