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第137話 必ず救いだしてみせる



「ラグドラと、タマとチロの二人も、俺が団を復活させる事に賛同してくれて、これから新生獣牙の団の団員として協力してくれるそうだ」


 平然とそう嘘をつくフリードだったが。ガルドはそれを知りつつも、大恩ある彼を信じたいという気持ちも同時に持っていた。

 フリードとしては、兎に角ガルドを自身の側に一旦引き込む事さえできれば、後はどうにでも説得できると考えている部分もあった。

 その為、彼が即断るような事にならないよう、敢えて本人に対して答えを促すような言い方はしなかったのだ。


 返答に困る様子のガルドを見て、フリードは敢えて答を急がせるような事は言わずに、別の切り口で彼を誘う事にする。


「まぁ、あれだ。お前だって、家族が生きていたと知ったら、とにかく早く会いたいだろ? 取り敢えず、元勇者殿に確認を取って、しばらく休暇でももらえば良いじゃないか」

「ラグドラ達には、私が生きている事を既に伝えているのですか?」


 当然、そこを正直に言うわけにはいかないフリードは、その質問に対しても嘘をつく。


「ああ。勿論だとも。彼女達も、お前に早く会うのを楽しみにしているぞ」


 団長からそう言われ、ガルドは余計に違和感を覚える。

 ハンスのミスにより、自分の名すら知らされずにマイティス殿のところに配属されてしまった。というところまではわかる。

 悪い方の偶然は重なり。諜報部隊に配属されてしまったラグドラ達は任務中に団長達と出会い、恐らくは彼によって拘束されてしまっているのだろう。

 そもそも彼女の性格からして、任務を放棄する事自体あり得ない話だ。

 もし丁重に扱われているのだとしても、夫が生きている事と、その夫が自分達が仕え始めたばかりの人物の腹心になっていると知って帰ろうとしない筈がない。


 ガルドは、その事でマイティスに任務の詳細を確認しなければならないと思う。

 訊いた結果、任務の性質次第では、団長がラグドラ達を拘束しているかどうかの確認ができる。


 まさか、殺すような事まではしないと思うが。下手に刺激するような事を言えば、何らかの危害を加えないとも限らない。

 そう考えたガルドは、とにかく一旦今後の策を練る為の時間を稼ぐ事にした。


「わかりました。私も、早くラグドラ達には会いたいですし、主に確認を取って許可が出たら出発したいと思います。主は寛容な方ですから、恐らく許可は出ると思うのですが。生憎主は今、留守中なので連絡のやり取りに日数がかかります」

「ああ。それも役人の少年から聞いたぜ。別にそれくらい、事後報告でも良くはないか?」

「一応、今はそれなりに責任の有る身。流石に主に黙って、ここを離れるわけにはいきません」

「相変わらず律儀な奴だな、お前は。まぁだからこそ、そういうお前の事を信用できるわけなんだけどな」


 当初フリードとしては、ラグドラ達だけでも大きな収穫だと思っていた。

 しかし、捕らえた少年ハンスからガルドの話を聞き、どうしてもこの義理堅く戦闘能力も高い彼の事を再び仲間に引き入れたいと考えたのだ。


 本当は念話ですぐにやり取りできるわけだが、時間を稼ぐ為に日数がかかると言ったガルド。

 事後報告でも良くないかと言われたのは想定外だったが、上手く納得させる事ができたのですぐに行動に移そうと考える。


「取り敢えず連絡や引き継ぎに時間がかかりますので、それまで団長には私の屋敷に滞在してもらおうと思います。準備の期間はお相手する事ができず、不自由をおかけするかもしれませんが。少しの間お待ちいただきたい」


 そうさらりと述べてみせるガルド。

 気の短い彼の性格を利用した作戦でもあったが、最悪それで良いとの返答だったとしても、その時には監視の者を付ければ良いだけの話だ。

 そして、フリードの返答は彼の思惑通りのものであった。


「いや、俺も仲間達にすぐ戻ると言ってあるからな。何かメモする物は有るか?」


 書くものを探す団長の要求に応えて、持っていたペンとメモ用紙を渡すガルド。

 それを受け取った団長は、現在自分達が居る町の名前と滞在先を書いて、それを渡しながら言う。


「俺達が今、アジトにしている場所だ。俺は、先に戻ってお前の事を待っているからな」

「わかりました。では、先に行って待っていてください」


 やり取りが終わると、フリードは早々に席を立つ。

 彼は、すぐにでもここを出るつもりのようであった。

 町の外れまで送ると言ったガルドの申し出をフリードは断り、玄関の前で肩を叩き合う二人。

 彼らは、新たに結成しようとする獣牙の団メンバー達が待つであろう町での再会を誓う。


 フリードが出立したのを確認したガルドは、すぐにディールに対し念話を送る。

 事情の説明を受けた主君の出した答は、彼の想像していた以上のものであった。


『まさかラグドラ達が、ガルドの家族だったとはな。そういう事なら、いくら兵力を使っても構わん。慎重かつ迅速に事を進めてくれ!』

「ありがとうございますディール様! しかし、私も驚きました。まさか私の家族と、ディール様がアメリア王国の遠征中に出会っていたとは……ディール様の温情は、けっして無駄にはいたしません。必ず良い結果を掴んでみせます」


 主君との念話を切ったガルドは、すぐに部隊の編制に取りかかる。消息を絶ったハンスの事も心配だ。

 事情を聞いたマギも、同じ時期に切磋琢磨したライバルの身を案じ、救出作戦に同行する事を懇願した。


 同僚であるマイティスに対し後の事を頼んだガルドは、30人の精鋭を選抜してゴッドディルの町を出立する準備に取りかかる。

 選抜した精鋭達は、全て彼自身が騎士候補生として鍛えぬいた少年達だ。


 家族とハンスは、果たして無事で居るのだろうか。

 一抹の不安を抱えつつも、ガルドは必ず家族との再会を果たすと誓うのだった。

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