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第20話 今日から俺が国王だ!



 城の訊問部屋にて。手首が吹き飛んだホブゴブリンの傷口に、剣の先を押し当てるディール。


「ぎゃーーーっ!」


 叫ぶ一体の捕虜となったホブゴブリン兵士に、彼は冷徹な表情で訊問を続ける。


「早く質問に答えた方が良いんじゃないか? そしたら楽に死なせてやるぞ? お前らは、復活した魔王によって送り込まれたんだよな? 魔王の目的は一体何なんだ?」

「だっ、誰が言うかホブゴブ!」

「意外と強情な奴だな」


 そう言うとディールは、再び剣先をホブゴブリン兵士の傷口に突き刺す。


「ぎゃーーーっ! はっ、早く殺せホブゴブ~!」


 叫ぶばかりで、全く質問に答えようとしないホブゴブリンだったが。そんな捕虜の様子に変化が表れる。


「久しぶりだな! 勇者ディール!」


 突然、声色が変わり。そう言葉を発するホブゴブリンの様子に、ディールと共に居たガルドは怪訝な顔をして問う。


「ディール殿! これはまさか、魔王の声なのですか?」

「どうやらそうみたいだな! お前、魔王アスモデウスなのか?」


 ディールの問いかけに対して、ホブゴブリン兵士は再び話し始める。


「ああ。そのとおりだ勇者ディールよ!」

「邪神の力によって、復活したらしいじゃないか? お前の目的は一体何なんだ? 俺に対する復讐か?」

「まあ、それも有るが。今回は挨拶代わりだな」

「他に目的が有るような言い方だが?」

「勿論そのとおりだが。それをお前に言う必要も有るまい? おっと、そろそろ時間のようだな」


 そう言うと、ホブゴブリン兵士はガクッと項垂れる。どうやら、失血性ショックにより息絶えたようだ。


「魔王が復活したとなると、これはいよいよ本格的に不味い事態のようですね? 王家は、異世界からの召喚者達を討伐に差し向けるのでしょうか?」


 ガルドの質問に、ディールは素っ気なく答える。


「どうだかな。王家としては、当然そうしたいところだろうが。そもそも召喚者達自体が、魔物の討伐に対して消極的らしいじゃないか?」

「では、ディール様が向かわれては?」

「俺は、勇者の職を引退させられた身だからな。今更でしゃばるつもりも無いさ。それよりも、早く領地の経営を安定化させないとだ」


 ディールの答えに、ガルドは少し考え込む様子だったが。何かを勝手に納得した感じで、唸りながら頷く。


 午後の軍事教練に向かう為、訊問部屋を出たガルドは、途中で会ったアルに対してすれ違いざまに質問する。


「アルさん、ちょっとよろしいか?」

「何です? ガルドさん」

「ディール様は、復活した魔王を倒しには行かれないとおっしゃっておりましたが。アルさんはその事についてどう思われますか?」

「あっ、魔王復活したんでしたよね? ディール様が行かないって、はっきり言っていたんですか?」

「ええ。自分はもう、引退した身だと……」

「そうですか……でも、何だかんだ言ってディール様の事だから。最終的には、どうにかしてくれそうな気がします。あの人、あー見えてとても優しい人なんですよ! 照れ隠しで普段、あんな感じの態度を取っているだけなんだと私は思っています」

「やはりそうですか。しかしディール様も、もう少し状況を見て判断するつもりなのでしょうが。このまま放置している期間が長くなればなる程、多くの命が失われ、この城にいる子供達のような者が増える事になります……」

「確かにそうですね……でも、ディール様の気持ちも考えると、すぐに動いて欲しいなんてとても言えないですよ」

「それは尤もな話。全てはディール様を追放した、王家が悪いのですね……」


 そう言うとガルドは、アルに一礼だけして軍事教練の教官をする為に練兵場へと向かうのだった。



☆☆☆



 王宮の一室では、国王のルーイ11世と王女ティナ。そして、国の要職に就く数名の大臣達が集まっていた。

 そこに呼び出された奏多がやってきて、面倒くさそうに言う。


「樹海の探索は久しぶりに休んで、今日からしばらくの間はのんびり過ごそう、と思っていた矢先にこんな所に呼び出すなんて。お前ら一体何様のつもりだ? ろくでもない要件だったら許さないからな」


 奏多の質問に対し、王自らが応じる。


「勇者様! 今、国中に魔物共が溢れだしております! 各地に軍を派遣しておりますが。日増しに戦死者は増える一方……多くの村々が襲われ、我が王国の兵力では、既に収拾がつかない状態にまで追い込まれておるのです」

「だから何だと言うんだ?」

「ですから勇者様には、そろそろ本来の役目を果たしていただきたいかと……」

「本来の役目だと? 勘違いするなよ! 俺達の役目は、創造神ハルバの御意志に従い行動する事だ! お前らゴミ共の為に振るう剣は、生憎だが待ち合わせてはいない!」


 あまりにも無礼な奏多の言い様に、堪らず大臣の一人が彼に詰めよって言う。


「国王陛下に対してなんたる無礼! 神の代行者であれば、人々の為に働くのが本来の役目で有ろう!」


 大臣がそう言った刹那、彼の首は宙を舞い床に転がる。

 その恐ろしい光景に、ティナは叫んだ。


「ひぃゃ~~~っ! だ、大臣のくびっ、首が~っ!」


 首の根元から撒き散らされる鮮血を全身に浴び、卒倒するティナ。


「ふん! 何が聖女だ、この偽物が!」


 床に倒れ伏したティナに対し、そう冷たく言い放つ奏多。

 国王と他の大臣達は、突然の暴挙に茫然と立ち尽くすばかりだった。

 そんな中、奏多は不敵な笑みを浮かべながら宣言する。


「もう、面倒だな! 今日からこの俺が、この国の支配者になる! その方が何かと都合が良さそうだしな! そう言う事だから、お前達にはすぐに王宮を出ていってもらおうか?」


 いくら神の代行者とはいえ、あまりにも理不尽な奏多の言い様に、流石の国王も怒りが抑えきれなくなる。

 彼は、大臣達に王女を運び出すよう命じ、部屋を退出した後すぐに近衛騎士達を召集した。


「異世界からの召喚勇者を討つのだ!」


 頭がおかしくなったとしか言い様のない王の命令に、困惑してざわめく近衛騎士達。

 その中には、ディールの幼馴染みであるエマの姿も有った。

 困惑する騎士達の様子を見て取った国王は、彼らを説得する為に言う。


「あの者達は、神の使徒などではない! 神を騙った悪魔の使徒であると判明したのだ! あの者はこのワシに王を辞め、王宮から出ていくよう言いよったのだ!」


 国王がそう言った瞬間、奏多をはじめとする異世界召喚者達が謁見の間に乱入してくる。


「来たな! 悪魔の遣い共! 近衛騎士達よ! 奴らを一人残らず討ち果たすのだ!」


 そう命令する国王。しかし、近衛騎士達は全く動こうとしない。

 国王の言う事が本当の事かもわからないうえに、自分達の力では到底敵わない事がわかっているのだから当然の事であろう。


 その様子を見て、奏多は近衛騎士達に向かって言う。


「俺達が神の代行者だという事は、樹海文書が示しているのだからそれが全てのはずだ! 神に対する真の反逆者は、王族と大臣共に他ならない! こいつら全員、王宮からつまみ出せ!」


 奏多の命令に一瞬だけ困惑する様子を見せる近衛騎士達。しかし、彼らの心はすぐに決したようだ。

 次々と剣を抜いた彼らの矛先は、王と大臣達に対して向けられるのであった。

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