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第39話 新国王の誕生



 適当なローブを身に纏った王女を連れ帰還したディールは、王都が完全に無人となっている事を兄達に報告する。

 ティナ王女の無事を喜び合うのも束の間。取り敢えず占領したと言う事実を優先する為に、詳しい話は後にする事とし、反抗軍は意気揚々と王都への入城を開始した。

 市内に広がる凄惨な光景を目にし、愕然とする兵士達。

 彼らは当然の事ながら、解放された市民達からの歓迎を受ける事を期待していた。

 しかし、この予想だにしなかった地獄絵図に、殆んどの者達が空虚を感じざるを得なかった。


 早々に、無数に転がる死体の処理が開始されるのと同時に、軍上層部の人間達によって緊急の会議が執り行われる事となる。

 まず始めに、総大将であるレイチェルから、ディールに対して王女の件に関する説明が求められた。


「完全に無人となっていた王宮に、何故ティナ王女が一人だけで取り残されていたのだ? 発見した状況についての説明をしてもらおうか?」


 これから、将軍達の前で辱しめを受ける事を覚悟し、悲しげな表情をしながら俯くティナ。

 そんな彼女の心情を察したディールは、事実をねじ曲げて報告する。


「どういうわけかは俺にもわからんが、王宮の地下牢に王女殿下だけが一人で閉じ込められていたのさ。伏兵が居ないかを確認に行った事で、発見に至ったというわけだ。さしずめ、殿下を牢に閉じ込めていた状態で、その事を忘れたまま撤退してしまったとでも言ったところじゃないのか?」


 ディールの報告を受け、すぐに王女に対し謝罪を行うレイチェル。


「なるほど、そうでしたか……王女殿下におかれましては、さぞやお辛い時をお過ごしになられていたとお察し致します。殿下が囚われている事を存じていなかったとは言え、救出が遅くなってしまい、我が不徳の致すところにございます」


 事実とは違うディールの説明に、困惑するティナではあったが。彼女は、その計らいに感謝して話を合わせる事にした。


「い、いえ……そのような事はごさいません! 横暴な召喚者達から王都を解放してくれた其方達には、感謝してもしきれません」

「もったいなきお言葉、誠に感極まります」


 正直なところレイチェルとしては、王族の生き残りが存在していたという事実に不都合を感じていた。

 彼女の存在が無ければ、第一の功労者は自分であり無条件に玉座が転がり込んでくる筈だったからだ。

 しかも、目の前の王女は、かつて勇者の称号を与えられていた弟の元婚約者。

 その事から考えても、元サヤに戻った挙げ句に、弟であるディールを新国王にするとでも言いかねない状況なのだ。


 あれこれと考えるレイチェルであったが、彼の心配は取り越し苦労に終わる事となる。


「私に対して、そのような言葉使いは、もはや不要です」


 そう前置きしたうえで、唐突に今後の身の振り方について語りだすティナ。


「私はもはや、王族でいる事を良しと考えてはおりません! 一度は召喚者達に、その座を追われた身でもあり、そんな横暴な彼らを召喚してしまった一族としての責任もあります! ですので、私としては王女の地位を棄て出家し、これからは残りの人生を、この一連の事により亡くなった人々の弔いに当てたいと考えているのです」


 自分にとって都合の良い展開となり、ほくそ笑むレイチェル。しかし、建前上は簡単に了承するわけにもいかず。王女に考え直すよう懇願してみせる。


「何をおっしゃいますか王女殿下! 殿下がご無事であった以上はこの私も、王家に対する臣下としての役目を果たす所存にございます! サマルキア王国再興の為に、どうかそのようなお考えはなさらないで下さい!」


 レイチェルにそうは言われたものの、ティナはもはや自身が王族である事でさえ恐れていた。


 一度は、首を飛ばされたという事実。

 それに加え、不滅と言われる醜悪な肉塊と、自身の頭部を接合させられていたという思い出したくもない記憶。


 全て夢であって欲しい。


 そう思いたくなるような、あのおぞましい体験の数々は、つい先程まて彼女の身に現実に起きていた事なのである。


 ティナは思う。

 今この場に、こうして居られているだけでも奇跡であるという事。

 それに加え、この先も王族で有り続ける事を選択するというのは、再びあのような目に遭わないとも限らないのだという事を。

 そして、何よりも先ほど自分で言っていたように、横暴な異世界人達を召喚してしまった王家の人間としての責任を感じた事と、懺悔の気持ちでいっぱいだった事に嘘偽りはなかったのだ。


 この期に及んで、ようやく王家の人間としての責任感に目覚めたティナは命ずる。


「ヴァーニア侯爵家長男レイチェルよ! 不在の父に代わり国王の代行者として其方に命じます! 王都解放の第一功労者である其方に王の座を譲りますので、これからはヴァーニア家が王家として、この国の民を守り続けると誓ってください!」


 予想だにしなかった、玉座を譲位すると言う王女の申し出に対し、歓喜の表情を浮かべそうになるレイチェル。

 彼は、何とかそれを押さえ込み、畏まりながら片膝を付きその申し出を受ける。


「ははっ! 王女殿下の仰せと有らば、このレイチェル・ヴァーニア。身命を賭して、そのお役目を仰せつかります!」


 王女の命令と言う事もあり、その場に居合わせた諸侯達の中で異議を唱える者は誰一人として現れなかった。

 そもそも、王家は完全に滅亡したものとして諸侯達の間でも受け取られていた。

 その為、この討伐軍を指揮するヴァーニア侯爵家の長男が新国王の座に就く事は、彼らの間でも暗黙の了解となっていたのだ。


 多くの諸侯が集まる中すぐに戴冠式は行われ、レイチェルは五百年続いたサマルキア王国の王位を継承した。

 早速、国中に布令が出される中で、ディールは自領であるグリーラッドへと帰路に就くのであった。

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