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第187話 新任講師と転入生



 魔法学園に於いて、節目でない時に新任講師や転入生が入るのは、けして珍しい事ではない。

 理由は、入学する条件が試験によるものよりも、教授や各王国からの推薦によるものが多いからである。

 その為、決まった学期末や卒業などという概念も、ここには存在しない。


 取得した単位は、あくまでも次のステップに進むために必要なものである。

 生徒達は、各々が興味のある学課を選択して単位を取得していき、それに関連する事柄のマスターを目指すわけだ。

 生徒達の間には、国から補助金が出ている者も多く。それが理由で大抵の者は、時間の許す限り学園に居残り続ける事が多かった。


 今回ディールは、魔道具製造学課の講師として招かれたのだが。学園の有る魔道国家オスタリアでは、魔道具の製造に関しては世界の最先端をいっていた。

 その為、既に研究しつくされている分野だけに、却って学課としてはあまり人気の無いものだった。

 しかし、学園の理事長であるバラクが言っていたとおりグリーラッド産のポーションは人気が高く、その性能の凄さから現在世界中で流行していた。


 バラクは当然、それを開発したのはディールだと思っていたようだ。

 実際にそのとおりであり、彼が指摘していた液体に魔法効果を付与する技術は、物体を素粒子レベルまで操れる者にしかできない芸当であった。

 即ちそれはヴィラ以上の実力者であれば理論上可能という事であったが、それに加え超高等な術式の構築も必要であった。


 ディールは二重生活をスムーズにする為、前もって新たな入り口(ポータル)を自分専用にと与えられた研究室内に設置していた。

 これで何かあっても、グリーラッドと学園を一瞬で行き来できるわけだ。


 そして、ディールは講師としての初日を迎える事になる。

 アルも、その日に合わせて学園初日を迎えた。

 学園長室に向かう最中、ディールはアルに対しこの学園の特殊性について語る。


「学校自体初めてだろうが、ここは特に変わったシステムなんだ。クラス分けとかも無いから、自分で考えて自由に単位を取得していく。まぁ、詳しい話しは学園長から聞く事ができるだろう」

「普通の学校すら行った事がないのに、私にやっていけるんでしょうか?」

「不安になるのは良くわかるけど、一応便宜も図ってもらえる事になってるしな。天才的な力を持った者にとっては、こういったシステムの方が却って楽なんじゃないかと思うぞ」


 そうこうしている内に、学園長室の前に到着する二人。ノックして部屋に入ると、中には普通の人間と思われる初老の人物が待っていた。


「やぁ、よく来たね。あいにく今日は、理事長は用事が有ってここには来ていないけど。私は、学園長のシェンカだ。二人とも、これから宜しく頼むよ」


 部屋に入った二人に笑顔でそう挨拶する学園長に、アルは同じく笑顔で応じる。

 初めての学校という事で、彼女はかなり緊張しているようだ。

 そんな妻の様子を察したディールは、率先して自分達の事について話す。


「バラクの方から聞いているとは思うが。俺はグリーラッドの領主をしていて、妻の方は学校に通う事自体が初めてだ。何かと不都合をかけるかと思うが、こちらこそ宜しく頼む」

「勿論、理事長の方から全て聞いていますよ。では早速、当学園についての説明から始めましょう」


 学園長のシェンカはそう言うと、二人に対して学園のシステムについて詳しく説明を始める。

 アルは、初めての事だった為か真剣にその話しに耳を傾けていた。


 ちょうど現在、魔道具製造学課の単位を取得中の者が誰も居なかった為に、ディールは最も初歩的な講義から始める事になっていた。

 その日からいきなり、初回講義の予定となっていたが。今流行りのポーションを開発した人物が講壇に立つという噂を聞きつけ、かなり沢山の学生が受講を希望していた。


 人気が無い学課だと聞いていたディールは、すぐに定員がいっぱいになったと聞いて驚くと同時に困惑する。

 どうせ大した人数は集まらないと考えていた為、殆んど何も準備をしていなかったのだ。


 ──まぁ、いざとなれば実演でも何でもやれば良い。


 そう安直に考えたディールは、気楽に構えて初回の講義に臨む事にする。

 アルは、前もって勉強したい内容を訊ねたところ、特に希望を口にする事はなく「ディール様の講義だけ受けられれば、後は何でも良いです」と受け身の姿勢を示す。

 完全に学園という場所の雰囲気を楽しみたいだけ、といった感じであった。


 学園のシステムについてある程度の理解をした二人は、ちょうど講義の時間近くとなっていたので移動を始める。

 二人が講義室に入ると、聞いていたとおり室内は満席に近い状態となっていた。

 アルは、中段辺りに一つだけ空いていた席に向かって歩いていく。


「すみません。ここ、宜しいですか?」

「ええ、良いわよ。あなた見かけない顔ね? この学園では珍しい事ではないけど、ひょっとして転入生かしら?」


 そうアルに対して声をかけたのは、ブラウンの髪にエメラルドグリーンの瞳をした、少々性格のキツそうな美女であった。

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