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第119話 私、異世界から参りました



 ヴィラを交えて話し合いすると言っても、彼女が宿泊している先を聞いていなかったディール。

 そのため彼は、翌日待ち合わせに指定していた場所で彼女と巫女を引き会わせる事にした。

 冒険者登録をしてからそのまま塔に向かう予定だったので、待ち合わせの場所はギルド建物内という話になっていた。


 塔にそのまま向かうと言っても、そう考えていたのはあくまでもディール一人だけであり、他の者は彼の心づもりなど理解しているわけではなかった。

 その為ロブは、当然ディールが冒険者登録をし終えた後、ヒタカミを治める巫女の元へ挨拶にいくと勝手に思い込んでいたようだ。


 翌日、一番早くギルド建物の前に到着していたロブは、独特のオーラを放つ白髪の女性を伴ったディール達を見て驚愕する。


「あなたはもしや、ヒタカミの巫女……」

「ええ、そうよ。私は、ヒタカミの巫女レイナ。あなたがアンナの神官長補佐をしているロブね?」

「はい! ご挨拶が遅れて申し訳ありません……この後で伺うつもりでしたが。まさかそちらからお見えになるとは思ってもみなかったので、誠に恐縮です」


 勝手な事を言うロブに対して、ディールはすぐに反応する。


「おいロブ。別にこの後レイナの所に、挨拶しにいくつもりなんて最初からなかったぞ」


「なっ! 何を言ってるんだ勇者殿! あんたには礼儀ってものが全く無いのか?」


 ディールとしては、話を通してあるというアンナの口ぶりからして、面倒な挨拶など必要ないと考えスルーするつもりでいた。

 しかし、その事を本人を目の前にして言ってしまう辺り、失礼極まりない話であり自由人すぎるにも程があると言えた。

 彼のそういった部分が、サマルキア王宮内で不人気だった一つの要因となっていたのかもしれないのだが。ブラックとも言える職場環境の中で、十分過ぎるほど王国の危機を何度も救ってきたのも事実だ。

 確かに、元々そう言った部分に欠けているところが有ったのも事実ではあるが。今の彼の人格は、そんなブラック環境に置かれた勇者時代にほぼ形成されたと言っても過言ではなかった。

 ルーイ11世の勇者に対する要求は、それほど過酷なものだったのである。


 あまりの失礼な言い様に、多少不機嫌そうな表情を浮かべるレイナではあったが。前日に会って話した時点で、既に彼の性質を理解していた彼女は、特にその事に対して苦言を呈するような反応も示さなかった。


 何とも言えない空気が漂う中、そんな雰囲気を変えるつもりでアルは口を開く。


「ディール様、行きましょ! あの炉りババアのヴィラちゃんがもう先に来ていて、私達の事を待ってるかもしれませんしね」


 そんな汚い表現でヴィラの事を呼ぶアルに対し、ディールは口元をひきつらせながら問う。


「アル。何であんな見た目が幼女にしか見えない()()にまで、そんなに敵意を向けてるんだよ」

「だって、あの子がディール様を見る時の目が、何だかとても嫌らしい感じがするんです。何か猛獣が獲物を狙っている時のような……そんな目でディール様の事をずっと見ているんですよ」


 アルにそう指摘されても、全くと言ってよいほど意識をしていなかったディール。

 特に気にする程の事ではないと考えた彼は、妻の進言に従ってギルドの建物の方に向かって歩き始めた。

 建物の入り口前まで来ると、ディールはアルに対して仮面を着用するよう促す。


 冒険者志望のサガとアルに扮した二人は、ロブとレイナに先立って受付の有るロビーに入っていく。

 そこにはまだ、ヴィラの姿はなかった。

 彼女が来る前に冒険者登録を済ませてしまおうと、ディールとアルの二人は受付へと向かう。

 受付嬢からそこで両替も出来ると聞き、ロブから宿代として借りた金を返す為に銀貨の交換も行ってもらった。

 登録自体はすぐに終わり、二人は晴れてアーリア大陸の冒険者ギルドに所属する冒険者となったのである。


「ランクはEからのスタートになるが、身元も良くわからん実績の無い人間だから仕方がないよな。まぁ、塔に入るだけならランクは関係無いらしいし、取り敢えず良しとするか」

「うふふ。とうとう私も本当に、冒険者登録しちゃいましたね」


 ラグドラ達と再会した国境の町での出来事を思い出し、アルは嬉しそうに登録したばかりの冒険者プレートを眺めていた。

 彼女の登録名が()()なのは、単に偽名を考えるのが面倒だった事と、そもそもその呼び方は愛称であり本名ではなかったからだ。


 二人の冒険者登録が終わったところで、タイミング良く待ち合わせ相手が受付ホールの中へと入ってくる。

 ヴィラは昨晩、生き血を頂いたロブが、独特のオーラを纏う女を伴っている事に警戒感を示す。

 その女が、自分に対してあまり好い感情を持っていないと感じた彼女は、すぐさま牽制するような発言をした。


「私に何かご用ですの? そんなに敵意を剥き出しにしてジロジロと観察されては、私としても警戒せざるを得ませんわね」

「そうね。あなたから感じる魔力が独特過ぎて、どんな存在なのかを量りかねていたところよ。それでつい、必要以上に()()を当て過ぎちゃったみたいね」

「そうですの。それで私について、どんな事を知りたいと思われているのでしょうか」


 二人が静かな火花を散らす中、戻ってきたディールはすぐにヴィラに対して状況の説明をする。


「あー、ヴィラ。この人は、試練の塔を管理する巫女でレイナって言うんだ。あまり自分の事について話したくはないようだが。端的に言うと、お前が塔を攻略したい理由について話してくれない事には、彼女的に同行を許可できないって話になってるんだよな」


 ディールからそう説明を受けたヴィラは、溜め息をついた後「わかりました。私がこれから言う事を、信じてもらえるかはわかりませんが」と前置きしたうえで、自身の置かれた事情について語り始める。


「私は、ある女神によって、この世界とは別の世界から飛ばされてきた者なのです……」


 謎の幼女が最初に発した言葉は、普通ならとても信じられないような話であった。

 まさにディールが予想していたとおりの内容だったのである。


 その後、彼女の口からは次々と興味深い内容の話が語られていくのだった。

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