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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

愛、アイ、哀

作者: 水無月 宇宙

彼が浮気をしていた。

世界で一番愛していたのに。

私以外の女を選ぶなんて。

彼はそんな馬鹿な真似はしないと思っていたのに。

はぁ、何で私ばっかりこんな目に遭わなきゃいけないのよ。

私は彼を裏切ろうなんて一時も思ったことないのに。

それに彼は浮気がばれてないと思ってる。

普段通り接してくる彼に正直嫌気が差していた。

でも今別れてあの女に渡すのはちょっと嫌。

私はこんなに苦しんでいるんだから、あいつも同じ苦しみを味わうべきよね?

どこの女か知らないけれど、私の彼を奪って平然と笑っているんですもの。

それ相応のなにかを奪わなきゃ気が済まないわ。

___そう、例えば命とかね。

なんて残酷なことを考えて、自嘲気味にふっと笑う。

できるわけ、ないのに。


「ただいまー」

いつも通り彼は鞄をソファに投げるように置き、携帯をいじり出す。

さぁ、誰とやり取りしてるのかしらね。

「今日の晩飯何?」

「…シチューよ」

「まじ?やった。沙弥(さや)の作る飯まじで美味いんよなぁ」

嘘ばっか。そういってる間も私以外の誰かと話してるんでしょ?

私なんて良いように使われるだけの家政婦よ。


「どうしたらいいのかしら」

復讐がしたい。

女を痛い目に遭わせたい。

彼を私だけのものにしたい。

___あれ?

私は、何がしたいんだっけ。

自分が何をしたいのかがよくわからなくなる。

私は女に復讐がしたくて、彼を取り戻したい……あれ?

私がもし女を苦しめたら、彼はどう思うのかしら。

私に戻ってきてくれる?

そんなわけないわよね。離れて行ってしまうでしょう。

なら、彼だけ取り戻したら?

女はいつも通り悠々と毎日を送るのかしら。

そんなのは耐えられないわ。

でも…じゃあどうしたら私はすっきりするのかしら……。

なら、第三の選択肢。

彼を女の前で殺したら?

恐怖を植え付け、彼はこれから一生私だけのもの…?

そう、それが良いわ。


暗闇にきらりと鈍く光る。

これを彼の胸に刺し込むの…?

怖いわ、私は何を考えているの。

世界で一番愛している相手を刺し殺す……なんてできやしないわ。

もういい。女を殺しましょう。

私から彼を奪った憎くて憎くてたまらない女をね。

そうすればきっと彼だって私しかいないんだと分かってくれるはずよ。

絶対にね。

ふわふわした柔らかいタオルで鋭い刃を包む。

これで簡単には見えないわ。

でも上手く刺せなくて殺せなかったらどうしましょう。

心臓を一突きかしら。それとも首の…動脈辺りを狙うべきかしら。

迷いながら私はナイフを包んだタオルをそっと持って鞄にしまう。

それから彼が帰ってくるのを待った。


決行は午前1時。

彼が私に内緒でそっと家を抜け出すのを待つ。

音を立てないようそっと歩いて彼はスマホを少しいじる。

きっと女とやり取りしてるのね。

全く、女はどんな気持ちなのかしら。

人の彼を奪っておいて平然と生きられるなんてとんだ悪党ね。

………自分が犯した罪の重さを思い知らせてやるわ。


優華(ゆうか)、こっち!」

そう、優華って言うのね。

小柄な女ね。あれなら簡単に殺せそうだわ。

鞄のなかに忍ばせたナイフをぎゅっと握って機会を伺った。

健人(けんと)くん!ごめんね、ちょっと遅くなっちゃった」

そう言って彼の腕に抱きつく。

気持ち悪い。彼は私のものなのに。触るんじゃないわよ、気持ち悪いわ。

憎しみの感情が心を支配していく。

なのに私は自分の手が震えていることに気が付いた。

怖い。

ふっと込み上げた感情に首を振る。

そんなわけないわ、私は今から復讐をするのよ。歓喜が込み上げるべきよね。

嬉しくて楽しみでしかたないはずよ。

女の幸せなんてぶっ壊してやるわ。

私の幸せを壊したんですから当然の報いよね。

自業自得ってものよ。

そう何度も言い聞かせて私は覚悟を決める。

大丈夫、殺せる。

私は復讐をするのよ。できるわ。

私がばっと二人の前に走り込むと、彼は目を見開いた。

大丈夫よ、すぐにこんな女から解放してあげるから。

そんなに怖がらないで頂戴。

すっとタオルからナイフを抜き取り女に突き付けると、女は悲鳴をあげた。

彼が手を伸ばそうとするのを阻止し、私は女と距離を詰めた。

私はナイフを女に振りかざした。

首をかっ切ると、女は目を見開いたまま倒れた。

血飛沫が夜の街に舞う。

彼は私を睨むようにして見たあと、女に抱きついた。

何をしてるの。汚いじゃない。

もうそいつと関わる必要はないのよ。

私のところへ戻ってきて。

「沙弥、何をするんだ!!優華が苦しんでいるじゃないか!この…殺人鬼!!!」

非難の目を向けられた私は意味がわからず彼に近付く。

彼は私を怯えたように見つめ、突然突き飛ばした。

何をするの。何で私じゃないの。

何で死んでるのに離れないのよ。あなたには私がいるじゃない。

何でそんな目で見るのよ。

私はこんなにもあなたのことをアイシテルのに。

アイシテ。私だけを見て。私だけをアイシテ頂戴。


サイレンの音が近付いて、彼は少し安堵の色を見せる。

何で…?私と一緒にいてよ。

一生離れないでよ。どうして私を………

「アイシテくれないの…?」

大勢の警官に取り押さえながら私は彼に問う。

昔の私と何が違うの。変わってしまったのは私だったの?

どうして私だけじゃないのよ。

混乱する頭でただ思ったのは私を愛してくれた彼のこと。

今目の前にいる彼は女を抱えながら私を睨み付けている。

変わってしまったのはやっぱりあなただったのよ。


愛していた彼に裏切られて、もう一度アイシテほしくて勇気を出したのに。


残ったのはただ、(あい)だけだった____

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