第224話 無茶な事を言わないでよ!
これから晩餐会が始まろうという時。国王の到着を待つ間に、一応確認を取ろうと考えたディールは、ソニアに対し飛空艇の建造に関する話をしていた。
「という訳でアルフカンド王にも、お前の設計した飛空艇を作ってやっても構わないだろ? これから食客として養ってやる代金だ」
「養ってもらう代金にしては、かなり高くついたわね。まぁ、私としては別に構わないんだけど」
仮に難色を示したところで、強引に話を進めるつもりだったディールだが。彼は、意外にもあっさりとソニアの了承を得られた事で、少し肩透かしを食らった気分になる。
そんな二人の会話に少し怪訝そうにしながらも、今度はディールの向かい側に座っていたイザベラが話に割って入ってきた。
「ディール教授って、サマルキアの勇者だったんですね! その事をお兄様から聞いて、すごく驚きましたよ! しかも、今はあのポーションで有名になったグリーラッド地方を公国として独立させ、その国の王となられていらっしゃるんですってね?」
「ああ、確かにそうだが。あまり学園でその事を触れ回らないでもらえるか? 面倒な事になるのは、ごめんだからな」
「ええ。ディール教授がそうおっしゃるのなら、その事に関しては誰にも話さないと約束しますわ」
流石は親子とでも言うべきか。国王と同じような感じでそう言って約束をするイザベラ。
その事でディールは、瞬間的に彼女がその言葉を守るようなら、きっと王も約束を守るだろうと考える。
どのみち二人が、仮に誰かに話してしまったところで、それほど大事になる訳でもないのだが。実際に何かと面倒な話になるのも確かだ。
その為ディールの気持ちとしては、なるべくなら約束を違えないでもらいたいところであった。
「俺は、お前の父上の事が好きだ。だから、これから少しずつ信頼関係を築いていきたいとも思っている。その事を、父上にも良く伝えておいてくれるか?」
自分の父に雰囲気が似ているアルフカンド王に対し、実際に好意を寄せ、これから信頼関係を築いていきたいと考えていたディール。
彼としては、その気持ちを裏切られたくないという考えの元、王女を介して釘を刺すつもりでそう言った訳だが。イザベラはそんな彼の言葉を、少し誤解して受け取ってしまったようだ。
「まあ! 私のお父様を、そんなに慕ってくださっているのですね! とても嬉しく思いますわ! これからもっと両家が親密に付き合っていけるよう、私の方からお父様にも伝えておきますわね!」
本当に嬉しさを爆発させた様子で、そう返事をするイザベラ。
少しだけ嫌な予感はしつつも、ディールはそれ以上余計な事を言うのは避けようと考える。
旦那様を挟んでソニアと反対側に座るアルは、そんな彼に対してジト目を向けていた。
遅れてやってきた国王が、会場に到着するなり乾杯の挨拶をする。
「本日は遠いところを、よくおいでくださった。グリーラッド公の奥方には、娘の命を救ってもらったばかりか。ホムンクルスの件でも、優秀な司祭を送ってもらい大変世話になったな。本日はその礼も兼ねて、ささやかながら宴の用意を設けさせてもらった。それでは、今後も両国の益々の発展を祈って。乾杯!」
国王が乾杯の挨拶を終えると、給仕によって次々と料理が運び込まれてくる。
食いしん坊のアルは、アルフカンドの贅を尽くした宮廷料理に大変ご満悦の様子だ。
そんな妻の喜ぶ様子を、ディールは微笑ましく見守っていた。
其々が料理に舌鼓を打つ中、国王は満足そうな表情をしながら唐突にソニアに対して話しかける。
「ソニアと申したかな? そなたが、あの飛空艇の動力を考案しデザインを担当したとか。誠に度肝を抜かれるほと見事なものであるな」
国王からそう褒められたソニアは、満更でもない様子で答える。
「お褒めにあずかり光栄ですわ、国王陛下。今までの物は、魔力の流れを直接使って動力としていましたが……」
褒められた事がよほど嬉しかったようで、得意げに仕組みについて語り出すソニア。
国王は、その話を食い入るように聞いていた。
特に彼は、コストの面で優れている部分に関して興味を示したようで、熱心に学園の才女に対して質問を繰り返していた。
晩餐会も終わり、ディールは自室には戻らずに、ソニアを伴ってバラクの部屋へと向かう。
変なことをする訳ではないのはわかっていても、心配したアルは強引に二人の後をついていった。
バラクの部屋に着くと、すぐに今後の予定についての話し合いの場が持たれる。
「ソニア。今でもまだ、魔王とのやり取りはしているのか?」
ディールの質問に対して、ソニアは顔を青ざめさせながら答える。
「まさか! そんな恐ろしい事できる訳ないじゃない」
「じゃあ、魔王の奴に連絡しといてくれ! サマルキアの元勇者ディールが、話し合いをしにそちらに向かうってな」
「いやだから、あなたちゃんと話を聞いていたの? 私、アスモデウス様の事を裏切った身なのよ? それなのに、何て報告したら良いって言うのよ!」
目に涙を浮かべながらそう言うソニアに対して、ディールはやれやれといった感じで彼女が納得できるような案を提示し直す。
「だったら俺が直接、話をつけてやる。それなら文句はないだろ? 今この場で、連絡を取る手段はあるのか?」
ディールの問いに対して覚悟を決めたソニアは、一回深く息を吐いた後、手のひらを上に向けた状態で自身の前に差し出す。
彼女の手のひらからは黒い煙が立ちのぼり、それが晴れた後には紫色の魔石が出現していた。




