第3話 俺の愛銃はチート兵器
ディールが向かった先の部屋には、長兄のレイチェルと父のスコットが待ち構えていた。
彼が入室するなり、いきなり長兄のレイチェルが罵声を浴びせる。
「このヴァーニア家の面汚しが! 勇者の称号を剥奪された挙げ句に、辺境の地へと転封だと? 我が一族の輝かしい未来が、全てふいになってしまったではないか!」
いきなりそんな事を言う長男に対し、父のスコットは顔をしかめて叱責する。
「レイチェルよ! お前にそのような事を言う資格など有るまい! まだ、正式に当主となったわけではないのだからな! それに、今まで散々、弟のお陰で甘い汁を啜ってきたのではないのか? これまで一族の為に頑張ってきた弟に対し労いの言葉もかけられないとは、我が息子ながら情けない……」
「し、しかし、父上……」
「もう良い! お前は下がれ!」
父に叱責されたレイチェルは、ドアを勢いよく閉め部屋を出ていく。
二人きりになったところで、ようやく父は穏やかな表情になり、ディールに対し話し始めた。
「よく帰ってきたなディール! 此度はあの気まぐれな王に振り回された挙げ句、散々であったな」
「父上、ご期待に添えず申し訳ありません……」
「何を言うのかディールよ! お前はこれまでよくやってきた。それにこれからも、お前程の力が有れば、例え辺境の地へと追いやられたとしても必ず再起できると父は信じておるのだ!」
「ありがとうございます父上! グリーラッドは何も無い地ですが、領地として頂いたからには開発に専念して、かの地を豊かな土地にしてみたいと考えております」
「そうか、その意気だぞディール! ところでお前、聖剣はどうしたのだ?」
父が言う聖剣とは、樹海文書を発見した時と同様に樹海を探索していたディールが、山程もある巨大な大樹の近くに有った洞窟で見つけた剣である。彼が、王から所有する事を唯一認められていた物でもあった。
「聖剣は王の命で返納させられました……」
王宮を立ち去ってしばらく行ったところで、近衛兵達が慌てて彼の後を追ってきていた。
その際に彼らから王命だと言われ、聖剣を返納するよう促されたディールは、素直に剣を渡してしまっていたのだ。
「何と強欲な事よ! 散々お前の事をこき使っておきながら、なんたる仕打ちの数々!」
「父上、王に対しての悪口はお控えください。誰に聞かれているとも限りません」
「しかしな! 何とも悔しくて私は堪らんのだ!」
そんな感じで父だけは、ディールが幼い頃から彼の味方をしてくれていた。その事もあり、彼は今まで実家の為と思い、王の我が儘を文句一つ言わずに聞いてきたのだ。
「聖剣など無くとも、俺は無敵です! しかし、何も武器が無いというのも寂しいので、一つお願いが有るのですが……」
「願いとは何だ? ディールよ」
「確か宝物庫にしまっておいてもらったはずですが、そこに俺が幼い頃に作った銃が有るはずです! それを持ち出したいのですが、よろしいでしょうか?」
「ジュウ? 何であるかそれは。まぁ、お前が作って置いてある物だと言うのなら、何も遠慮など要らん。持って行くが良い。当座の資金として、何なら金もいくらか持って行っても構わんぞ?」
そう言ってスコットは腰を上げ、ディールに対し一緒に宝物庫へ向かうよう促す。
宝物庫に向かう途中の廊下で母のメリッサに会うも、彼女はディールの顔を見るなり複雑そうな表情を向けるだけで、何も言わずに一礼だけして何処かへと去って行ってしまった。
「久しぶりに息子が帰って来たと言うのに、何の言葉もかけてやらんとは……」
スコットはそう言ちるも、ディールは昔に戻っただけだと思い気にはしていなかった。
母のメリッサは、異常なまでに体裁を気にする女性である。
ディールが幼い頃、彼女は実の母でありながら、得たいの知れぬ力を示す息子を気味悪がっていた。
しかし、彼が王に気に入られたと聞いた途端、手のひらを返すように、彼を褒め称えるようになっていた。
そんな母に対し、ディールは却って気持ちが悪いとさえ感じていたのだが。称号を剥奪されたと聞いてあの態度である。むしろ、彼からしてみれば予想通りの反応に安心すらしていた。
宝物庫に到着すると、部屋の中にある棚をスコット立ち会いのもと探し始めるディール。
「有りました父上! これがそうです!」
そう叫んだディールの手には、漆黒の、銃身が肘から下程の長さがあるオートマチックガンが握られていた。
目の前の棚には、もう一挺の銃が置かれている。
「それがジュウなる物か。確かに昔お前に言われて、ここに置きに来た記憶が微かに有るな。それで、そのような物が、聖剣に代わる程の武器となると言うのか?」
「ええ、父上! あんな神剣もどきの剣なんかより、こっちの方がずっと強力な武器ですよ!」
「ほう! まぁ、流石に聖剣より強力だと聞いても俄には信じがたいが。お前が幼き日に作った物であれば、さぞかし強力な武器なのであろう」
ディールは幼い頃から、何故か様々な物を作製する事が出来た。
その理由は彼の持つ、あるスキルによるものだったのだが。召喚者でもなければ本来、スキル表示など出来ないはずであるが故に、彼は一度も他人に自身のステータスを見せる事などなかった。
因みに冒険者で有れば、登録の際に鑑定魔法を使った測定が行われ、魔力と身体能力のみが表示されるステータスプレートが発行される。
しかし、そこにスキルや特殊能力までが表示される事はない。
そして、棚に置かれていた銃の特筆すべき点は、レールガンだという事にあった。
ディールの持つある力は、強力な電流を発生させる事ができる。また、彼の持つあるスキルによって精製された金属は、その仕組みに耐えられる物であった。
どのみちこの銃も、ディールにとっては玩具みたいな物であったが。いくら丸腰では格好がつかないからと言っても、その辺のナマクラ剣を持って行くよりも遥かに強力な武器である事には間違いない。
そう思い、彼はこのレールガンを持ち出す事にしたのだ。
目的の物を手にしたディールは、父のスコットにすぐ出立する旨を伝える。
「一晩くらい泊まっていけば良かろうに……」
「いえ、父上! 俺が長居しては、兄上達が気分を害されるだけでしょうし、これにて俺は失礼いたします」
「うむ、わかった……では、達者でな! もし、何か困った事でもあれば、いつでも戻って来るがよい!」
城門の外まで見送ってくれた父に挨拶を済ませたディールは、グリーラッドへと向かう為に再び一人歩き出す。
「ディール様、もう旅立たれてしまわれるのですか?」
領民達は、次々とディールに対し声をかけていたが。そんな彼らに対し、彼はただ作り笑いを浮かべながら軽く手をふって応じるだけであった。
侯爵家の領地を出た直後の森で、ディールは背後に強い殺気を感じる。彼は振り返り様、二挺の銃に手をかけ言う。
「ケラウノス、アイギス、今日からまた頼むぜ!」
ディールは、大腿部に装着した専用のホルスターから二挺の銃を抜き、前方に向け構えた。
彼が銃を向けた先には、フードを深く被り顔を隠した怪しげな人物が立っていたのだ。