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乙女ゲームにラスボスがいた

 乙女ゲームって疑似恋愛ゲームかと思っていたのに。

「そうだ。最悪、ハナは学園から追い出されて路頭に迷うことになるかもしれない」

 どうしてバッドエンドな展開があるのよ――!

「ちょっと! 路頭に迷うってどういうことよ!」

 すると神崎は深刻な顔をする。

「このゲームのラスボスにして最難の攻略対象が理事長なんだ。理事長は金にがめつくて、学園の人気者である西園寺、金剛、本条、獅子堂がいるこの学園を他所へ売り渡そうと企んでいるんだ」

「何だよそれ!!」

 私は仰け反る。

 理事長は西園寺、金剛、本条、獅子堂の悩みがあると、必ず私に相談して(本条の場合、私を挑発していたけれど)彼らを繋ぎとめようとしてきた。西園寺の時なんて、退学を阻止してくれた。まるで西園寺を辞めさせるわけにはいかないというかのように。

 しかし、それらは全て理事長の野望のためだとすると、私は納得する。

「で、大金を支払って学園を買った新しい理事長というのは、男好きの熟女で西園寺たちに好意を寄せられているハナが気に入らず学園から追い出してしまうんだ。学園から追い出され、行く当てのないハナは野垂れ死にエンドまっしぐらだ」

 端折っていたが、ハナには家族がおらず寮生活を送っているという設定だ。つまり寮が家と言っても過言ではない。

「つまり、この学園が男好き熟女に渡ってしまったらそこでバッドエンド確定だ。だからハナ、君は何が何でも理事長の計画を止めてこの学園を守らなければならない」

「あの理事長にモブ喪女の私が勝てるわけないでしょうが! 第一どうやって理事長と闘うのよ⁉」

「闘うって……これはバトルゲームじゃない、乙女ゲームだ。最初に説明しただろう。このゲームの最難攻略対象が理事長だってことを。つまり、理事長にハナのことを()()()()()()()()()()いいだけのことだ」

「オッサンを攻略しなきゃならないってどういうこと!?」

「まぁ、オッサンでもイケおじの部類に入るし。そこは受け入れてくれ……」

 私は大きく溜息をつく。

「いわば私はキャバクラ嬢になればいいってことね。理事長という客を私にメロメロにさせれば勝ちというやつ」

 私の発言に「乙女ゲームをキャバクラと一緒にしないでよ」と神崎は呆れる。

「とにかくアンタのプレイした知識がどこまで通用するかわからないけど、私たちのセカンドライフのために頑張るわよ!」

「別に僕はハナがバッドエンドを迎えようがどうなろうと関係ないけど。だって僕に害はないし」

 何だコイツ。薄情な物言いにとりあえず、二の腕をグーパンしといた。


 と、いうことで。私は神崎と(勝手に)同盟を組んだ。この世界のヒロインであるハナ()がバッドエンドにならないように。

 ちなみにゲームでハナはどうやって理事長を攻略したのか神崎に訊こうとしたと同時に授業終了のチャイムが鳴った。

 さすがに二限連続で授業をサボるのはマズイとのことで私たちは教室に戻る。

「ハナ! 授業に出ないでどこにいたのよ!」

 教室に入るや否やエリカが私に詰め寄る。私と同じタイミングで教室に入った神崎を見てエリカの顔が険しくなった。

「まさか神崎くんと一緒にいたの?」

「あー……いや、神崎が道に迷っていたから私が助けてあげていてね、そしたらこんな時間に……」

「学園内で迷ってどうして教室に戻るのがこんなに遅くなるのよ!」

 エリカのごもっともな発言に私は何も言えなくなる。

「本当にどうしちゃったのよハナ。前まではそんなんじゃなかったのに、どうして……」

 エリカの目に涙が溜まる。

 これはマズイ。本気で怒っている。

「エリカ……」

 私はエリカに触れようとした。が。

「触らないで!」エリカは声を荒げると私の手を払う。「私、前に言ったよね? “私を心配させるようなことをしないで”って。なのに本条先輩の時だって勝手なことをして。私がどんなにハナのことを心配しているのかわからないの!?」

 エリカは涙を流すと教室から飛び出した。

「待って! エリカ!」

 私は追い掛ける。

 しかし、思っていたよりもエリカは俊足で私の足では追いつくことが出来なかった。息を切らし、ゼエゼエと荒い息を吐く。エリカに追いつけないとわかると私はみっともなく教室に戻るのだった。

「いやぁ、バグ(こっち)の世界でのエリカがあんなヒステリーキャラだとは驚いた」

 私とエリカの修羅場を間近で見ていた神崎が、はぁ〜と感嘆する。

「他人事だと思ってるでしょ。エリカは私の大事な親友なんだからヒステリーとか言わないでよ。全て私のことを大事に思ってのことなんだから」

()()ねぇ」

 意味あり気に呟く神崎。

「それよりも理事長の攻略方法を教えなさいよ」

「金にがめつい理事長は裏帳簿を隠し持っている。それをハナが見つけて脅すんだ」

「脅す⁉ なんじゃそりゃ! 引っ込み思案で優しいヒロインどこ行った⁉」

「すると理事長が『この私を脅すなんて君が初めてだ。思わずゾクリとしてしまったよ。もっと私をゾクゾクさせてくれ』とドМ化して攻略」

 ラスボス最難攻略対象がドМ化って、このゲーム作ったやつ頭おかしいだろ。

「しかし、最難だけあって裏帳簿を見つけるのが大変なんだ。理事長の手下の黒服に見つかると即バッドエンドになるし裏帳簿は厳重に管理されているから。それにここはバグの世界だ。どこに裏帳簿を隠しているのか見当もつかない」

「とりあえずアンタのプレイした方法でやっていくしかないわね」


 こうして、私たちは理事長を攻略するべく作戦を練った――のだけれど。


 数週間、一か月経っても、理事長が学園を売るという話もなければ、噂さえも耳に入らない。私たちは毎日、平和な学園生活を送っていた。

「ちょっとどういうこと? 理事長に何も動きがないけど」

 私と神崎は空き教室で机を向かい合わせていた。

「おかしいな……」神崎は首を傾げると「もしかして“神崎ナオト”を攻略しないとダメなのか?」と呟く。

「あ、アンタが攻略対象だったこと忘れてたわ。他の攻略対象より地味だし友達みたいだから」

「まぁ“神崎”はゲーム内で一番人気がないキャラだしね」

「そんな落ち込まないでよ。私が言いたいのは、アンタといると落ち着くってこと」

 だって転生者の神崎は、なんだかナオちゃんと雰囲気が似ていて、話していると懐かしい気持ちになるのだ。

「きっと転生者同士だからかな。落ち着くわけだ」

 神崎はふっと笑う。

 もうこのままセカンドライフ突入ってことで良い気がする。

 私は大きく背伸びすると、机に突っ伏した。          


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