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第10話 ディールの記憶



「ディール様、今の姿は一体何だったのですか? 髪が銀色に輝いて、全身から青い光が……」


 悪霊が消滅した安心感よりも先に、ディールの見せた姿に驚いてそう質問するアル。


「これが俺の真の力だ。今のを見て、俺の事が恐くなったんじゃないのか?」


 そんなディールの問いに対して、アルは平然と答える。


「いいえ、とっても素敵でしたよディール様!」


 アルに素敵だったと言われ、少し照れながらも再び問いかけるディール。


「今のを見て、全く恐いとは感じなかったのか? お前、実はかなり精神的にタフだろ?」

「そんな事はないです~。お化け、とっても恐かったですよ? て言うか、大きな黒い顔のやつ消えちゃいましたけど、ひょっとしてもう完全に居なくなった感じですか?」

「ああ、本体は完全に消えたな。多少、外に残ってるみたいだけど、まぁこれくらいなら普段の生活に支障は無いだろうさ」

「まだ、ちょっとは居るんですね……」


 少し残っていると聞いて、再び怯えだすアル。

 そんな彼女の様子に、ディールは話題を変えて気を逸らそうとする。


「それにしても、ずいぶんと見通しが良くなっちまったな……この分じゃ、城の改修工事に何百万Gもかかっちまうだろうな……」


 悪霊を消し去った神秘的な力とは別に、弾丸はそのまま物理的な破壊をもたらしていた。

 貫通した先の壁は完全に消滅し、薄暗かったフロアには外の光が射し込んでいる。


「何百万Gものお金、どうやって工面するつもりなんですか?」


 アルの疑問に対し、平然と「それくらいの金は、余裕で有るから心配するな」と答えるディール。


「ふぇ~! ディール様、とってもお金持ちなんですね? ところで、あの……ずっと気になっていたんですけど、なかなか訊けるタイミングが無くて……もし、よろしければこれから夫婦になるわけですし、お互いの事をもっと詳しく話し合いませんか?」


 夫婦になると言う話には多少引っ掛かったディールだったが、そう聞いて改めてお互いの事を全く話し合っていなかった事に気づく。

 少し悩んだ後、彼は徐に自身の事を語り始めた。


「俺は、つい最近までサマルキア王国の国家認定勇者だったんだ……」

「えーーーっ! ディール様って、あの魔王殺しの勇者、ディール・ヴァーニア様なのですか!?」

「ああ、驚いたか?」

「は、はい! めちゃめちゃ驚きました! でも、その話を聞いたら、ディール様が強い理由がよくわかりました! 魔王を倒した時も、さっきの力を使ったんですね?」

「いや、それは全く使ってないぞ!」


 先程の神秘的な力を使わずに、魔王を倒してしまったと言うディールの答えに衝撃を受けるアル。

 彼女は、その理由について何かが有るのだろうと、瞬間的に様々な考えを巡らせていた。


「さっきの力の事だけどな……実は俺自身も、よくわかってないんだ」

「どういう事です?」


 そう言って不思議そうに首を傾げるアルに対して、ディールはその全てを語り始めた。



☆☆☆



 今から18年前。彼が三歳の誕生日を迎えてすぐに、ある事件が起きた。


「ねぇ、お母たま」


 幼き日のディールに声をかけられ、優しい笑みを浮かべながら応える母のメリッサ。


「どうしたのかしら? ディール」

「お母たま、これ僕が書いたの」


 そう言ってメリッサに手渡したのは、母に宛てた手紙であった。


「あら? 私にお手紙を書いてくれたのかしら? どれどれ……」


 まだ三歳になったばかりの息子から手渡された手紙を見て、驚愕するメリッサ。


「えっ!? これ……本当にあなたが書いたの? これって、かなり教養が高い人間にしか読めない古代文字よ?」


 母のメリッサも貴族の娘である。

 この世界では、女性が教養を身につけることは望ましくないとされていた。

 しかし、彼女は立場上そういった物に触れる機会が幾度も有った為、読めないまでもそれが何であるかまでは理解する事が出来たのだ。


 一応、それらしい物を書いただけかも知れないと思ったメリッサは、確認のため息子に訊ねる事にした。


「それで、これには一体何て書いてあるのかしら?」

「お母たま大好きだよ。いつまでも、うちゅくちく(美しく)元気でいてくだしゃいって書いたの」

「まぁ! ディールったら、とっても親孝行な子で私はとっても嬉しいわ! せっかくあなたが一生懸命に書いてくれたのですもの。お父様にも、すぐに見せてあげないといけませんね!」


 そう言って大袈裟に喜びを表し、内容が正しいのかを確認する為に、息子を連れてスコットの執務室へと向かうメリッサ。


「何だこれは? ん?『お母様大好きだよ。いつまでも美しく、元気でいてください』古代文字で書かれているようだが、こんなもの一体誰が書いたのだ?」

「ディールが書いたと、本人が言っているのですわ」

「何? ディールが書いただと? そうかそうか……」


 スコットは表面的には喜びの笑顔をディールに対し向けるも、どうせ執事にでも頼んで書かせたのだろうと内心では思っていた。

 しかし、そういった空気を察する事の出来ないメリッサは、三歳の息子に対して言う。


「お父様にも、今この場でお手紙を書いて差し上げたらどうかしら?」


 余計な事を言うな! そういう目でメリッサの事を睨み付けるスコットだったが。そんな彼の心配を余所に、ディールは父に対しても同様の手紙をその場で書いて見せた。


「なっ、なんと……これは誰から習ったのだ?」


 驚愕してそう質問する父に対して、幼き日のディールは平然と答える。


「習う? 僕は誰からも習ってなんかいましぇん。大人の人達は皆、この文字を使っているのではないのでしゅか?」

「この文字は、仕事に関する書類にだけ使われる文字だ! 確かにこの屋敷の中では、むしろこちらの方が使われる事が多いが。お前はそれを、見ただけで覚えてしまったと言うのか?」


 父の質問に、不思議そうな表情をしながら答えるディール。


「僕は最初から、その文字を知っていましゅ」


 そんな不思議な事を言う幼い息子に対し、何かを感じたスコットは更に質問をする。


「ディールは、他にも知っている文字は有るのかな? もし、有るのなら、ここに書いてみてくれないか?」


 父に言われるがままに、差し出された白紙に様々な種類の文字を書き始めるディール。それを見て、スコットとメリッサは、驚愕のあまり言葉を失ってしまった。


 その日を境に母のメリッサは、実の息子であるディールの事を少し気味が悪いと感じるようになる。

 逆に父のスコットはその才能に惚れ込み、それまで以上に彼の事を可愛がるようになっていった。


 そして、この衝撃的な事実が判明した後すぐに、ディールは更に両親を驚愕させるような事件を起こすのだった。

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