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第161話 突然の訪問者



 ディール達が、アーリア大陸から帰還してしばらくの間は、特に何も起こらず平和な日々が続いていた。

 そんなある日の事。ディールは、アメリア王国からやってきたという一団が、領主に面会を求めているとの連絡を受ける。

 正式な使者を送るのであれば、通例として先に伝聞鳥を飛ばすはずなのだが。急な訪問に怪訝な顔をしながらも、ディールはその一団を城内に招き入れる事にした。


 広間に通された一団のリーダーを見て、驚きの声を上げるディール。


「どうしたんだ? ヴィル! 何で国王自らここに来たって言うんだよ! まさか、国でまた何かヤバい事でも起きたのか?」

「驚かせて済まなかった。心配するには及ばん。国の復興状況はすこぶる順調だ! 最近は随分と落ち着いてきたので、ちょっと気分転換に御忍びで旅行といったところか」

「王の身分で、そんな事をしていて大丈夫なのか?」


 ディールの心配を他所に、あっけらかんと答えるアメリアの国王。


「生き残ってくれていた臣下達が、とても優秀なものでな。第一そんな事、君の方から言われたくはないぞ? 最近まで、ハルバ関連で私に一言も相談無しに、単独でアーリア大陸まで行っていたみたいじゃないか」


 笑いながらそう言うヴィル。

 そこまで笑えないとは思いつつも、ディールは一応彼に合わせて愛想笑いした。


 取り敢えず来客をもてなす用意が有る為に、一旦広間から移動を始める一同。

 ヴィルと平行して歩いていたディールは、移動しながら彼に対し質問をする。


「ところで、各国との交渉は上手くいってるのか?」

「ああ、その話なんだがな。近々、各国の王が集まって会談を行う事になりそうだ」

「そうか。それなら良かった」


 そう素っ気なく答えるディールに対し、ヴィルはやれやれといった感じで話を続ける。


「相変わらず他人事みたいに言う奴だな。今回の件に関しては、お前が主役みたいなものなんだぞ?」

「俺が主役だって? 政治的な話に関してはヴィル、あんたが主役って事になるだろ?」

「何いってるんだ……ヴァイセリーナだって、とても楽しみにしているんだぞ? 最近では、お前の事ばかり気にしていて、父として少し胸が痛いくらいだ」


 含みの有る言い方で具体的な内容については触れないヴィルだったが、ディールはそれだけで概ね彼が言いたい事を理解する。


「この地を独立させる話か? だからと言って、王女と俺が結婚する必要なんてないと思うがな」


 アルの事も有る手前、そうはぐらかすディール。しかし彼は、どうしてそれが必要なのかについて十分に理解していた。


「頭のキレるお前ならわかっている筈だろ? 大公になるお前が現国王の弟なんだ。こちらとしても、婚姻関係くらい結ばなければ、独立といってもサマルキア側の影響力の方が強いって事になってしまう」

「それはそうなんだがな……」

()()()の事で悩むのはわかる。だが、我が王国とサマルキア王国の完全なる和睦が実現しないのであれば、大陸の各国家が一丸となる事はできないのではないか?」


 魔王に付け入る隙を与えないようにする為には、ヴィルの言うとおり大陸中の国家を結束させなければならない。

 召喚者達の件も完全に片付いてはいない以上、早急に魔王に対する防衛体制だけでも整えておく必要があるのだ。

 その事を十分に理解していたディールではあったが。アーリア大陸での事も相まって、余計に彼は自身の在り方について悩んでいた。


 ディールは、お付きの使用人にアメリア王国の面々を各部屋に案内するよう指示を出した後、ヴィルを伴って応接室へと向かった。


 親友同士でしばらく談笑をしていたところ、そこへお茶の用意をしてきたアルとヴィラの二人がやってくる。

 部屋に入るなり、アルはアメリア王国の国王に対して取り敢えずご機嫌を伺う。


「ヴィルさん、お久しぶりですね? お元気そうで何よりです。ヴィセちゃんも元気してますかー?」


 ヴィセとは、王女ヴァイセリーナの事である。

 ディールの事を巡って、二人は牽制し合ってはいたが。そんな状況の中でも、愛称で呼び合うくらいにはお互い仲良くなっていたようだ。


「これは聖女様! ご無沙汰しております! しかし、いつ見ても本当にお美しい……ヴァイセリーナは元気にしておりますよ」

「私、聖女なんかじゃありませんよ! まぁ、別に良いですけどね。ヴィセちゃんも元気そうで、安心しました」


 アルがそう言い終わるなり、タイミングを窺っていたヴィラはカーテシーをしながら自己紹介する。


「お初にお目にかかります国王陛下。私は、ヴィラドリアと申します。訳あって、しばらくの間ディール様の所でお世話になる事になりました。以後お見知りおきくださいませ」

「初めましてヴィラドリア。小さいのに随分と礼儀正しいのだね? いずれかの貴族のご令嬢かな?」

「私の事は、ヴィラとお呼びくださいませ。私は、ルマーニャ諸侯連合国という国の出身で、その国の大公の娘でございますわ」


 全く聞いたこともない国の名を告げられ、ヴィルは一瞬だけ困惑する様子を見せる。

 しかし、何でもありな元勇者の客人という事であれば、何か複雑な事情でも有るのだろう。と、すぐに安直な考えに至ったようだ。


 自身の事に関して、詳しく説明する気のなかったヴィラは「積もる話もございましょうし、私はこれにて失礼させていただきますわ」と言ってそそくさと部屋を後にする。

 彼女が去った後で、どうしても気になる事が有ったディールは思わずそれを口に出してしまう。


「それにしても、ヴィル、ヴィセ、ヴィラって……三人とも愛称で呼ぶと、なんだか少し紛らわしいよな」


 ヴィラも含め、全員が同じ事を思っていたのだが。皆敢えてそれには触れないようにしていた。

 そんな中、平然とそれを口に出すディールに対し、ヴィルは苦笑いを浮かべるのだった。

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