私も僕も転生者
私、ハナこと月並花子は居心地の悪さを感じていた。
それは、連日のように転校生からガンを飛ばされているのだ。
私が早弁している時も、授業中居眠りから起きた時も、真っ先に転校生・神崎ナオトと目が合うのだ。
私アイツに何かしたっけ? 思い返すが記憶にない。
いや、自分に心当たりがないだけで何かしてしまったのだろうか?
私が思い悩んでいると、校内放送を知らせるチャイムが鳴る。
あ、嫌な予感がする……。
「高等部一年のハナさん。至急理事長室に来てください」
はい、出たー。何かある度に理事長から呼び出しを喰らう私。
最初は毎度面倒なことに巻き込まれていた私も、今ではすっかり慣れてしまった。
しかし――……。
「理事長だって⁉」
神崎ナオトが席を立つと大声で叫ぶ。
まるでアニメの主人公がしそうなリアクションに私含め教室にいる皆が神崎ナオトに注目する。
神崎は険しい顔をしていた。その顔で私をじっと見つめる。
何なのよアイツ本当に。たじろいだ私は神崎から目を逸らすと教室を出た。神崎の視線から、逃れたくて。
理事長がニコニコと微笑んで私を見ている。
「用件があるならさっさと言って下さいよ。今私は見られることに恐怖を感じているんですから」
「おや。どうしてですか?」
「自意識過剰とかではなく、私のクラスに来た転学生がめっちゃ私のことを見てくるんですよ」
「転学生というのは神崎ナオトくんですか?」
「そうそう、その男子!」
すると理事長は不思議そうに首を傾げる。
「何を言っているんですか? 神崎くんはハナさんの幼馴染じゃないですか」
「うぇっ⁉」
衝撃の事実に私の口から変な声が出た。
「神崎くんとは初等部まで一緒に過ごしていたハナさんの友達ですよね。大事な友達を今まで忘れてしまってたんですか?」
そんなことを言われたって記憶がないのだからしょうがない。
だけど、そのおかげで合点がいった。どうして神崎は私のことを見ていたのかということを。
ん? 待てよ……幼馴染ということは、神崎ナオトは攻略対象になるのでは? そこで新たな疑問が私の中で生まれる。
「まぁ神崎くんと四年ぶりの再会ですから忘れることも無理はない……ことはないですよね。幼稚舎ならまだしも初等部で別れた自分の幼馴染を忘れるだなんて……」
あの理事長が、理解できずに混乱している様子がなんだか珍しい。そんなレアな姿の理事長を私は黙って眺めていた。
「えぇい、煩わしい。せっかくなら本人に喋らせましょう」
理事長が指をパチンと弾く。
すると、「うわぁっ」と廊下から叫び声が聞こえた。
そして理事長室のドアが開くと、そこには黒服に捕まった神崎がいた。
「盗み聞きだなんて悪趣味ですよ。そんなにハナさんのことが気になるのですか? ハナさんの幼馴染の神崎ナオトくん」
「アンタ、何を考えているんだよ」
キッと睨み、やけに理事長に突っかかる神崎。
「幼馴染なんだからハナさんのことを見ているだけじゃなく最初からハナさんに話し掛ければいいのに」
「そうよ!」
そこで私はやっと口を開いた。
私の中で生まれた新たな疑問――今まで攻略してきた(自覚はないけど)キャラたちは積極的にハナに話し掛けてきたりそうなるよう周囲のお膳立てがあった。しかし、この神崎ナオトは傍観するだけでアクションを起こそうとしないし、何もなかったのだ。
「アンタ一体何者よ……」
私の小さな呟きに神崎が反応した。
「何者だって? それはこっちの台詞だよ」
神崎は黒服から腕を振り払うと、私に詰め寄る。
そしてソファーに腰掛けている私の背もたれに手をついた。
何これ⁉ 壁ドンならぬソファードンか⁉
「お前、本当にハナか? 僕の知っているハナとは違うんだけど」
眼鏡越しに私を見る神崎の目が鋭い。
エリカは本来と違う“ハナ”に対して疑問は持っていたけど、すんなりと受け入れたというのに。神崎は、違う。
まるで意思を持っているようで。
どうして、そんな言葉が出たのかわからない。でも確信があったのかもしれない。
だから。
「まさか、アンタも転生者なの……?」
「なんだって?」
神崎の顔に動揺の色が見えた。
「だってアンタは他のキャラと違って意思があるもの。もしかしてこの乙女ゲームを知っているんじゃないの?」
「お前……」
私と神崎は見つめ合う。
「ちょっとちょっと。ラブストーリーは他所でやって下さい。もうすぐ授業の開始時刻ですから早く教室に帰った帰った」
しっし、と野良犬を追い払うように理事長が私と神崎を追い出す。
元はと言えばアンタが私を理事長室に呼んだんでしょうが! と言いたいことは飲み込んだ。
それよりも、今は神崎のことが優先だ。
「おい、どこに行くつもりだ」
教室と反対方向に進む私に神崎は声を掛ける。
「授業なんてサボるに決まっているじゃない。私はアンタと話の続きがしたいの」
こうして、僕たちは中庭にある東屋に来た。
来る道中、僕はハナが転生する前は喪女モブの女子高生だったことや、このゲームをプレイしたことがないことを知る。
「――まさかハナが転生者だったとは……。いや、考えてみれば引っ込み思案で大人しいハナがガサツな時点で気付くべきだった」
「ガサツで悪かったわね」
「しかし、どうやってキャラたちを攻略したの? 君はゲームをプレイしていないんでしょう?」
「えっと西園寺はゲーセンに行ったり一緒にハンバーガーを食べたりして……あ、あと西園寺の父親が勝手に西園寺を退学させようとしたのを校舎から飛び降りて阻止したわ」
「飛び降りた⁉」
「そんなに驚かなくて大丈夫よ。下が花壇だったから怪我はなかったわ」
ケロリと答えるが問題はそこではない。野性的すぎるのだ。
「でもまぁ、それで西園寺は昔からの夢だったピアノの調律師を目指すことになったんだよね?」
「ピアノ? そんな話は一切なかったけど」
「え⁉ 西園寺がハナのためにピアノを弾くあの感動的なシーンがなかったの⁉」
「う、うん」
頷くハナ。
「じゃあ金剛は? 金剛の時はどうだった?」
「金剛は私が花壇をめちゃくちゃにしたことに怒って教室にやって来たのが始まりね。金剛は中等部一の悪と言われていたけど本当は心優しい少年で、だけどこの街のヤンキーに絡まれて大変な思いをしていて。あ、ちょっと聞いてよ! 金剛のせいで私ヤンキーに拉致られたんだから!」
「待て待て待て」
僕は頭を抱える。
そんな展開、ゲームにはない。
それから本条や獅子堂とのやり取りも聞いたが、僕の知っているストーリーと食い違いがあった。
「――つまり、ハナじゃない“ハナ”のせいでバグが起きてストーリーが歪んでしまったというわけか」
「ちょっと、私が悪いみたいに言わないでよ」
「まずいな……。僕の知っているストーリーではないとすると、このままハッピーエンドを迎えられるかわからない」
「ちょっと待って、ハッピーエンドってどういうことよ。バッドエンドもあるってこと?」
目を瞬くハナ。そうだ、コイツは乙女ゲームをプレイしてなかったんだ。
僕は頷くとハナを真っ直ぐ見つめる。
「そうだ。最悪、ハナは学園から追い出されて路頭に迷うことになるかもしれない」




