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第133話 何で俺がこんな目に遭うんだよ



 ここはサマルキア王国のとある国境の町。

 ラグドラ達を迎えにいったハンスは、何故か薄暗い部屋で強面の獣人族の男達による拷問を受けていた。

 数人がかりで床に押さえ付けられている彼に、一人の男が下卑た笑みを浮かべながら近づいていく。

 その男は、持ってきたハンマーで指を一本一本、叩き潰し始めた。


 指が一つ砕かれる度に、悲痛の叫び声を上げるハンス。

 拷問を担当する獣人族の男は額に青筋を立てながら、仲間に対して彼の頑丈さについて愚痴を溢す。


「こいつ、やっぱりただの人間じゃないな。指一本砕くだけでも、かなりしんどいぞ。霊気で一瞬だけ指先を強化してやがるみたいだ」


 男の言う事に対して、リーダー各と思われる狼の獣人族は言う。


「益々怪しい奴だな! 俺の仲間達の事も随分と可愛がってくれたようだし、このままただで帰すと思うなよ!」

「くそ! 先に絡んできたのは、お前らの方だろ? 俺はただ、人探しをしていただけだ!」

「その人探しの相手が問題なんだよ小僧! 何でお前は、ラグドラ達を探してたりしていたんだ?」

「だから何度も言っているだろ? あいつらは、これから俺の部下になる予定なんだよ!」


 そんな曖昧な答えに納得する筈もなく。狼の獣人男は更に怒りを増した表情になり、押さえ付けられている少年を罵倒する。


「あいつらが、お前みたいな小僧の部下になるだって? くそがっ! 獣人族を舐めてるのか? 寝言は寝てから言え!」

「俺のボスは、お前達と同じ獣人族の戦士で、名はガルドって言うんだ。それなら文句は無いだろ?」


 少年からガルドの名が上がり、ピクリと反応する狼の獣人男。

 しかし、その発言はハンスの状況にとって、必ずしも良い結果となるものではなかった。


「テメエ! 何処までフザけた事を言いやがる! ガルドの奴はな! デリコダールの町で、サガって言う男に殺されたんだよ!」


 狼の獣人男の発言に対して、何となくボスの事情を知っていたハンスは尚も食い下がろうとする。


「ガルドさんは死んでなんかいない! ガルドさんは生きていて、今はサマルキアの英雄である勇者ディール様の腹心として働いているんだよ!」


 ハンスの発言に怒りを露にした男は、彼の潰れた指を踏みつける。

 既に感覚が麻痺しているとはいえ、あまりにも惨たらしい行いに叫び声を上げるハンス。


 ガルドが生きていると聞いて、何故その男がそこまで激昂したのか。その理由については、次に彼が語った事によって明らかとなる。


「テメエほんとフザけんなよな! 実は、つい最近まで生きていたって事を知って喜んだのも束の間、剣闘士奴隷に落ちていた挙げ句に解放目前で試合中に殺されたって……それを聞いたラグドラの気持ちを考えてみろ! まさに天国から地獄ってやつだ! そのうえ更に同じ思いを、彼女にまた繰り返させるつもりなのか!?」


 狼の獣人男が言った事に対して、一つ疑問に思ったハンスは苦痛を堪えながらその点について問う。


「ラグドラの気持ちって……彼女とガルドさんの話しと、一体どんな関係があるって言うんだよ……」

「そんな事も知らないで、よく部下になる予定だなんて言えたもんだな! いいか、よーく聞け! 彼女はな……ガルドにとっての最愛の妻だ!」


 衝撃的な話を聞き、驚きのあまり一瞬言葉を失ってしまうハンス。

 剣闘士奴隷の話を聞いた限り、彼が知っているガルドと、狼の獣人男が言っている人物は同一とみて間違いはない。

 この状況を打開するには、何とかして彼が生きている事を信じてもらうしかないのだが。生憎それを証明するための材料を、ハンスは持ち合わせてなどいなかった。


「どうすりゃ信じてもらえるんだよ……」


 呻くように、そう呟くハンス。

 そんな彼に対し狼の獣人男は、更に当人を絶望させるような事を言い出す。


「そもそも、お前の言うガルドが俺の知っているガルドと同一な訳がない! あいつが元勇者の部下になんて絶対になる筈ないからな!」

「どうしてそんな事が言えるんだ?」

「お前、知らないのか? メルトの戦いをよー。あの戦いで、奴の作戦に従事した俺達の部隊は、殆ど全滅状態になってしまったんだぞ! ガルドの奴も、その事で元勇者を絶対に恨んでいた筈だ!」


 メルトの戦いに於ける惨状については、何となくハンスも話しには聞いていた。

 しかし、ガルドはその事について、むしろ感服していたのはその場に居た彼も知っている事だ。

 その事を、どう相手に伝えれば良いのかと悩むハンス。

 目の前の男にそのまま伝えたところで、恐らくは余計に彼を怒らせる事になるだけだろう。

 瞬間的にあれこれと考えた結果、ハンスは苦し紛れに一つ願い事を申し出る。


「話の感じからして、ラグドラは今あんた達と一緒に居るんだろ? だったら本人に直接会わせてくれないか? 彼女達は、兵士として採用されてからまだ日が浅いから、軍団の長がガルドさんだっていう事をまだ知らないんだ」


 ハンスの頼みに対して、狼の獣人男が出した答えは当然の事ながら拒否であった。


「だからフザけんのも大概にしろってんだよ! それで変に気を持たせておいて、結局違う人物でしたってなった時には、お前どう責任取ってくれるつもりなんだ?」


 先ほど話した事を盾に取りつつも、実のところ獣人男が、目の前の少年とラグドラ達を会わせたくない理由は別のところに有った。

 しかし、そうとは知らないハンスは、尚も食い下がろうとする。

 その事によって彼は、この後更なる絶望を味わう事になるのだった。

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