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第109話 俺は応援するけどな



「まて、何処へ行くというのだ? 話はまだ終わってはおらぬぞ」


 そう言って謎の女を呼び止めるノナ。

 主人を愚弄した事を咎めて本気で殺すつもりなど勿論ない彼女ではあったが。その巫女が放つ不思議なオーラに、このままただで返すわけにはいかないと感じたようだ。


「別にこの地に対して害意も無いし、あなたのご主人様を愚弄する気なんて全くなかったのよ?」

「だが、何かを探りに来たというのは確かだろうて」


 落ち着いた口調ではあるものの、ノナの冷たい視線と強烈な魔力に観念したアンナは、その場から立ち去る事を諦める。


「確かにそのとおりね。それで、こちらの目的を話したら素直に返してくれる気はあるのかしら?」

「害意が無いと言うのであれば、正直に話す事で殺しはせんがの。話の内容によっては、素直に帰さぬかもしれん。そういう事であるから、命が惜しければ全て包み隠さず話すのだな」


 目の前に居る女が、自身の持つ力よりも圧倒的な魔力を持っていると悟ったアンナは、渋々ながらここに来た理由について説明を始める。


「もう少しいろいろと調べてから、会うかどうか決めるつもりでしたが……私がここに来た目的は、私達の住む大陸を救援してくれる勇者を探す事なのです。この大陸に、かつて魔王を名乗る者を倒した勇者が居ると聞き、本当にその資質が有るのかどうかを調査しにきたというわけですね」

「なるほど。救援依頼が目的なのは理解したが。それで、主らの大陸は何者かに脅かされているという話なのであるか?」

「そうです。あなた方の大陸からやってきた異世界人達から、()()()を守って頂きたいのです」


 異世界人と()()()という言葉を聞き、ノナは瞬間的に例の物を思い浮かべる。

 相手がわざわざぼかした言葉を、彼女は面倒だと言わんばかりに即座に言及した。


「その()()()とは、武神体(パノプリア)の事であろう? 主らの住む大陸にそれが有るのだな?」


 わざとぼかしたその物の名を言い当てられ、驚きのあまり思考停止するアンナ。

 彼女がそれについて言及しなかった理由は、調査対象の勇者がその事に値する人物がどうかを見極てからだと考えていたからだ。


 既に召喚者達には、その存在がバレている。だからこそ、今回の救援依頼となったわけだが。異世界人でなくとも、ある程度力を持った者であればそれを悪用する事もできた。

 実際にはるか昔、それを巡って大きな戦いが起きたという歴史も有るのだ。

 そのため武神体の存在は、彼女が関係する者達にとって絶対に秘匿しておかなければならない物だったのである。


「黙っているところを見ると、どうやら当たりのようであるな。隠しておきかったようだが、それを心配したところで我が主は既にその事を知っておるぞ」


 ノナから調査対象の勇者が既に知っていると聞かされ、完全に心を決めたアンナは言う。


「どうしてそれを知っていたのかはわかりませんが……既に知られていると言う事であれば致し方ありませんね。私としてはもう会うと決めましたので、もしよろしければ勇者様に私の事を紹介などして頂けませんでしょうか?」


 ノナは、彼女の言う事が図々しいにも程があると思いつつも、それと同時に別の考えが心に浮かんでもいた。


「良かろう。但し、一つ条件が有る」

「条件? それは一体どんな事でしょうか?」

「我が主が訊く事に関して、嘘偽り無く全て答える事が条件だな」

「それだけですか?」

「それだけであるな」


 もっと受け入れがたい内容を突き付けられるのだと考えていたアンナは、思いの外シンプルな条件である事に拍子抜けしてしまう。

 最も秘匿するべき武神体の事を既に知られている以上、他に隠す必要が有る物など何もない。

 そう考えた彼女は、ノナの提示した条件を承諾する。


「わかりました。その条件を飲む事に致しましょう。では早速、勇者様の元に案内して頂けますか?」

「我が主は、今取り込み中なのですぐに話をする事はできぬがの。取り敢えずその場所まで案内は致そう」


 そう言ってアンナに対し移動を促すノナ。

 謎の女性に関して興味を引かれたティナも、二人に同行して取り込み中である領主の元へと向かう事にした。


 三人が向かった先は、領主の館が有る区画内の練兵場であった。

 そこでは数日前に帰還した、マギの叙任式が行われる予定となっていた。

 今回、騎士の叙任を受けるのはマギ一人だけである。

 先に他の役職を与えられる者達の任命が行われており、彼の叙任式は一番最後になるようであった。


 他の者達の任命は粛々と行われていき、いよいよマギの順番となる。

 自信に満ちた様子で、敬愛する領主が待つ壇上へと向かうマギ。

 そんな兄の晴れ舞台に感動して、ミグは止めどなく涙を流していた。


 仲の良い兄妹の様子に少しだけ嫉妬したディールは、再び意地悪な気持ちが働き、壇上に上がったマギに対して適当に言葉をかける。


「あーマギ。今日からお前は俺の騎士だ! なんか結婚もするみたいだし、まー兎に角おめでとさんな」


「ちょ、ちょっとディール様! 何で俺だけそんなに適当な感じなんですか!? それに、結婚についてはまだ、決まった訳ではないですよね?」


 マギの結婚の件については、既に辺境伯から正式な申し入れがディールの元に届いていた。

 そして彼は、この若い臣下が結婚する事に対して素直に喜んでいた。

 しかし、当の本人であるマギは臣下である自分が、他国の貴族と婚姻関係を結ぶ事など到底許されるものではないと考えていたのだ。


「なんだマギ。お前、辺境伯の娘と結婚する気はないのかよ? ミグもその事を、凄く喜んでたみたいだけどな」


 大勢集まる前でプライベートな話を続けられ、恥ずかしくなったマギは「とにかくその話は後でしましょう」と言って式典を先に進めるよう促す。

 悪戯な笑みを浮かべたディールによって勲章は授与され、彼は正式にサマルキアが誇る英雄の騎士となるのであった。

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