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第21話 分断されたサマルキア王国



 国王ルーイ11世は、王宮の北西部に有る砦の広間で苦虫を噛み潰していた。

 そこには王女のティナや大臣達、一部の奏多には従わなかった近衛騎士も数名いた。


「お父様! 私もう、こんな生活は堪えられませんことよ!」


 ティナの愚痴に、国王のイライラは更に増す。


「そんな事はわかっておる姫よ! まさか、異世界の召喚者達が、あのような横暴な者達であったとは! 何故に神は、あのような者達を代行者として遣わされたのか?」


 国王の疑問に対して、大臣の一人が言う。


「樹海文書とは、そもそも神の教えなどではなく、悪魔の教えを広める為の物だったのではないでしょうか? 即ち、樹海文書の教義に則って信仰されていたハルバ教そのものが、悪魔の教えだったのではないかと……」

「そんな馬鹿な話が有るか! それでは今まで儂ら人間は、悪魔の教えを神の教えと思い込み、熱心に信仰していたという事になるではないか!」

「宗教とは、あくまでも国家の運営に際し人心を掌握する為に、その権威を利用するものであります。実際に、その存在が神で有るかどうかなど、この際関係ない話なのです」


 王である自分に対し、諭すような事を言う大臣に激昂しながらも、いつものような尊大さは見られない国王。


「そんな事はわかっておる! しかし、もはやハルバ教に対する民の心は完全に離れてしまった……」

「ですから、むしろこれはチャンスなのでは? 国中に魔物討伐の為に散らばった兵力を集め、王都を奪還する事さえ出来れば、陛下は再び国の英雄として王の座に返り咲く事ができるのではないかと」

「しかし、軍を指揮するうえで適した人材は、全て召喚者達についてしまったぞ? それに、集めると言っても、各地の軍団が我が方につくとも限らぬではないか」


 そんな不安を感じる王の言葉に、大臣はしたり顔になって言う。


「いるではございませんか! 軍の指揮能力に長け、多くの民から熱狂的な人気を集める男が一人。その者が指揮するともなれば、各地の軍団も必ずや我が方に味方する事でしょう!」

「おーっ、そうか! ワシもすっかり忘れておったぞ! ディールだ! 奴をここに召集するのだ!」


 ディールと聞いて、不機嫌そうだったティナの表情は緩む。


「嗚呼、ディール様! 彼ならば、今置かれている不幸な状況から、きっと私の事を救いだしてくださるに違いありませんわ!」


 奏多が樹海の探索に頻繁に向かうようになるまでの間、彼にべったりと張り付いておきながら全く現金なものである。

 そんな娘のティナも喜んでいると見た国王は、これで全て上手くいくとばかりに、一緒について来た近衛の女騎士に対し命じる。


「エマよ! お前なら、奴とは幼馴染みであるが故に、話もスムーズであろう。十名ほど兵を引き連れ、奴に召集に応じるよう伝えてまいれ! 大恩ある国王が、困り果て助けを求めているとな!」

「承知つかまつりました国王陛下! 私が赴けば、ディールも快く陛下の召集に応じることでしょう!」


 全くもって、三人ともおめでたい脳ミソである。一体どうしたら、そんな考えに至るというのか。

 ともあれ、こうしてエマは十名の兵を引き連れ、ディールに対する使者としてグリーラッドへ向かう事となった。


 数日後──。


 何もない荒野を進むエマ達一行の眼前に、武骨な要塞のような姿の古城が現れはじめていた。

 その頃。城でも警戒に当たっていた少年が異常を知らせる警鐘を鳴らし、再び敵襲かと思った彼らの間に緊張が走っていた。

 既に改修作業の終わっていた、城門の前まで到達したエマは城内に向かって叫ぶ。


「ディール! 居るんでしょー!? 私よ! エマよーっ! 今日は、国王陛下の使者として、あなたに会いに来たわよーっ!」


 櫓の上から見ていた為、しばらく前から彼女の事を認識していたディールは、追い返すつもりで城門を開け一人で外に出て行く。


「何の用だ? エマ」

「何よ! 久しぶりの再会だって言うのに、城の中に招き入れもしないでそんな態度を取るなんて、一体どう言うつもりなのかしら?」

「いや、された仕打ちから考えて当然の反応だと思うんだが。俺の方がおかしいのか?」

「された仕打ち? 大恩こそ有りはしても、仕打ちって一体何の事なのよ?」


 何の事か全くわからないといった感じのエマに対し、呆れてものも言えなくなるディール。

 確かに実家は、それなりに便宜を図ってもらった事で大いに栄えた。

 しかし、ディール個人としては与えられた物など殆んどなく、屋敷なども国から貸与された物でしかなかった。

 唯一与えられていた聖剣でさえ、返納させられたのは周知のとおりである。

 働きからしたら、ディールの認識としてはタダ働きに近いものがあったのだが。エマの認識では少々違っていた。

 彼女からしてみれば、名声を欲しいままにする幼馴染みが、全てを持っているように感じられていたのだ。


「全く話にもならないな! お引き取り願おうか?」


 どういうわけか冷たい態度を取るディールに対し、今度は情に訴え始めるエマ。


「今、国中の人々は、大量に発生して暴れまわっている魔物共によって大いに苦しめられているのよ? あんた元勇者として、そんな人々の苦しむ現状に何とも思わないわけ?」

「そりゃ、何とも思わない事もないけどな。お前も今言ったとおり、俺は元勇者なんだ。本来今、国中で暴れまわっている魔物共を討伐する仕事は、召喚された現勇者達の仕事なんじゃないのか?」


 ディールからその言葉を引き出したエマは、したり顔で言う。


「そうなのよ! 今日、ここに来たのは、実はその召喚勇者について話がしたかったからなの!」

「召喚勇者についての話? 益々俺には関係無さそうだけどな」


 そう言って牽制するディールに対し、何とか食い下がろうとするエマ。


「召喚された勇者達は、一切魔物討伐をしようとしないのよ! しかも、彼らは国王陛下を王宮から追い出して、今では自ら新王を勝手に名乗ってるわ! 国王陛下は今、このグリーラッドにも比較的近いノースラッド砦で、各地に散らばった軍を召集にかかっているの!」


 エマは一気に状況について話しきると、反応を見る為にじっとディールの目を見つめる。

 しかし、ディールの反応は当然の事ながら、彼女の期待するものとは程遠かった。

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