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第15話 二人でお買い物



 VIPルームの中から何度も響いてくる大きな音に、いよいよ様子がおかしいと思った警備の二人。

 彼らは「アントン様、どうかなされましたか!?」と叫びながら、ノックもせずにドアを開け部屋に入っていった。

 中の惨劇を見て茫然とする警備達に向かって、サガは言葉をかける。


「三人とも殺してはいないから、俺に構ってる暇が有ったら早く救護班を呼んでやった方が良いんじゃないか?」


 そう言って、剣を回収する事なく悠然と立ち去る仮面剣闘士。

 アントンの護衛達と違い、そこまで彼に対して忠誠心を持っていなかった警備の二人は、ここで追いかけても同じ目に遭うだけだと悟ったようである。

 一人が残って応急措置を始め、もう一人は仮面剣闘士の忠告に従い救護班を呼びにいった。


 遺体の安置所に赴いたディールは、その日唯一の死亡者となったガルドの顔に認識阻害効果の有るマスクをつけ、ローラー付きの寝台ごと彼の事を運び出す。


 アントンの手の者が、追って来る気配はまるでない。


 コロシアムでは、こういったトラブルがよく有る事なので、そのような件に関して管理側は基本的にノータッチだった。

 当人のアントンが意識不明の重体であった為、加害者を追いかけるよう命令する者などいなかったのだ。

 コロシアムを出た所で、ディールは外で待っていたアルと合流する。


「ディール様、どうして寝台なんて運んでいるんですか?」


 合流するなり、不思議そうに質問を投げ掛けるアル。


「よーく視ろ! ガルドを運び出したんだ!」

「あっ! そう言われて見ると、確かに人が乗っていますね。でも、なんでさっきは見えなかったんだろ?」

「認識阻害のマスクを付けていたんだ。意識を集中するまで見えなかっただろ?」


 アルの付けている猫耳カチューシャもそうだが。ディールお手製の認識阻害シリーズは、使用者が声を発したり、他者から存在を注視するよう促されたりする事でその効果が極端に弱まるという性質を持つ。

 その為アルは、券を購入したり換金を行う事ができたわけだ。


「ガルドを一旦、城に運んでから買い物しに行くとしようか」

「て言うかディール様。ガルドさんの事、殺しちゃったのですか? コロシアム内では、かなりの騒ぎになっていましたよ?」

「ディールって呼ぶな! サガだ!」

「あっ! そうでしたねディール様! それで、ガルドさんをお城に運ぶと言う事は、ひょっとして彼は生きているんですか?」

「お前、いい加減それ、わざとだろ……まぁ、良いか……ああ、このおっさんは生きてるぞ。心拍数を、極端に弱めているだけだな」

「よくわかりませんが、とにかく生きてるんですね?」

「まぁ、説明は後だ! とにかく、ガルドのおっさんを城まで運ぶぞ!」


 そう言って、ディールは寝台を転がしながら歩きだす。

 二人は、人目のつかない所に設置したポータルの場所へと向かった。


 仮死状態のガルドを一旦城に運び込んだ後、両手をかざして彼の体に柔らかい光を当てるディール。

 眠ったままの彼を残して、二人はショッピングをする為に再びデリコダールの町に向かった。


「弱い力なら、変身する必要はないんですね?」

「ああ、お前、けっこう理解力だけは有るよな。天然だけど」


 ディールに天然だと言われ、アルはへそを曲げて言う。


「何度も何度も、私の事を天然天然って、酷いですディール様! 私、ディール様の事を一生懸命に知ろうとしているのに」


 怒った様子のアルを見て、何故か微笑ましく思うディール。

 そんな彼の態度に、更に怒りが増したアルは喚く。


「そんな目で見て。ディール様は、私の事を馬鹿にしているんですか? 私、本気で怒っているんですけど?」

「ああ、済まなかったなアル。お詫びと言っちゃなんだけど、お前に新しく服を買ってやるよ。年頃の娘が、いつまでもそんな格好をしてたら可哀想だもんな」


 ディールにいきなりそんな提案をされ困惑するアル。

 彼女は、一瞬だけ目を丸くしていたが。すぐに笑顔になってその喜びを素直に言葉で表した。


「嬉しいですディール様! 私、服を買ってもらうなんて生まれて初めてですぅ~」

「そうか。そんじゃ、少し急ぐか。奴隷商は夜でもやってるけど、服屋はもうすぐ閉店する時間だろうからな」


 初めて服を買ってもらえる事になったアルは、嬉しそうに急ぎ足で歩くディールの後をついていく。


 町に繋がるポータルを出た後、二人は一番近くに有った店の前に立ち止まる。

 ショーウィンドウに飾られた服を眺めているアルは、明らかに緊張しているようであった。


「俺と一緒なんだから、何も緊張する事なんてないだろ? この店で良いのか?」

「え、えっと……は、はい! 私は何処の店でも構いません」


 アルの返事を聞いて、ディールは無言で彼女の手を引き堂々と店の中に入っていく。


「いらっ……しゃいませ」


 入店してきた二人の姿を見た店主は、歯切れの悪い挨拶をする。

 僅とは言え、返り血を浴びたレザーメイルの男と、薄汚い格好の少女が入って来たのだから当然の反応だ。

 黙っていたら接客はされないだろうと思ったディールは、ちゃんとした客だという事をアピールする為すぐに要件を言う。


「この娘に合う服を買ってやりたいんだ。それと、俺も血で汚れてるから、適当に選ぶつもりだ。女の子の服はよくわからないから、悪いけど彼女に似合いそうな服を何点か見繕ってくれるか? 予算はそうだな……この娘の方は1,000Gくらいで頼む」


 1,000Gといえば、それなりの大金である。

 ディールとしては、本当はもっと出しても良かったのだが。あまりにも高い金額設定をすると却って冷やかしだと思われかねない。

 そう考えた彼は、ある程度のところで現実味のある金額を店主に告げたのだ。


 潤沢な予算が有ると聞いて、急に丁寧な応対を始める店主。

 ディールが自分の服を選び終わった頃。試着を終えたアルはカーテンを開け、大きめのリボンが付いたブラウスと短めのスカートを穿いた姿を披露する。


「に、似合ってますか? ディール様」


 アルは、恥ずかしそうにしながらも、どうしてもディールの反応が気になるようだ。

 そんな彼女に対し、ディールは表情を緩ませながら言う。


「ああ、綺麗になったな。替えも必要だろうから、他にも何点か試着してみろよ。気に入ったやつは、全部買っていいぞ。別に1,000G超えたって全然構わない」

「えっ? で、でも……」


 そう言いかけたアルの言葉を制するように、ディールは店員に対し注文する。


「他にも何点か試着させてやってくれ。彼女が気に入ったやつは、全部買うつもりだ」


 気前の良いディールの言葉に、店主は更にやる気を見せ始める。

 その後もアルの試着は行われ、気づけば閉店時間を少し過ぎる時間となっていた。

 結局アルは、可愛いワンピースなど数点購入し、もと着ていた服は店で処分してもらう事にした。

 閉店間際の接客とはいえ、上客だった事で機嫌良さげに二人を見送る店主。

 店を後にした二人は、そのまま奴隷市場へと向かうのだった。

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