親友
エリカの父親は大手企業のやり手デベロッパーで、複合商業施設を作るためにこの学園の土地が必要で。
「立ち退きを要求しているということですね」
理解した神崎は頷いた。
「で、でもいくら仕事とはいえ娘が通っている学園を潰すような真似……」
「エリカさんは納得しているそうですよ。そもそも、エリカさんが複合商業施設を作ったらどうかとお父様に話を持ち掛けたらしいです」
そんな……エリカがそんなこと言うなんて……。信じられない私は口を閉ざす。
「学園を移転することは出来ないんですか?」
「ここと同じくらい大きな土地は見つからないでしょうし、土地が見つかったとしても建設中生徒たちはどこで授業を受ければいいのか……寝食する寮のことだってありますし」
事態はかなり深刻のようだ。私と神崎は重苦しい空気を出していたのだろう。
「そんな顔をしないで下さい。私が必ず何とかしますので、とりあえずアナタたちは教室に戻りなさい。この話は他言無用ですからね」
心配かけまいと理事長はそう言ってくれたけれど、私は不安で堪らなかった。
大事な話こそ漏れやすく千里を走るものだ。
学園がなくなるかもしれない――。
その話はどこからか漏れ、学園中に広まった。今では生徒たちの話題の中心となっている。
「お母さんはさっさと他所の学校へ転校した方がいいんじゃないかって言ってて……」
「ちなみに、この土地を欲しがっているのはエリカのお父さんらしいよ。複合商業施設を作るためだとか」
「だからエリカはずっと休んでいるんだ」
「じゃあエリカはこの話を事前に知っていたってこと? なのに今まで知らない顔して私たちと一緒に学園生活を送っていたの? 何それ、嫌な感じ――」
「ちょっと! そこうるさいわよ!」
私はエリカのことを悪く言うモブたちを窘めると、モブたちは蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
エリカがこの学園をなくそうとしているはずがない。
信じたくない私はぎゅっと拳を握りしめる。
しかし、話は悪い方へと転がっていく。
「ハナ。ちょっといいか?」
そこへ来たのは西園寺だった。
「俺の父さんから話を聞いたんだが、君の親友が西園寺ホテルの会議室でデベロッパーの父親と一緒に複合商業施設の建設計画の話をしていたって」
「そんな……」
エリカが関わっているだなんて信じたくなかった。だけど、事実は残酷だ。
「おい、ハナ。あれ――」
神崎が私を呼ぶと同時に教室がざわついた。
エリカが久しぶりに学園にやって来たのだ。
肩甲骨まである髪を靡かしながら涼しい顔で教室に入るエリカ。
そんなエリカのことを睨みつけるクラスメイトたち。
「エリカ!」
私はエリカに駆け寄る。
「今まで休んでいたのはどうして……私、エリカに謝って話したいことがあったのに」
「必要ないわ」
「え?」
エリカの冷たい声に私は固まる。
「だってこの学園はもうすぐなくなるし、私たちはバラバラになってもう会わなくなるでしょう?」
エリカは自分の席に行くと、置きっぱなしにしていた私物を鞄の中へと入れる。
「良かったじゃない、ハナ。口うるさい私がいなくなって自由にできて。今日は荷物を取りに来ただけだから。さようなら、ハナ」
エリカはくるりと回れ右をすると教室から出て行く。
「おい、ハナ! 追いかけなくていいのか⁉」
呆然としている私の肩を神崎が揺さぶる。
「う、うん。行ってくる!」
私はハッとするとエリカを追い掛けた。
「エリカ!」
昇降口を出て、正門へと歩くエリカの腕を私は掴んだ。
「待ってよ。このまま離れ離れになるなんて嫌だよ」
するとエリカは、ふっ、と嘲るように鼻で笑った。
「離れ離れが嫌? それは私のことじゃなくて西園寺くんや金剛くん、本条先輩や獅子堂先輩のことを言っているんじゃなくて?」
「そんなこと……」
「それじゃあっ」
エリカが大声をあげながら振り返る。
「それじゃあどうして私との約束を破ったのよ! 私と一緒にいる時間よりあの男子たちと一緒にいる時間の方が多かったじゃないっ!」
エリカの言葉に、私は何も言えなくなる。だって、エリカの言っていることは正しいから。
エリカのことを置いて攻略対象のもとへ行ったり、エリカとの約束を破ったり、エリカを心配させて……これじゃあ胸張って“親友”だなんて言えない。……言えるはずがない。
エリカの腕を掴んでいた私の手が、だらりと力なく下へ下がる。
「ハナは私の大事な親友だったのに……」
そのエリカの悲しくて苦し気な表情にズキリと私の胸が痛む。
「じゃあね、ハナ。これで本当にお別れね」
私はこれ以上何も言えず、その場に佇む。
ポツリ、と空から雨が降ってきた。次第に雨は本降りになってきて、私を濡らしていった。




