第175話 同盟成立
かなり大胆な賭けだったとはいえ、ヴィルの予想は実際に的を射るものだった。
実のところ各国の王達は、それに起因して大きな国内問題を抱えるに至っており。今回の会議に参加した目的は、その救済方法を得たいという考えに基づくものでもあった。
「貴国では、あれを何とかする事ができたのか?」
腹の探り合いをしていても始まらないと考えたアルフカンド王は、アメリア王に対してそう質問する。
あれと言う濁した言い方に合わせ、ヴィルもはっきりとしない答えを返した。
「あれは確かに厄介でしたが……勇者ディール殿であれば、対処する方法を持っておられるようです」
ヴィルの答えに、再びざわめき立つ各国の王達。サマルキア王レイチェルだけは、その害を受けていない為に蚊帳の外といった感じだ。
自分の名前が挙がり、ディールはまた厄介な事になりそうだと考える。国内でのご奉仕活動にもうんざりしていた彼だが、それが大陸中にまで及ぶのかと思うと気が重くなるのも当然である。
『いざとなったら頼むわ』
後に控えるノナに対してそう念話を送るディール。何となくそれを理解した彼女も、念話にて返事をした。
『妾に全て任せよ。ご主人様よ』
そんなやり取りが為されているとも知らず、王達の話はどんどん先に進んでいく。
議題は、魔王に対抗する為の話に移っていた。
ヴィルの呼び掛けに対し、初めは難色を示す各国の王達。同盟を結ぶ対象に、サマルキア王国も含まれている事がその理由であった。
大陸最大の国力を有するサマルキア王国は、周辺国に対して圧力をかけてきたという歴史があった。
その為どこの国も、サマルキア王国に対して良い感情を持ってはいなかったのだ。
しかし、ヴィルによる必死の説得もあって、次第に各国の王達は考え方を変えていく。
その一番の理由は、最初に話題となった国内問題を解決したいという思惑があった為であるが。現状を鑑みると、実際に魔王の活動はかなり危険であるとも言えた。
しばらくの間、集中砲火を浴びていたサマルキア王国としては、完全に休戦できる状況になるのは望むところだ。
結局、利害関係が一致した各国の王は、ムーンガルド大陸の国家全てを対象にした同盟に参加する事を決意する。
最大の難関だと思われた大陸大同盟の件も纏まり、ほっと一安心するヴィルヘルム。
調印式は翌日行われる事となり、続けてグリーラッド領を独立させる件について議題は移る。
あくまでもサマルキア王国とアメリア王国間の話ではあるが、その件が纏まればこの場を借りて各国の承認も得られるので都合が良い。
ヴィルはそう考えた為に、敢えてこの会議の場を利用したわけである。
すぐに話は纏まる。そう考えていたヴィルだったが。思いの外、議論は白熱する展開となった。
サマルキア王国側の主張は次のとおりである。
王女を弟のディールに嫁がせるという事は、アメリア王国側の影響力を強める事になる。
したがって、もし王女を嫁がせるのであれば、八歳になるレイチェル王の息子に嫁がせるか、どうしても弟の方にという方針を通すならアメリア王国側は遠縁の者が条件。というのが、サマルキア王国側の主張であった。
対するアメリア王国としては、当然そんな条件は受け入れがたく。話は完全に平行線をたどる事となった。
正直、自分達の国には全く関係の無い話であるが故に、各国の王達の間にはいい加減にしてくれといった空気が流れ始める。
お互いの主張が一旦途切れ、お話にならないとばかりにしばらくの間沈黙が続いていたが。業を煮やしたアルフカンド国王は、そんな空気を一変させる考えを各国の王達に向け発言する。
「お互いの話を聞く限り、公平性という意味ではアメリア王国側の主張の方が正しいと儂は感じるが。他の王達はどう思うか?」
早くこの件を片付けて欲しいと考えていた各国の王達は、これ幸いとばかりにアルフカンド王の発言に同調し始める。
実際に第三者の目から見ても、アルフカンド王国側の主張は公平性に欠くものであり、明らかにグリーラッド領を手放したくないという意図が垣間見えていた。
次々と各国の王達がその意見に同調する流れとなり、レイチェルとしてはアメリア王国側の案を受け入れざるを得ない状況となってしまう。
結果的に、自国の主張に対する正当性を認めさせる程の材料が無い、と判断した彼は一つだけ条件を提示する事にした。
「グリーラッドの独立については、そちら側の案を全面的に受け入れよう。しかし、一つだけ条件が有る」
ようやく相手の国王が折れてくれた事で、条件次第では受け入れようと考えたヴィルは即座に反応する。
「条件とは何であろうか? サマルキアの国王よ」
全く難色を示す事もなく、即座に反応を示したアメリア王に対し、レイチェルは最大の譲歩案を提示してみせる。
「グリーラッドの外交については、その権利を有さない事。対外的な交渉ごとがどうしても有る場合に於ては、サマルキア王国、アメリア王国双方の許可に基づく事。以上だ!」
正直な話、面倒な事になったと感じていたディールだったが。彼としては、はなからグリーラッドを独立させたかった訳でもない。
単純に一領主の立場であれば、外交権など最初から無かったわけで。それで話が纏まるのであれば、今までとあまり変わらないとも思っていた。
そんなディールの様子を窺っていたヴィルは、彼が特に問題無さそうな雰囲気を見せていた事でその条件を承諾する。
この後、条約の内容について話が詰められていき、初日で全ての目的は果たされる事になるのだった。




