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ラスボスの正体

 エリカと喧嘩した日から、ずっとエリカは学園を休んでいる。

 今日も空席なエリカの席を見つめながら私は溜息をつく。

 次にエリカと顔を合わせた時に私はエリカと向き合うつもりだった。だけどエリカが休んでいるようじゃ話も出来ない。

「このままじゃいけないのに……」

「おい、ハナ! 何ボーっとしてるの。今から理事長室に忍び込みに行くっていうのにそんなんで大丈夫?」

 そうなのだ。今日は理事長が用事でいないという情報を耳にした私たちは、今から理事長室に忍び込み裏帳簿とやらを手に入れようと企てているのだ。

「理事長がいないということは黒服も理事長についていっていないはず。今日がチャンスだ」

 私たちはまるでスパイ映画の登場人物さながらにこそこそと理事長室に入る。

「ゲームでは裏帳簿は理事長室の金庫に入っている。暗証番号は110105……“イイ男”だ」

「何だか嫌な暗証番号ねぇ」

 私は暗証番号を入力すると、ガチャリと開く音がした。

 思わず生唾を飲み込む。私はゆっくりと金庫を開けた――。

「…………え?」

 金庫の中身を見た私と神崎は同時に声を上げた。なぜなら、金庫の中には裏帳簿どころか何も入っていなかったからだ。

「一体どういうこと?」

「やっぱりバグのせいで隠し場所が違うということかも」

 神崎が眉間に皺を寄せる。

 とりあえず私たちは理事長のデスクの中や色々な場所をくまなく探すことにした。しかし、どこにも裏帳簿はなかった。

「これじゃあ理事長の弱みを握れないじゃないの!」

 と、その時――ガラリと理事長室のドアが開いた。

「私がいない間に、ネズミが潜り込んでいたとは……」

 理事長が立っていた。傍らには黒服がいる。

 もしもこれが漫画やアニメなら、ラスボスの登場に、ゴゴゴゴゴゴゴ、と地響きの効果音が流れるだろう。

 マズイ。これは非常にマズイ。ゲームだと私はこのままバッドエンドを迎える運命だ。

 しかし――。

 私は諦めない。今の私がネズミだとしたら噛んでやる。まさに窮鼠猫を嚙む、というやつだ。

「理事長、裏帳簿はどこですか」

 このまま逃げられないと悟った私は正面から闘うことに決めた。

「は? 何を言っているんですか?」

「私、知っているんですから。理事長がこの学園を男好き熟女に売ろうとしていること」

「今はアナタと戯れている場合ではないというのに……この学園を売るだって? この私が? ハナさん。アナタはいつも突拍子のないことをして私を驚かせますが、まさかそんな飛躍した考えをするとは……きっと疲れているのでしょう。保健室へ連れて行きなさい」

 理事長は付き合いきれないとでも言うように、大きく溜息をつくと黒服に命ずる。黒服が私の腕を掴む。

「ちょ、放しなさいよ!」

 このままだと私は学園を追放されてセカンドライフどころか二度目の死を迎えることになってしまう!

「理事長、お金よりももっと大事なのは愛よ! 愛があれば平和になるんだから! って、ドМな理事長に愛を説いても意味ないか。だったら貶すしかない。私から離れるよう黒服に命じなさい、この豚野郎。そして私を好きになりなさい、この豚野郎!」

 すると、理事長はこめかみを押さえて頭を抱える。

「ドМだとか好きになれとか何を言っているんですか……第一、私は既婚者ですよ」

「え⁉ 既婚者⁉ 結婚指輪してないのに⁉」

「妻が金属アレルギーなので指輪はしてないんですよ」

「じゃあ西園寺の退学を止めたのは? 金剛や獅子堂のことは……」

「私はこの学園の理事長ですよ。学園を辞めたくない生徒がいれば全力で助けますし、生徒が何か悩んでいたら寄り添うのが当たり前じゃないですか」

「あぁっ!」

 そこで、今まで理事長のデスクの下に隠れていた(きっと隙をついて自分だけ逃げようと思っていたに違いない)神崎が叫んだ。

「おや、もう一匹ネズミがいたのですか」

「学園を売り出す話がない時点で何で気付かなかったんだ、理事長がラスボスではないということに」

「え、じゃあ私が学園を追放されることはないの⁉」

 よっしゃー! 私はガッツポーズを決める。

「はぁ……本当に次から次へと何なんですか一体。妄想激しいアナタたちと遊んでいる暇はないんです……しかし、ハナさん。アナタが今言った“学園を追放”されることはないですが“学園がなくなる”可能性はありますよ」

「……は?」

 再び私と神崎は同時に声を上げた。

「今日、私はある人物から呼び出されたんです。その方は大手のやり手デベロッパーで複合商業施設を作るために、この学園の土地を売って欲しいと言われましてね」

「えぇ⁉」

 叫ぶ私。

「で、理事長は何て答えたんですか?」

 神崎が訊く。

「もちろん断りましたよ。しかし相手は諦めない様子でして……これからどうなることやら。だからエリカさんはずっと学園を休んでいたのですね」

「え? どうしてそこでエリカの名前が出てくるんですか?」

「その大手やり手デベロッパーというのはエリカさんのお父様なんですよ」

「嘘……でしょ……」

 私の顔が引き攣る。

 まさか、ラスボスが乙女ゲームのヒロインの親友だなんて。そんな話、聞いたことない。


     ※ ※ ※ ※ ※


 ハナは引っ込み思案で大人しくて。だけど心優しい女の子だ。

 そんなハナを見守ってあげるのが私の役目だった。いつも、隣でハナのことを見ていた――なのに。

 進級式の日、猫を助けるために木に登って転落してから、ハナは変わってしまった。

 ガサツで突拍子のない行動をして、私の知っているハナとは別人のようで毎回私を心配させた。

 だけど私の大事な親友だから、戸惑いながらも傍に居続けていた。

 いつか、元のハナに戻るだろう、そう願いながら。

 危ない目に遭ったり、私のことをハラハラさせるハナに、ある時私はハナと約束した。

 “私を心配させるようなことはしないで”と。

 なのに、ハナはその約束を破って――。

「私、前に言ったよね? “私を心配させるようなことをしないで”って。なのに本条先輩の時だって勝手なことをして。私がどんなにハナのことを心配しているのかわからないの!?」

 今まで、ハナと喧嘩したことなんてなかったのに。

 あれ以来ハナと私は仲直りをしていない。もしかして、もう私は必要ないのだろうか。

 どうしてこうなったの? どこで間違ったの? ……いつになったら私の知っているハナに戻るの?

 そもそも、この学園が……ハナを惑わす男子たちがいるからハナは元に戻らないんだ。

 ずぶずぶと黒い感情に、私は飲み込まれていく。

 だったら、あんな学園なくなっちゃえばいいんだ。             



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