第233話 二番艦ガルーダ
アルフカンド王に引き渡された飛空艇の名は、ガルーダ、もしくはロックバードであった。
ディールは、引き渡しが急となった為に、どちらの名前にするのかを決めかねていたようだ。
どちらか気に入った方。または、どちらも気に入らなければ好きな名前をつければ良い。と主から言われていた事を、そのまま伝えるヴィラ。
国王は「どちらも良い名だ」と両方を称賛し、悩んだ結果ガルーダの方を選択した。
ヘスペリデスと同様、竜のデザインを期待していた国王だったが。ヴィラの口から、どうして主が巨鳥を模したのかについての理由を聞き、彼はグリーラッドの公王が見せた気遣いに対して非常に感激した。
その理由とは、アルフカンド王国のシンボルが鷲であったからである。
また、ガルーダの名を選択した理由も、それに関係しており。竜をも補食する神鳥の名から取ったという話を聞き、国王は大層気に入ったようである。
ディールは、相手国をさりげなく立てた訳だが。アルフカンド王は、そんな彼の自国に対する敬意をしっかりと感じたようだ。
実際には、かなりダウングレードされた性能なのだが。表面的にだけでも取り繕う事で、それを相手に感じさせないように工夫していた。
次にヴィラは、飛空艇の製作期間についての説明をする。
こんな物が簡単に短期間で作れると思われては困るからだ。
勿論、完全なる嘘な訳だが。説明の内容としては、一番艦と同時に複数の艦を製作しており。完成間近だった二番艦が、たまたま巨鳥を模して作られていた為に、それを引き渡す事になったという説明をした。
その後、数名の宮廷魔術師を加え、実際に飛行をしながら操作方法の説明を始めるヴィラ。
彼女から武装についての説明受けた国王は、更に驚愕する。
「なんと! 砲塔が全部で100基も有るのか?」
「ええ。横方向に設置された空対空砲だけでも30基。全方位に向けられた砲塔や機銃は100を数えます。また、主砲である50センチ砲の威力は、山をも砕く威力です」
そう聞いて、どうしても主砲の威力をその目で確かめたいと思った国王は問う。
「弾薬は当然、積んではいないのだろうな?」
「いえ、主砲分の弾薬だけは、数回分デモンストレーション用にと積んであるそうですわ。何処か試し撃ちをしても良さそうな場所はございますかしら?」
撃てると聞いて色めき立つ国王。
彼は早速、ヴィラに対して軍が砲撃の訓練に使っている場所を指し示す。
「あの場所なら、砲撃訓練の場所として立ち入り禁止区域になっておる」
国王に指定された方向に、船首を向けるヴィラ。
砲塔へと向かわない事に訝しげな顔をする王だったが。主砲に関しては、操縦席の操作パネルから遠隔で発射する事ができるようだった。
一発の砲弾が、王宮から40キロ程離れた指定の場所に向かって放たれる。
数十秒後。王が指し示した、いくつかの小高い山が連なる場所に砲弾は到達し、小山の一つの山頂付近が激しく吹き飛んだ。
その射程距離と破壊力に、感嘆の声をあげる国王とジークフリード。
宮廷魔術師達も次々と声をあげ、操作室内は騒然となった。
撃ったヴィラ自身も、思った以上のオーバースペックぶりに驚いた様子だ。
ガルーダを再びエアポートに着陸させると、国王から二人を歓待したいとの申し出がある。
しかし、すぐに戻ってくるように言われていたいた二人は、その申し出を固辞する。
残念そうにする国王だったが。本当に急いでる感を出す二人の様子に、仕方なく引き下がった。
全ての説明も終え、早く帰らなければならない旨も王に対して伝えたので、ヴィラはエアポートに降りたって早々に支払いの件に関して切り出す。
それに対してアルフカンド国王は、かなり気まずそうにしながら、用意させた代金が置かれている台の布を外して言う。
「実は、こんなにも早く引き渡しがあるとは思っておらんかったので、まだ全額は用意できておらぬのだ。ここに有るのは半分の四億Gだけなので、取りあえず半分だけ払って、残りは後日届けさせるという形でも構わないであろうか?」
ある程度シミュレーションしていたとおりの事を言われ、ヴィラはそれに対する答えを、主の言葉としてアルフカンド王に伝える。
「急な引き渡しである以上、我が主もそうなる事を想定しておりました。その為、今回は半額以上ご用意いただけているのであれば、全ての支払額はその用意できていた分の金額で構わないとの事でした。今後も両国の友好関係を築いていける事が、条件だとも申しておりましてが」
流石に半額でも良いと言われ「はい、そうですか」では面子が保たれない国王は、あくまでも全額支払う事に固執する。
このままではなかなか帰路に就けないうえに、当然そうなる事もシミュレーション済みだったヴィラは、仕方がないとばかりに言う。
「では、こう致しましょう。陛下のお言葉は帰り次第、私の方から主の方に伝えますので、この場はその証文だけサインを頂くという形で。船の引き渡しの件に関しては、完了という事でよろしいでしょうか?」
一応、面子も保たれた国王は、その内容で納得する。
ヴィラは、残りの金額は後日支払う事を記した文書をその場で作成し、飛空艇の引き渡し証と共に国王のサインをもらった。
こうしてようやくノナとヴィラは解放され、グリーラッドへの帰路に就く事になるのであった。




