第12話 奏多の横暴
「まぁ、そう言うわけで。俺は、小さい時から何故か知識に関する様々な記憶を持っていたんだ。仮に俺が転生者かなんかだったとしても、前世の記憶なんてものは全く無かったんだけどな」
「それに加えて、ディール様はさっきの力を使えば使う程、レベルが上がって強くなっていくって事なんですね? それで、レベルが上がる度に左手の甲に有る痣が、どんどん濃くなりはっきりしてくると?」
アルの質問に対し、ディールは端的に「ああ、そういう事だな」とだけ答える。
まだまだディールの事について聞き足りないアルは、更に質問を続けた。
「それと、ディール様は何故、始めて私と会った時にマスクを付けていたのですか?」
「副業として、冒険者をやっているからな。前にも言ったと思うが。マスクを付けている時は冒険者のフレイアだ。だから、俺がそうしている時は、間違っても俺の事を本名で呼ぶなよな」
「あっ、そうでしたよね。はい! わかりましたディール様!」
「本当に大丈夫なのか? お前、返事ばかりは良いけど、かなりの天然みたいだからな……」
「そんな言い方するなんて酷いですぅ~! 私、こう見えても、決められた事はちゃんと守る方ですから安心してください」
どの口が言う? そう言いたくなるディールだったが。気持ちだけは有ると理解して、そこはリムダの町の食堂で有った一件を持ち出す事はしなかった。
続いてディールは、もう一つ彼女に対し注意点を伝える。
「まぁ、少し怪しいけど、とにかく注意してくれよ! それと、もう一つお前に言っておく事が有る」
「はい! 何でしょうか?」
「さっき見せた力だが。あれは極力、使いたくはないんだ」
「痣が濃くなるからですか?」
やっぱり天然だな。と心の中で思いつつも、ディールはやれやれといった感じで話を続ける。
「痣の事って言うよりも、レベルが上昇するとその分、神気制御レベルってやつが減っていくんだよ。さっき見せたけど、今そのレベルは既に8,000を切っている。もしそれがゼロになった時には、どうなってしまうのか俺にも全く見当がつかない。だから、真の力についてはあまり使いたくないって話だな」
「わかりました! それじゃ私もなるべく負担をかけないようにして、ディール様がその力をあまり使わなくて済むように、いろいろと努力しますね」
アルの答えに「意外と理解力だけは有るんだな」と少し感心するディール。
しかし、彼女の次の言葉で、彼はすっかり気が抜けてしまう。
「それにしても、お化けが居なくなって安心したせいか、とってもお腹がすきましたね」
そんなアルの天然な答えに呆れつつも、ディールは一枚の円盤をウエストバッグから取り出して、それを石造りの床に置く。
すると、その円盤は紫色に輝きだし、床には魔法陣のようなものが刻み付けられた。
「これを使って、リムダの町に戻って飯食いに行くぞ!」
ディールが床に置いた円盤は、彼お手製の入場口を発現させる為の装置だったのだ。
☆☆☆
ディールとアルの二人が、グリーラッドの古城にて新生活を始めた頃。サマルキアの国王は、ある問題により頭を悩ませていた。
執務室にて、呼び出した大臣に対して報告を求める国王。
「勇者様達は、何とおっしゃっておられたのだ?」
「は、はい……そ、それが……『レベル上げに忙しいから、魔物共の討伐は軍隊でも出して適当にやれば良いだろう』と奏多様はおっしゃっておりました。それに加え『俺達には、魔物の討伐なんかよりも、神に与えられた崇高な使命が他に有る』とも……」
「何と言う事だ! 最近、国内て急激に魔物共が増え始めたと言う報告を受けたタイミングで、樹海の探索ばかり行かれてしまうとは……このような事になるのであれば、ディールの奴をグリーラッドなどに行かせるのではなかったわい!」
「しかし、レベルを上げるのが目的であれば、今国内で暴れまわっている魔物共を討伐して回ったとしても、良い戦闘経験になるはず。なのにどうして、勇者様達は樹海の探索にそれほど拘るのでしょうか?」
「そんな事はわからん! それが神のご意志だと言われてしまえば、これ以上こちらとしても何も言う事はできん」
召喚された四十名の少年少女達は現在、大陸中央部に有る大樹海の探索に勤しんでいた。
サマルキアの王都からはかなり近い距離に有る為、彼らは行っては戻るを繰り返す感じで、其々のレベル上げを兼ねた探索を行っていた。
しかし、召喚者のリーダー的な存在である奏多は、遅々として進まない樹海攻略に、かなり苛立ちを覚え始めていた。
☆☆☆
ここは樹海入り口付近に有る、とある村。
村長の家に数名の代表者達が集められ、奏多からいくつかの命令が下されていた。
「数名という事であれば、案内人を出すのは構いませんが。樹海文書が有りそうな場所までとおっしゃられますと、かなりの深部になりますので相当な危険を伴います。しかも、荷物運びの人員も三十名出すばかりか、物資まで提供しろとは。流石にそこまでは承服いたしかねますな」
村長は、奏多の無茶な要求に対してそう意見していたが。要求を出した本人は、全くその話に引き下がる事はなかった。
「神の代行者である俺の言う事が、聞けないと言うのか?」
「いえ、そんな事は勿論ございません! しかし、こちらの都合も、少しは加味していただければ有難いかと……」
「勘違いするなよ! 俺はお願いをしているんじゃない! 神の代行者として、お前達に命令をしているんだ!」
神の代行者たるにそぐわない奏多の横暴な態度に、ガタイの良い一人の男が、ついに怒りを押さえきれなくなって叫びだす。
「何が神の代行者だ! ようやく刈り入れも終わって、ただでさえ国に実入りの半分も税を納めたばかりだってのによ。冬の蓄えまで差し出してしまったら、村の者達は皆飢え死にしてしまうじゃないか!」
「それなら、神の為に飢え死にする事を選べ!」
冷徹な表情を男に対し向け、そう言い放つ奏多。
ガタイの良い男は、あまりにも冷酷なその言葉にとうとう自制が利かなくなってしまい、奏多に掴みかかろうと向かっていく。
しかし、次の瞬間。その場に居た者達は、彼の身に起きた悲惨な光景を目の当たりにする事となる。
「はーっ、はーっ、ひぃ~っ!!」
両腕を掲げながら泣き叫ぶ男。
彼の両手首は切断され、血が絶え間なく噴き出していた。
剣を鞘に納めた後、奏多はその場にいる者達に向かって宣言する。
「神の代行者である俺達に逆らえば、誰であろうとも容赦なくこの男と同じ目に遭う事になる。その辺のところを、もう一度よく考えてから行動する事だな!」
ここまで読んでいただき誠にありがとうございますm(__)m
これにて一章、終了となります。
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これから主人公のディールは、大魔道士としての片鱗も次第に見せていきますので、今後の展開にご期待ください!




